調 査 研 究 事 業

 調査研究は、博物館における諸活動の根底をなすものである。それは、質の高い調査研究に裏付けられてこそ、最新の情報を盛り込んだ展示や質の高いコレクションの収集、内容豊かな普及活動が可能となるからである。
 当館の調査研究事業には、複数の学芸員グループで、必要に応じては館外の研究者も含めて、特定のテーマを定めて年度単位で集中的に取り組む課題調査、各学芸員がそれぞれの分野や専門とするテーマに基づいて日常的に取り組んでいる個別調査研究、翌々年以降に予定されている企画展のための事前資料調査などがある。
 現在、館長を含む14名の学芸スタッフがこの業務に携わっている。

 

1.課題調査

 平成14年度は、次の3つの課題調査を行った。

(1) 牟岐大島・出羽島の自然と暮らし

 大島及び隣接する津島は海部郡牟岐町から約4kmの洋上にある無人島である。これらの島は、離島であることなどの関係からいずれも人工林をまったく見ないため県南の植生を知る上で貴重な存在となっている。また、出羽島は県内でも数少ない人が住む離島であり、早くから漁業を中心として開けた土地である。島内は宅地・耕地が多いものの、南面の大池には世界的に珍しいシラタマモが自生しているなど県内でも特筆に値する地域と言える。自然環境としては、牟岐町の多くは暖温帯植物区に入るものの、津島・大島・出羽島などではアコウをはじめとした亜熱帯植物の混成が目立ち、林床には様々な腐生植物が見られるなど特異な植物が分布していることも知られている。これらのことから、三島を中心とした牟岐町の周辺の島々を調査することで、県南部を特徴づける自然及び人文的データが多数得られると期待される。しかし、津島・牟岐大島・出羽島を含むその周辺の島々の自然や人文に関する調査は古いものしかなく、最近の現状はまったく不明と言える。そこで、徳島県立博物館として、この津島・牟岐大島・出羽島及びその周辺の島々について、2年間にわたりさまざまな分野での総合調査を行うこととした。

●調査メンバー
 博物館学芸員:大原賢二(昆虫)、小川 誠(植物)・茨木 靖(植物:調査主担者)、中尾賢一(地学)、高島芳弘(考古)、長谷川賢二(歴史)、庄武憲子(民俗)、磯本宏紀(民俗)
 館外調査員:木内和美(植物研究家・牟岐町文化財保護審議会委員)、佐治まゆみ(植物研究家)、吉田一夫(市場町職員)

●調査の概要および結果
 14年度は、本調査の1年目として、次のような分担で調査地域全体の概要を把握することを目標に調査を行った。14年度の調査では島の生物相の概要が明らかになり、特に植物では、ウミヒルモ、ネコノシタなど貴重な植物が見いだされるなどの成果があった。

 大原賢二(分担:昆虫類の幼虫・成虫調査)
 小川 誠・茨木 靖(分担:植物相調査)
 中尾賢一(分担:地質と貝類化石について)
 高島芳弘(分担:考古学的調査)
 長谷川賢二(分担:歴史的位置づけについて)
 庄武憲子・磯本宏紀(分担:民俗風習について)

 

(2) 恐竜産出地点周辺の地質と化石

 勝浦町立川渓谷の小さな沢の中で、白亜紀の代表的な草食恐竜であるイグアノドン類の歯の化石が発見されたのは1994年4月のことだった。発見者は当時高知大学学生だった菊地直樹氏で、西南日本外帯で2例目、四国では初の恐竜化石であった。その年の8月に合同の現地調査が行われ、結果は徳島県立博物館研究報告第5号に報告された。恐竜化石を含んでいた地層は淡水〜汽水環境で堆積した立川層の最上部付近であることが明らかになった。
 それ以降も、化石資料や情報の蓄積が進んでおり、汽水〜淡水性の化石を比較的豊富に産出することがわかってきた。しかしこのフィールドで研究を行っている研究者は、各地に分散している。それぞれが独自に研究を進めていることもあって、現状では全体像が見えにくくなってきている。
 本調査では、立川渓谷の恐竜発見地点付近の地層から産出する各種の化石を系統的に採集し、立川層形成当時の堆積環境に関する新たな情報の追加を計った。立川層の調査を行っている主要な研究者に館外調査員として加わっていただき、総合的な調査を行った。

