美波町赤松の正月飾り

一　門飾り

　事例一

　K家では、毎年年末に直径一0センチメートルぐらいの松を切ってきて、門の両脇に支柱として立て、片方にはサカキと「シロカシ」という葉の白いカシの枝をくくりつけ立て、もう片方にはサカキと普通のカシ（カシの種類はたくさんあるので、わからないが、この当たりではただカシといっているもの）の枝をくくりつけて立てた。注連縄は一、五、三に足を出したもので、中央にウラジロをつけ、檀那寺からもらった「モンブリ」を糸で結びつけた。また、檀那寺から、モンブリのほかに三枚のお札をもらうが、それら三枚は門の両脇に立てたマツの支柱にはりつけるものであった（写真一）。

　二00七年現在、門飾りは省略しており、玄関の戸の上部中央に注連縄をつけ、その中央にモンブリとお札三枚をまとめてつるしている。また松の小枝を玄関の両脇につけている（写真二）。

　また、門の両脇と便所の建物の前には、川原からとってきた砂を盛り、大晦日、正月三日、七日、一五日の晩御飯の前ぐらいに線香に火をつけ立てる。この習わしは、K家だけではなく、赤松地域で行っている家が何軒かあるという。またK家の奥さんの里である旧相生町横石でも同様の習わしを行っていたという。年配の人が悪魔避けのためにするといっていたという。

＊写真一　檀那寺から配布されるモンブリとお札

　四枚のうち、蘇民将来子孫門と記された札をモンブリという。他三枚のお札について特別の呼称はない。

＊写真二　正月の玄関の様子

　事例二

　O家では、二00七年現在もかつてと同様な門飾りをしている。　O家では、門脇で線香に火をつけて立てるという、習わしは、行わないという。

　

　二　年棚

　事例三

　K家では、土間からあがる前座敷の上方に「オタナ」と呼ぶ棚を用意し、おまつりをしていた。棚の両脇にはササの枝に餅を花のようにつけたものを飾り、また「カケノウオ」と言うカツオ、タイ、イワシの魚を干したものをつるしていた。お神酒、餅をお供えした。この棚では「おショウガツさん」をまつるといった。

　現在は、オタナを省略し、床の間の前の皿鉢に、カケノウオなど入れて、オタナでのおまつりをしている（写真七）。

＊写真七　K家の正月の床の間の様子

　オタナとは別に、正月の床の間には、天照大神の掛軸を掛け、三方を置き、おまつりをする。一番手前にある盆、皿に置いてあるものが、かつてオタナでしていたおまつりの替わりである。

　床の間の掛け軸下には、左から氏神である赤松神社の神符、皇太神宮の神符、家の主人と奥さんそれぞれが、参詣した社寺から貰い受けた札が一つずつ、順に置かれている。

　事例四

　O家では、現在もオタナを設けおまつりしている（写真八）。「おショウガツさんをおまつりする」としている。かつては、餅をつけるササの枝には、飾りものなどもっとにぎやかにつけるものであった。またオタナにつるす魚は「カケノウオ」というが、自分の家で用意したイワシ、タイ、カツオなどを二匹一組にしてつるすものであった。オタナにつける注連縄は一、五、三の足を出したもので、イチゴの葉、ワカバ（ユズリハ）、ウラジロをはさむ。注連縄は、つけてから奇数日にはずすという言い伝えがあり、赤松では大晦日から数えて五日目の一月四日にはずすところが多いという。

＊写真八　の二00七年一月九日のO家のオタナ

　注連縄ははずしてあったが、もう一度つけてもらったところを撮影したもの。

　三　餅をお供えする場所

　事例五

　K家で、正月を迎えるにあたって、餅をお供えするとされる場所は次のとおりである。

・オタナのお正月さんに一組

・床の間の三方の上に一組（ほかにイセエビ、子芋がたくさんついたサトイモなどの供物を置く。元旦に家族全員がこの三方を頂き、置いてある供物を食べる。）、皇太神宮に二組。

・常設の神棚に三組（写真九）。

・台所にまつっている荒神に一組（写真一0）。

・仏壇のホトケさまに一組

・納屋の米の貯蔵庫上にまつっている、エビスと大黒にそれぞれ一組ずつの二組（写真一一）。

・屋敷内家屋横にまつっている家の守り神に三組（一つはサクラソウゴロウをまつっていると聞いている）。

・屋敷外、塀のすぐ脇にまつっているコウジンとオフナトに一組づつ、二組（写真一二）。

＊写真九　神棚

　床の間左手の上方にまつっている。

＊写真一0　台所にまつっている荒神棚

＊写真一一　納屋にまつっているエビス、大黒の棚

＊ 写真一二　屋敷外にまつっている右コウジンと左オフナトさん。

　四　トシトコさん

　赤松では、正月元旦に「クワゾメ」という行事を行うとされる。屋敷外、近くの田や畑に「トシトコさん」というのをまつり、そこで行事を行うという。

　事例六

　K・R家とO家では、トシトコさんは、「ハゼ」と呼ぶ木で枠をつくり、両脇にサカキを立て注連縄を張る。ハゼの木の枠の中には、イチゴの葉の上に、ナマスとヒノキでつくった箸に和紙をはさんでのせたものを、干支の数である一二置いてまつる。

　クワゾメの行事は、元旦、家族みんながトシトコさんの前に集まって手を合わせて拝み、家の当主が鍬をもって三回ほど耕し、そののちまた皆が手を合わせて拝むというやり方をした。拝む方向は、その年の明けの方向という。また、正月を迎えるために張った注連縄は、はずしたらトシトコさんの前に集めておいておくという（写真一七）。

＊写真一七　O家の二00七年一月九日のトシトコさんの様子

　五　お正月さんの杖

　赤松では、正月一五日に「お正月さんの杖」というものをこしらえて、お正月に迎えた神様を送る行事がある。

　事例七

　K家では、「ハゼ」と呼ぶ木でこしらえた杖に一年の月の数である一二枚の葉のついたワカバ（ユズリハ）の枝を挿したものをお正月さんの杖として用意する。閏年は一三枚の葉がついたワカバの枝を挿すとされる（写真一八）。

　一五日早朝にお粥をたき、そのお粥を入れた器を杖でかき混ぜて、オコウジンさん、オフナトさんをまつっている祠の上にあます（実際の行為は、粥をまぜた杖を祠の上におくこと）という。ごくろうさんでございましたという気持ちをこめてお正月さんを送るという。お粥はかつては、チョーケ（手桶）に入れていた。お粥をお供えするということはしなかったという。

＊ 写真一八　お正月さんの杖