平成15年度第2回徳島県立博物館協議会議事関係資料(2)

 

公立博物館評価の現状

1 庁内の行政評価の一環として行われる場合
(1)特徴
・経費と動員力など「数値」的成果が問われることが多い→事業縮小・廃止など
・トップダウン式…博物館事業の意味や特殊性についての考慮は少ない
(2)動向
・四国でも行政評価の導入は広汎に見られるが,博物館までも対象にした例は少ない
 (http://www.hasebe-jp.com/link/shikoku.htm)
・全国的には,博物館を対象とした行政評価は,かなり行われている(東京都の事例が有名)
・愛媛県(http://www.pref.ehime.jp/hyouka/hyouka11.htm)…事業費別の評価。博物館関係は,「縮小」「執行方法の改善」が多い

2 博物館内で計画・評価指標を策定する場合
(1)特徴
・前項のパターンへの対抗的手段として,日本博物館協会でも推奨
・博物館の理念・目的(運営改善)の明確化とそれに基づく計画化…合意形成に難あるが,博物館の存在意義を理解した(しようとしている)人たちの意見が集約される
・館内の行動にとどまり,行政組織内で認められるルートがない場合が多い
・外部評価と連動する場合とそうでない場合に分かれる
(2)動向
・四国では取り組み事例なし
・全国的には,静岡県立美術館が著名(所管課で評価委員会を設置)。その他,長野県立歴史館,横浜市歴史博物館など
・兵庫県立人と自然の博物館…「新展開」の策定→組織改編・評価制度の導入

3 大学やコンサルタント業者等の外部機関と連携する場合
(1)特徴
・2と同様に博物館の存在意義を前提として,第3者的に現状と課題を把握できるメリット
・「評価のための評価」ではなく,以後の運営にどう反映するかを明確化する必要がある
・行政組織との関係を考慮した取り組みが必要…設置自治体の施策(環境,文化,観光等)への反映が可能になるような仕組みづくり
(2)動向
・四国の例:高知県文化財団が,同志社大学の河島伸子氏に委託して行った高知県立美術館事業評価プロジェクト
・全国的にも,このタイプの事例は少ない
 滋賀県立琵琶湖博物館が立命館大学と共同で行った評価,江戸東京博物館がプランニング・ラボと共同で行った常設展評価など

 

博物館評価の手順

 

 

徳島県立博物館の活動目標及び評価指標(素案)

●徳島県立博物館の役割及び成果・課題―目標設定の前提

1 設置理念と基本的な性格
 徳島県立博物館(以下,「県立博物館」とする)は,『徳島県立博物館基本構想』(昭和59年1月)に基づいて建設された。この基本構想には,当館の基本理念と基本的性格が規定されており,これらが活動の目標であり,指針となってきた。
 その内容は次のとおりである。

(a)基本理念
・郷土に根ざし世界に広がる博物館―徳島の自然,歴史,文化の資料を総合的に展示し,全国的・世界的なかかわりについても理解できる施設
・開かれた博物館―博物館の活動に県民のだれもが参加でき,楽しみながら学び,考え,豊かな知識を高めることのできる施設
・研究を大切にする博物館―学術的な調査研究,資料の収集を通して,常に新しい展示と情報を広く提供する施設
・文化財を守り自然の保全をめざす博物館―県民の貴重な文化的資料を永久に保管するとともに,文化財と自然の保護に努める施設

(b)基本的性格
[1]人文科学〔考古,歴史,民俗,美術(近代美術関係を除く。)〕自然科学(動物,植物,地学)の両者が有機的に結びついた総合博物館とします。
[2]収集保存,調査研究,展示,教育普及の四つの機能を備え,本県の文化学術,教育及び生涯学習のセンターとしての役割を果たします。
[3]国内外の博物館,研究機関等と緊密な協力体制をとります。
   また,文化の森総合公園に建設が予定されている民家資料展示場,植物園等の施設はもちろん,県内の博物館,博物館相当施設,類似施設等と相互協力し,その中核的博物館としての性格を持つものとします。

 これらを踏まえて,県立博物館の果たすべき役割,追求すべき機能は次のようにまとめられる。

 徳島県に関する歴史・文化,自然に関する資料を,学術的基盤にもとづき,また比較の視点をもって調査・収集するとともに,その成果を広く提供して県民の自主的な学習に資する。
 とくに学術性を担保したコレクションの蓄積は,博物館だけが担える役割であり,また,人文系・自然史を併せ持つ総合性は県内では県立博物館だけの特質として,有効に活かされなければならない。すなわち,研究機関,社会教育・生涯学習機関という二つの側面が結合した博物館として機能するものである。

2 活動の成果
 県立博物館は平成2年11月に開館して以来,13年を経た。これまで,資料の収集保存,調査研究,展示,教育普及といった機能をバランスよく展開することを目指してきた。その概要は,毎年刊行している年報で示しているとおりである。
 とくに,地元大学に自然史や人文系諸学に関連する専門の学部がなく,研究者層が薄いことから,県立博物館が研究の推進やその成果の社会還元のために果たしてきた役割は特筆してよいだろう。
 この間,社会状況の変化(例えば,学校教育との連携の必要性の増大,ボランティア導入の社会的要請など)にも対応すべく努めてきたし,一博物館の枠内で活動を考えるのではなく,研究機関や博物館等との相互協力も進めてきた。インターネットを利用した情報発信も推進し,県立博物館の保有する情報資源の積極的な活用に取り組んできた。