●調査メンバー
 博物館学芸員:中尾賢一(地学:調査主担者)、両角芳郎(地学)
 館外調査員:菊池直樹(御所浦白亜紀資料館)、石田啓祐(徳島大学総合科学部)、香西 武(鳴門教育大学)、橋本寿夫(藍住東中学校)、平田正礼(高知市)

●調査日程
10月11日:調査の打ち合わせ
10月13日〜14日:勝浦町アゲノ谷周辺での調査と化石採集

●調査の概要および結果
 調査前半は、アゲノ谷とその対岸の沢で、徹底的な大型化石の探索を行った。その結果、足印化石の可能性のある堆積構造や四足動物の骨片と考えられる化石を発見し、その多くを採集した。これらの化石の多くは、やや石灰質で潮汐作用による堆積構造が発達した泥質岩に入っていた。また、淡水性二枚貝化石の産出層準をおさえ、多数の化石を採集した。その他、ナンヨウスギ化石など、これまで報告のない化石の産出も確認した。
 調査の後半では、立川層最上部〜羽ノ浦層最下部にかけての層準で、綿密な露頭観察と化石採集を行い、詳細な柱状図と地質図を作成した。この調査から、従来の立川層と羽ノ浦層の境界の定義は見直しが必要なことがわかった。

 

(3) 徳島県の半翅類調査

 徳島県の昆虫相解明のために、外部の研究者にも参加してもらいながら、平成12年度からの2年計画でスタートさせたが、セミ科のエゾゼミ類の調査がまだまだ不十分であると考え、14年度も延長して調査を継続することとした。また水生のグループ(異翅目の一部)についても、より詳細な調査が必要であり、秋から冬季の越冬中の調査を重点的に行うこととした。

 3年目となる14年度は、水生半翅類、特にアメンボ類を調査するために初夏から調査を行い、夏期のエゾゼミ類の調査と共にため池の調査を重点的に行った。結果的には水生半翅類についてはかなりの成果が得られ、これまでの文献上の記録も含めて徳島県及び四国における水生半翅類の概要を研究報告にまとめた。エゾゼミ類に関しては、発生期の天候が極めて不順で、生息地付近では雨や曇りの日が多く、全国的にも発生数がきわめて少ない年となったようで、成果は上がらなかった。

●調査メンバー
 博物館学芸員:大原賢二(動物)
 館外調査者:林 正美(埼玉大学教育学部)

●14年度調査の成果

[1]徳島県のエゾゼミ
 7月27〜30日に夏季のエゾゼミ類を中心とした調査を行った。28日に神山町から木頭村までのスーパー林道周辺で調査。29日、三好郡山城町野ガ池山、30日に三好郡池田町雲辺寺山、脇町大滝山での調査を行った。天候が悪く数頭が鳴いているにすぎず、スギが高すぎて採集はできなかった。
 三好郡山城町野ガ池山の調査後、途中の河川敷で水生半翅類の調査も行い、徳島県初記録となるオモゴミズギワカメムシを採集した。

[2]徳島県の水生半翅類
 5月16〜19日、11月20〜23日、15年2月7〜9日の3回、林氏と共に調査を行った。名東郡佐那河内村の八反池、徳島市内の渋野町、麻植郡川島町と阿波郡市場町にまたがる善入寺島、美馬郡脇町および阿南市などの淡水湿地、ため池、海岸を中心に調査を行った。

・前年度も触れたが、善入寺島は吉野川の中流域にある流域最大の中洲で、中に2つの池があり、一つは市場町、一方は川島町に位置する。ここでは全国的にも貴重なイトアメンボがかなり見られ、今年度の調査では、オキナワイトアメンボ、ヒメイトアメンボも同時に採集され、3種が同所的に棲息していることがわかった。このような場所はこれまでの調査では他に知られていない。 また、川島町側の池では、晩秋にきわめて多数のオオミズムシが見られ、エサキアメンボも発見されている。

・阿南市の各地に見られるため池では、それほど環境のいいところは発見できなかったが、ミズムシ類が見られ、調査が進めばこれまでよりもかなり多くの種が発見される可能性は高い。

・脇町周辺のため池はこの1年のうちに、すでにいくつかが埋め立てられており、このような水環境の保全についても、その対策を急がねばならないと感じた。

 

