教師のための博物館利用講座

 

 「博物館って、どんなところ?」と聞かれたら、皆さんはどう答えるだろうか。おそらく多くの方が「いろいろなものが展示されている場所」といわれるのではないだろうか。
 確かに、展示室を抜きにした博物館は考えられないし、そこには館の基本方針に基づいたストーリーに沿って、主要な収蔵品が並べられている。博物館の「主張」が込められているといってもよい空間である。だから、博物館へ行けば、まず最初は展示室を目指すことにしよう。
 そこからが問題だ。律儀に最初から最後まで、つぶさに見ないといけないという強迫観念は根強い。だが、本当はそんなに一生懸命見なくてよいのだ。ぶらぶら歩きながら、ふと立ち止まってつまみ食いすればよい。そうする中で、何か「面白そうだな」と思えるコーナーや資料があればそれでよい。特に知りたいことがあって行ったのなら、その部分だけを見て帰ってもよい。そして、また日を改めて訪ねてみよう。前に見たところを復習するのもよいし、前に見なかったコーナーものぞいてみよう。きっと今まで知らなかった何かが見つかるだろう。
 こうした「常設展」の場合、いつも同じ内容だと思われがちだが、実はそうではない。新しい資料がいつの間にか展示ケースに収まっていたり、コーナーが新しく作られていることもある。そんなに頻度は高くないかもしれないが、新しい資料や情報が盛り込まれ、できるだけ鮮度を保つよう配慮されている。今度は何が違うのかということを探すのも楽しい。展示室にいる解説員やボランティアの人に、わからないことを聞いてみるのもよい。ここまで来れば、あなたは博物館通だ。
 とはいうものの、展示室(常設展)を「見る」だけでは、ホンモノではない。同じ展示でも、期間限定でテーマを絞った、中身の濃い特別展・企画展が開催されることがある。常設展とは違った内容の展示だけに見逃せない。また、博物館には、いろいろな図書や雑誌も揃えられているし、館が発行する広報紙、展示解説書や図録、研究報告書などもある。展示室に出ていない資料も、収蔵庫にはたくさんある。講演会や実習、見学会など、各種の催し物メニューも豊富だ。これらを使わないのは、あまりにももったいない。館の出版物には最新の情報が入っているし、催し物に参加すれば、そこでも新しい発見や疑問があるだろう。博物館は、楽しみながら、いろいろなことを学び取ることができる施設でもある。
 そのほか、こんなこともあるだろう。歴史の授業で弥生時代の米作りを学習する。今の農業と何が同じで、何が違うのか、こどもたちに分かりやすく話したい。そんなときには、一人で調べることも大事だが、行き詰まったら博物館へ行こう。展示や図書はもちろんだが、博物館には「人」がいるからだ。
 博物館には学芸員といわれる専門職員がいる。博物館は資料の収集保存、調査研究を進め、それらの成果を展示や教育普及活動に反映させる。こうした活動を担っているのが、学芸員だ。したがって、博物館の展示は勝手にできあがるのではなく、同様に資料などもどこからか集まってくるのではない。学芸員は、その活動の中でいろいろな情報を集めている。会って話をすれば、新たなヒントが見つかるだろう。
 ここまでの話を少しまとめてみよう。博物館には「資料(もの)」「情報」「人」が詰まっている。「資料(もの)」と「情報」をつなぐのが「人」=学芸員である。これらはいうなれば博物館のもつ資源だ。それを包み込む建物を「箱」に喩えるなら、至極便利な道具箱といってよいと思う。目的なしに行っても何か発見がある。疑問を持っていけば解決の糸口が見つかる。博物館とは利用するためにあると考えてよいのだ。
 ところで、こんな悩みをよく聞く。曰く、博物館を授業で使いたいが、遠いので行けないと。なるほど、確かにそうだろう。博物館の近くにある学校は限られている。そこであきらめてはいけない。博物館によっては、学校移動展をしていたり、授業用に資料を貸し出してくれるところもある。学芸員が学校に来てくれる場合もある。私の勤務先の場合、学校貸出用資料のカタログを作成して、県内の学校に配布している。それを見て、例えば空襲の資料を使いたいという要望があったりする。また、学芸員にビオトープづくりの指導をしてほしいとか、火おこしの体験学習をしてほしいとかいう依頼もある。何がしたいのかという目的さえ明確であれば、博物館はできるだけの配慮をしてくれるはずだ。躊躇せず相談してみよう。
 最近では、WEBサイトを立ち上げている博物館も多い。そこを入口として、情報を検索したり、電子メールを利用して相談することも可能だろう。だが、それですませるのは惜しい。ぜひ、博物館の「資源」を大いに活用してみていただきたい。
 こんな経験をしたことがある。ある小学校から太鼓をテーマにした総合学習への協力を求められたので、小学生たちに実物の太鼓を見せ、触れてもらった。一瞬にして目が輝き、感触を確かめ、音を鳴らしてみるその姿は、とても印象的だった。実物の迫力に優るものはないと実感した。だからこそ、学芸員の立場からも、博物館をうまく使ってほしいと思っている。
 いささか込み入ったが、博物館の活動は様々で、だから目的に応じて使い方はいくらでもアレンジもできるということをお話ししたかったのだ。これだけ知れば、今まで以上に博物館を楽しめることは間違いないと思う。何はともあれ、まずは近くの博物館へ行ってみよう。それが「使う」ための第一歩になるはずだ。