3 課題
 前項のような成果が見られる一方で,課題も少なからずある。1995年から検討を開始しながら,実現のめどが立たない常設展更新はその最たるものである。その他,主要な問題点や課題を挙げると,次のとおりである。

 (1)活動目標
 資料収集については,平成15年度に収集方針を改訂したが,他の機能については,明確な目標がないままで,個々の事業の位置づけが曖昧である。事業にメリハリがなく,目標に照応した評価が行われないことは,質的停滞を招きつつあると思われる。
 また,予算が縮減されつつある現状では,運営全体に関してコスト意識を持つことも必要だが,そうした面での取り組みも弱い。目標設定と評価の実施により,その点の克服を図ることも必要であろう。

 (2)各種連携
 事業の遂行において,行政,大学・研究機関,学校教育,他の博物館との連携による活動が多くなってきている。また,県民やマスコミからの問い合わせへの対応も増大している。
 しかしながら,これらの多くには県立博物館としての明確な方針はなく,状況追随的であったり,職員の個人的なレベルの対応に留められている。とくに対行政・マスコミ支援は,県立博物館に蓄積された資料や情報,知的資源が活用されているものであるから,ひとつの活動領域・博物館利用の形態として明確化すべきであろうし,専門的な能力を県政のなかに明確に位置づけられるような組織改編も検討すべきである。また,後継者養成という観点からの大学との連携のあり方も,今後の検討課題となるだろう。
 なお,電話やEメール等による問い合わせについては,博物館利用のひとつのあり方として位置づけ,利用者統計等にも反映すべきである。

 (3)利用者
 展示観覧者や普及行事参加者などの利用者数は減少傾向にある。とくに常設展においてその傾向が著しい。博物館の直接的な利用者の大半は,徳島市から車で片道1時間程度の範囲に限定されており,遠隔地では未だに博物館利用の経験がない県民が少なくない。移動講座や県内博物館施設との共同での展示を開催するなどの取り組みはあるが,すべての県民に知られ,また利用されることを目指した事業展開を意図する姿勢は弱い。

 (4)県民の参画
 (3)に関連する問題である。「開かれた博物館」を標榜しながらも,実質は県立博物館が主体となった学習機会の提供に限定されている。各種ボランティアの導入など,県民の自主的・創造的な参加機会を生み出す努力に欠けているし,利用者団体である友の会の育成も進んでいない。

4 複合文化施設としての文化の森総合公園の中の博物館としての視点
 県立博物館は,単体で存在するのではなく,複合文化施設としての文化の森の中に位置づけられている施設である。その意味からは,文化の森がこれから何を目指していくのか,また,開園当初のにぎわいを取り戻すには何をすべきか,そのためにはどのような運営形態が適切かといった将来構想が必要となる。そして,その中での県立博物館の位置づけを追求すべきである。
 また,未完の「伝承の森」整備も,県立博物館と関連するものとして今後の方向性を考えなければならない。

●活動目標及び評価指標の設定の考え方

 前章で述べた,県立博物館の望まれる姿や,成果と課題を踏まえ,当面の活動目標は,資料収集保存・調査研究機能への立脚とその強化,生涯学習の推進を柱に据え,かつ県の財源不足からも,より一層の効率的運営を図る観点から設定されるべきであろう。
 次章に目標及び達成を計るための指標を掲げるが,これらのうち,当面,重点的に取り組むべき課題は,次の諸点である。
 (1)目標の作成と達成の評価
 (2)県民及び県行政における知名度・存在感の向上
 (3)運営支援システムの構築,県民参加による活性化
(4)シンクタンク事業の確立

●目標及び評価指標

1 運営(マネージメント)
(1)徳島県における知名度・存在感の向上
●指標:広報の拡大・浸透
・広報活動の強化…メディア利用,広報紙の紙面改革と配布ルートの改善,インターネット利用(館のホームページだけでなく,他の団体等の情報提供ルートも活用)
・県域に広がる事業構築
●指標:地域の活性化への貢献
・県外からの入り込みの向上…ゴルデンウィーク,夏期休業期間(とくに阿波踊り期間)

(2)利用の促進
●指標:利用者数
・展示見学団体数と地域的広がり…主に学校団体をターゲットとする
・児童生徒の来館促進…次世代を担う年齢層でありながら,利用が少ないため,開拓すべき市場と考えて対策を図る
・普及行事への参加促進
・レファレンス等来館利用の促進
・非来館型利用の促進…電話相談・取材,ホームページ利用