(4) 星河内美田銅鐸の復元に関する調査

 銅鐸をはじめとする弥生時代青銅器の分布と変遷に関する研究は当館の調査研究テーマの柱の一つとして掲げており、資料収集方針としても銅鐸およびその製作技法に関する資料の収集に努力してきた。
 銅鐸の製作技法の研究についても、X線透過撮影なども応用し、さまざまな視点から調査を続けている。平成12年度には課題調査として「復元銅鐸の製作に関する基礎調査」を行った。
 徳島市上八万町より出土した星河内美田銅鐸は、1932年の出土後まもなく細片に破壊され、4ヶ所に分散されて保管されることとなったため、ごく初期の調査によって7点の銅鐸があったことは知られるが、その後詳細な調査はされておらず、形式などについても不明な点があり、一部の研究者をのぞいて一般にはもとの形を想像することすらできない状態となっている。
 本課題調査では、県内出土銅鐸の調査研究の一環として、全国に分散して保管されている星河内美田銅鐸の破片を一堂に集め、詳細な調査を行うことによって、その形式や原状を確定し、県内に特徴的に見られる星河内美田タイプ銅鐸の原状を一般県民にも容易に理解できるようにするため復元品を製作するための基礎的なデータを集めようとしたものである。

●調査メンバー
 博物館職員:高島芳弘(考古)、魚島純一(保存科学・考古)
 館外協力者:難波洋三(京都国立博物館)、小泉武寛(金属工芸家)

●調査の概要

[1]銅鐸破片の写真撮影および接合関係等の確認
 東北大学及び同志社大学歴史資料館の協力を得て、それぞれに保管されている星河内美田銅鐸の破片を借用し、写真・X線撮影を行うとともに、接合関係等を確認し、できる限り正確に原状を推定するためのデータを収集する。

[2]X線透過撮影および蛍光X線分析による調査

[3]調査結果の検討と原状復元図の作成
 難波氏、小泉氏とともに実物の観察を行い、類例などとも比較することによって原状の検討を行い、あわせて鋳造欠陥等の検討を行い、復元鋳造のためのデータとする。文様構成、各文様の寸法などの確認、接合関係から全体の慨寸が判明した場合、原状復元のためのイメージ図を作成し、復元鋳造の資料とする。

●調査の成果

[1]破片の接合関係の確認
 東北大学、同志社大学歴史資料館、そして当館に分散して保管されている破片を一堂に集め、写真撮影を行った後に、それぞれの破片の接合関係を確認した。
  これまでに明確になっているものの他に、いくつかの新しい接合関係が確認でき、全体像の解明に役立った。

[2]X線透過撮影および蛍光X線分析による調査
 ある程度接合関係が明確になった段階で、X線透過撮影及び蛍光X線分析を行った。その結果、特徴的な鋳造欠陥を持つ個体が確認されるなど、接合関係の確認を追認する結果を得ることができた。データの詳しい分析は今後さらに時間をかけて行っていきたい。

[3]全体像の推定
 類例との比較やそれぞれの個体における文様構成の特徴、破片の位置などから、各個体の識別、総個体数の類推等の作業を行った。
 その結果、7個体あるいは8個体の銅鐸の存在が確認でき、これまで言われている7個体がまとまって出土したという事実が確認できた。ただし8個体の存在をうかがわせる要素もあり、この場合はこれまでの記述等が誤りであった可能性も残る。

 

2.分野別(個別)調査研究

●大原賢二(動物・昆虫)
[1]日本産ハナアブ科の分類学的研究  
[2]徳島県のヒラズゲンセイの分布調査
[3]アサギマダラの移動調査
 アサギマダラの移動について、14年度も継続してマーキング等の調査を行った。マーキング調査への協力者も増えつつあるが、14年度の移動記録はきわめて少なく、特に徳島県からの移動が1頭も記録されなかった。
[4]マレーゼトラップによる県内の昆虫相の調査
 名古屋市の名城大学農学部昆虫学教室の山岸健三氏と共同で、14年度の1年間、文化の森総合公園内に2カ所、佐那河内村大川原にある「県立生き物ふれあいの里」の構内に1カ所、上勝町旭ケ丸の標高800m付近に1カ所の計4張りのマレーゼトラップを設置し、2〜4週間間隔で回収を行って、その付近の昆虫相の調査を行った。
 すでに約2万頭の標本が作成、科までの同定後、当館に納められており、今後の調査研究用資料として保管されている。今後もいくつかの地点を選んで設置し継続して調査を行う予定である。

