企画展「人間に光あれ―被差別部落に生きた人びと―」
(徳島新聞1994.4.24朝刊に掲載されたもの。一部改変)

 

 現代における深刻な社会問題のひとつに同和問題がある。私どもは、この現実を踏まえ、同和問題を含む人権問題について考える場を設けようと、企画展「人間に光あれ―被差別部落に生きた人びと―」を開催することにした。

 博物館の展示として、差別の問題を正面から取り上げた例は少ないので、まれに見る試みといえるだろう。

 周知のとおり、同和問題は歴史の中から生まれた。したがって、問題の解決のためには、歴史的事実への認識を深めることが欠かせない。こうした考え方から、企画展では、被差別部落の歴史・生活文化を明らかにし、人びとのたくましい暮らしぶりや社会的役割について理解を得ることに主眼をおいている。

 展示は、4コーナーから構成している。まず「被差別部落とは何か?」で、近世・近代における差別のありさまや解放への歩みを概観する。展示資料は、検地帳や差別戒名墓碑などの近世資料、全国水平社荊冠旗、全四国水平社大会チラシなどの水平社運動資料である。

 次に「社会を支えた仕事―差別のもとで―」において、被差別部落の人びとが携わってきた仕事を紹介する。近代のものが主だが、農業、林業、運搬、ワラ細工、履き物づくり、蓑づくりなど、さまざまなものを取り上げている。展示資料は、各種の道具類や製品などの民俗資料である。

 三番目は「芸能に生きる―人形つかいとその周辺―」である。阿波の伝統芸能である人形操りの芸を中心に、芸能者としての被差別民衆の存在にスポットを当てる。三番叟(さんばそう)まわしの道具、芸能に関する絵画・古文書などを展示する。

 最後は「人間に光あれ」と題するコーナーで、差別の実態、差別解消への取り組みなどを紹介する。写真や各種の同和問題啓発資料が主な展示資料である。

 以上のような展示に関連して、二つの企画を用意した。

 一つは「芸能から人権を考える」である。山路興造氏の講演「被差別民衆と芸能」、山口県の猿舞座による猿まわしを行う。もぅ一つは「映画から人権を考える」で、「潤(ユン)の街」を上映する。多くの方のご来場を願っている。

 

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