(3)柔軟で活力を生み出す開かれた博物館運営
●指標:目標の作成と達成
・博物館運営への外部評価の実施と結果の公開…適切な評価システムの整備
●指標: 運営支援システムの構築,県民参加による活性化
・ 民間等のノウハウ導入の検討
・友の会を母体とした運営支援組織の設立(NPO法人)を視野に入れた取り組み
・県内大学とのタイアップによる学生ボランティアの導入の働きかけ

2 展示
(1)充実した展示の開催と空間の有効活用
●指標:企画展・特別陳列の充実
・個々の企画の目的意識と集客目標数の明確化及び質の向上…学術性追求型,アミューズメント性追求型
・満足度の向上
●指標:企画展示室の利用促進,多目的活動室を利用した大型企画展の開催
・閑散期を中心とした企画展示室利用回数
●指標:常設展の改善・充実
・常設展示室を利用したプログラムの開発
・部門展示(人文)等における展示替えによる収蔵品公開の促進
・改善状況

3 資料収集保存
(1)特色あるコレクションの整備
●指標:特色ある質の高い資料の収集
・資料収集方針と調査研究活動のリンク…収集状況の公開と情報提供・収集への協力の呼びかけ
・寄贈・寄託の受け入れ促進

(2)教材的資料の整備
●指標:館内における体験的事業や学校等への貸出に対応するための資料を収集する
・収集状況
・周知状況

(3)収蔵資料活用の促進
●指標:未公開資料の新規公開
・展示,広報その他における,コレクションの紹介
●指標:資料特別利用の件数
・学校教育支援用貸出のPR,貸出件数の増加
・博物館資料の閲覧

(4)データベースの整備・活用
●指標:資料情報の活用状況
・資料データベース登録数の拡大
・各種データベースの整備及び公開状況
・データベース利用件数
・他機関の所持する関係情報の把握

4 調査研究
(1)調査研究機能の強化
●指標:調査研究課題の設定等に関する体制の整備
・個別課題,共同課題等の検討…学芸員間の相互理解,多分野にわたる総合調査
●指標:専門的研究活動の活性化
・学術論文・著書数
・学術ネットワークの推進…国内外における学術交流事業数,共同研究・プロジェクト数
・研究資金の獲得…文部科学省科学研究費補助金等の助成金の採択件数
・徳島県及び全国レベルの研究振興への貢献…学芸員の成果発表会,学会・研究会の開催,運営への関与
・学術刊行物(研究報告など)の出版状況
●指標:県政や地域の課題に関わる研究及び研究成果の社会還元
・論文・著書数
・調査研究成果(+収蔵資料+常設展内容)に関する一般向け刊行物(自然と歴史ガイド)の出版状況

(2)調査研究機能の活用―自治体等からの受託調査研究
●指標:受託件数
・持てる能力の活用→PR
・環境及び生物相の調査
・文化財の保存・修復
・人文系資料の調査
・博物館等運営ノウハウの調査

(3)研究者の育成
●指標:大学生・大学院生等の受け入れと指導
・大学等との連携
・地域に即した視野をもった人材育成

5 教育普及
(1)県民のニーズに応えた多様な学習機会の提供
●指標:提供する学習機会の拡大と利用状況
・新規行事の開発…歴史・文化や自然に親しむ,児童生徒を射程に入れる
・広域的展開…移動展や共催展,移動講座等の開催,連携施設・会場の開拓,共同事業立案
・PRを促進,受講者の満足度の向上…受講者数,新規受講者数,アンケートにおける満足度評価,再受講率
・マスコミ関係…新聞・雑誌への寄稿,テレビ出演
・講師派遣の拡大…他団体主催の講演会等への学芸員の派遣回数(講演会数),講演会聴講者数,大学非常勤講師委嘱件数
・各種研修の受け入れ…博物館実習,人権関係研修等

(2)学校教育支援の継続と組織化
●指標:学校教育の支援状況(貸出,助言,講師派遣等)
・対応内容の整理と計画化
・学校との共同授業
・教員のための研修・講習会

(3)県民参画型活動の展開
●指標:友の会の充実
・会員数(継続加入率向上)
・事業の再編…イベント開催型運営の見直し,博物館運営支援活動の強化
●指標:ボランティアの導入状況
・ボランティア導入事業と人数
・友の会を母体としたボランティア…収集・調査,普及行事支援,常設展ツアー,企画展監視・解説

6 徳島県歴史文化・自然環境シンクタンク
(1)シンクタンク事業の創設
●指標:シンクタンク事業の明確化
・県立博物館の収集保存・調査研究事業の蓄積の活用を前面に打ち出し,新たな事業として柱立て

(2)県民のためのシンクタンク
●指標:館員が関与したプロジェクト数
・行政(知事部局及び県教委の関連部課)に対する専門知識・ノウハウの提供→県組織の中で存在感を高め,予算・組織体制の強化を図る…各種委員会参画数・分野別拡大,予算配当替えのルール化
・企業・団体等への専門知識・ノウハウの提供…企業等への指導助言件数,相手先数
●指標:レファレンスの拡大(PR),年間レファレンス件数
・レファレンス件数…マスコミ等からの電話・訪問による相談件数,行政関連の相談件数,一般県民相談件数
・相談者層の拡大