●佐藤陽一(動物・脊椎動物)
[1]県内の淡水魚類相調査
 県下の淡水魚類相調査の一環として、県下各地で 調査を行った。
[2]勝浦川に生息する魚類の生息環境に関する研究
 調査データ(1999〜2001年)に基づき、魚類の生息を予測するためのモデル化手法の比較を行った。徳島大学工学部建設工学科との共同研究。
[3]徳島市国府町以西用水に生息する魚類の生息環境に関する研究
 徳島大学大学院工学研究科エコシステム研究科との共同研究。
[4]メダカとカダヤシの種間関係に関する研究。
 徳島大学大学院工学研究科エコシステム研究科との共同研究。
[5]松茂町中喜来地区に生息する魚類の生息環境に関する研究。
 徳島大学工学部建設工学科との共同研究。

●田辺 力(動物・無脊椎動物)
[1]県産無脊椎動物相の調査
 鳴門市にて海岸無脊椎動物相の調査を行った。
[2]ヤスデ類の進化生物学的および分類学的研究
 ババヤスデ属の分類学的再検討を報告した。また、本属の交尾器形態の進化要因についての研究を進めた。
[3]ヤスデ類の毒成分の分析
 ヤスデ類2種について毒成分について報告した(大村 尚、桑原保正氏と共同)。

●小川 誠(植物)
[1]三野町の植物相調査
 平成14年度阿波学会の調査の一環として、三野町の植物相調査を行った(木下 覚、木村晴夫氏らと共同)。
[2]博物館の情報提供におけるインターネットの利用に関する技術的研究
前年度に引き続き、博物館のホームページの全文検索および他博物館との共通検索システムを構築した。
[3]ヨモギ属の分布調査
 日本産ヨモギ属の分化と分布の現状を探るため、島根県での分布調査を行った。

[4]県内の絶滅危惧種の調査
 徳島県版レッドデータブックを作成し、さらに普及版の編纂に携わった。

●茨木 靖(植物)
[1]県産植物相の調査
 麻植郡美郷村奥野々山を中心に、植物相の調査を行った。
[2]ススキ属の比較研究
 国内外の博物館、研究機関より世界各地のススキ属の標本を借用し、その異同、分布などに関しての調査を行った。

●両角芳郎(地学)
[1]日本の上部白亜系の化石層序に関する研究
 阿讃山地の和泉層群から産出するノストセラス科 アンモナイトの分類学的検討を行った。また、かつて研究して記載・図示した個人標本で、その後に公的博物館で保管されている標本について調べ、研究報告に投稿した。
[2]勝浦川流域下部白亜系産化石に関する研究
 羽ノ浦層から産出した頭足類の分類学的検討を行った。

●中尾賢一(地学)
[1]沖積平野の堆積学的・古生物学的研究 
 高知市中央部と縁辺部の沖積層から産出した貝化石を分析した。一部の資料については年代測定を行い、古環境の変遷を調べた(三本健二氏と共同)。
[2]浅海性更新統の堆積環境と貝化石相の調査
 長崎県と愛知県で堆積構造の観察と貝化石の採集を行った。
[3]三野町の地質調査
 平成14年度阿波学会の調査の一環として、三野町の中央構造線系断層の露頭調査を行った(橋本寿夫 氏、森江孝志氏らと共同)。

●高島芳弘(考古)
[1]縄文時代の石鏃の形態の変異に関する調査
 鮎川遺跡を中心とする那賀川流域で採集した石鏃の図化を行い、基礎資料の蓄積を行った。
[2]若杉山遺跡の範囲の検討
 若杉山遺跡の近くの由岐水銀鉱山丹波坑口付近で採集した石杵の性格について検討し、合わせて若杉山遺跡の広がりについての検討を行った。

●魚島純一(保存科学・考古)
[1]県内出土銅鐸の調査
 県内出土銅鐸、特に昨年度購入した伝徳島県内出土銅鐸に見られる鋳掛けについてのX線透過撮影や蛍光X線分析などを行った。また、今年度課題調査として取り上げた星河内美田銅鐸(徳島市上八万町出土)についても、出土地の確認、出土状況の聞き取り調査等を行い、課題調査の基礎的な資料とした。
[2]臭化メチル燻蒸に替わる燻蒸法の研究
 これまでに試作した窒素を使った簡易な燻蒸装置(バルーン)を用いた博物館資料の燻蒸以外にも博物館資料の燻蒸に有効な方法を探るための検討を行った。植物標本においては低温処理による殺虫を試みることとした。
[3]外部依頼による調査、燻蒸処理等
 香川県埋蔵文化財調査センター、高知県埋蔵文化財センター、高松市教育委員会などの依頼を受け、出土文化財の蛍光X線分析による材質調査を行った。
 県内教育委員会、博物館施設などの文化財保管施設からの依頼を受け、古文書、民具などの燻蒸処理を実施した。
[4]新設博物館施設の環境調査
 徳島県立文学書道館の新設に伴う館内環境の調査を実施し、空調機の運転や設定、温湿度測定等の必要な処置についての助言を行った。同館はその後、東京文化財研究所による環境調査を実施し、国宝・重要文化財の展示が可能であるとの評価を得ている。

●山川浩實(歴史)
[1]関ヶ原合戦に関する現地調査
 1600年(慶長5)に行われた美濃国関ヶ原合戦における蜂須賀至鎮隊の陣地について、「関原御陣立図」(国立公文書館蔵)、「関ヶ原合戦図」(名古屋市秀吉清正記念館蔵)の二つの絵図からその陣地の場所を特定し、現地調査で確認した。
[2]大坂冬の陣に関する現地調査
 1614年(慶長19)行われた大坂冬の陣における蜂須賀至鎮隊の陣地(東本願寺別院)や、その周辺の本町橋付近を調査し、企画展の展示資料とするため、写真撮影を行った。

●長谷川賢二(歴史)
[1]熊野三山奉行成立過程の研究
 従来から行っている修験道史研究の一部をなす。修験道本山派中枢組織において重要な位置を占めたとされる熊野三山奉行の成立について、新たに園城寺関係系譜に基づく情報を整理して分析を進めた。
[2]中世期書写大般若経の調査研究
 香川県大内町水主神社外陣大般若経に見える阿波国海部郡薩摩郷の現地比定に関する研究史を整理し、研究報告13号に報告した。また宍喰町大日寺所蔵大般若経を調査したほか、神山町勧善寺所蔵大般若経の奥書を再検討して奥書データベースを作成した。

●庄武憲子(民俗)
[1]神山町のくらしについての調査
 神山町史編纂にあたって、専門委員として神山町での暮らしぶりについて調査を行った。
[2]三野町の盆棚習俗についての調査
 阿波学会において三野町に伝わる盆棚の習俗についての事例収集分析を行った。
[3]盆棚についての調査
 徳島県内に伝わる盆棚の習俗についての事例収集と分析を行った。

●磯本宏紀(民俗)
[1]潜水漁及び漁村構造に関する調査
 県南部の漁村を中心に展開される潜水漁を中心として、その空間利用、労働慣行、 生業の複合性について調査を継続中である。漁村間で生じる地域差とを探り、その根底にある移住や出稼ぎ通じた労働慣行や漁具の受容についての検討を目指す。
[2]阿讃峠道と山村のくらしに関する調査
 三野町を中心にして阿讃峠道に関連する伝説、交通、交易関係について昭和初期から現在に至るまでの変遷について調査した。
[3]唐竿の地域差に関する調査
 四国民具研究会での共同調査の一部である。上板町立歴史民俗資料館の収蔵資料及び当館収蔵資料と中心にして唐竿の形態、材質等の特質について調査した。なお、県内唐竿調査については次年度も継続する予定である。

●大橋俊雄(美術工芸)
[1]徳島藩にかかわる美術作品の調査研究
 阿波の絵師、工芸職人の作品と史料について所在調査を行った。
[2]藤重の研究
 徳島藩に抱えられた京都藤重家について、文献資料を調べた。
[3]飯塚桃葉の研究
 飯塚桃葉の作品の比較検討を行った。

 

3. 文部科学省・日本学術振興会科学研究費補助金による研究

●基盤研究(B)一般(1):二次草地の保全に向けた施策立案のための学際的・保全生態学的研究
(平成14〜16年度)
研究代表者:鎌田磨人(徳島大学工学部助教授)
当館の研究協力者:長谷川賢二、庄武憲子、磯本宏紀

 

4. 他機関との共同研究 

●(社)土木学会四国支部受託研究の共同研究:「正木ダムに係わる河川環境総合調査」
(平成10〜15年)
研究代表者:岡部健士(徳島大学工学部教授)
当館の共同研究員:佐藤陽一

 

5.研究用試料の提供

●動物
 徳島県産ツキノワグマ剥製体毛 若干数 名古屋大学大学院環境学研究科
 徳島県産メダカ活魚 若干数 神奈川県立生命の星・地球博物館
 徳島県産トウヨシノボリ縞鰭型活魚 若干数 兵庫県立尼崎北高等学校

 

6. 研究成果の公表

(1)徳島県立博物館研究報告第13号
 2003年3月31日発行、B5判796ページ、1,200部
(*は館外研究者)

林 正美*・大原賢二・岩崎光紀*:徳島県の水生半翅類.p. 1-27.
中尾賢一・三本健二*:高知市布師田とはりまや町における完新世貝類相の変遷とAMS 14C年代.p. 29-40.
高島芳弘.徳島県阿南市の由岐水銀鉱山丹波坑口付近で採集した石杵−若杉山遺跡の広がりと関連して− p. 41-51.
長谷川賢二:中世阿波の薩摩郷をめぐる史料と考証− 昭和前半期における郷土史家浪花勇次郎の周辺を中心に−.p.53-63.
橋本寿夫*・中尾賢一:四国東端の伊島から得られた白亜紀放散虫.p.65-75.
茨木 靖・木下 覺*:キダチノネズミガヤの徳島県での記録.p.77-79.

 

(2)博物館ニュース "Culture Club" 欄記事
磯本宏紀:春を知らせる年中行事−徳島県の太々神楽−.No. 47, p. 2-3.
山川浩實:徳島藩の蒸気船−セントロイス号など購入の顛末−.No.48, p. 2-3.
小川 誠:絶滅から植物を救うために.No. 49, p. 2-3.
田辺 力: 生きものへの二つの接し方.No.50, p. 2-3.

 

(3)当館刊行物以外への掲載(*印:館外研究者)

●査読付学術雑誌掲載論文

<動物>
佐藤陽一・岡部健士*・竹林洋史*(2002.05)徳島県勝浦川に生息する魚類の出現/非出現の予測モデル.魚類学雑誌、49(1):41-52.
Kuwahara, Y.*, H. Omura*, and T. Tanabe (2002. 7) 2- Nitroethenylbenzenes as natural products in millipede de fense secretions. Naturwissenschaften, 89: 308-310.
Tanabe, T. (2002.12) Revision of the millipede genus Parafontaria Verhoeff, 1936 (Diplopoda, Xystodesmidae). Journal of Natural History, 33: 2139-2183.
Omura, H.*, Y. Kuwahara*, and T. Tanabe (2002. 12) 1-Octen-3-ol together with geosmin: The new secretion compounds from a polydesmid millipede Niponia nodulosa. Journal of Chemical Ecology, 28: 2595-2606.

<植物>
Syamsuardi*, H. Okada* and M. Ogawa(2002. 12) A new variety of Rannunculus japonicus (Ranunculaceae) and its genetic relationships to the related species of set. Acris in Japan. Acta Phytotax. Geobot. 53(2): 121-132.

●著書

<動物>
佐藤陽一(2002.11)魚の困った名前―差別的和名をどうするか.青木淳一・奥谷喬司・松浦啓一編「虫の名,貝の名,魚の名:和名にまつわる話題」、東海大学出版会:172-191.
小池啓一*・小野展嗣*・町田龍一郎*・田辺 力(2002. 7) 小学館の図鑑・NEO「昆虫」.小学館,207 pp.

●一般著述(単行本・図書)

<動物>
大原賢二(2002.3)総合博物館の中の自然史.徳島博物館研究会編「地域に生きる博物館」,教育出版センター:135-157.
佐藤陽一(2002.3)博物館における生物の差別的和名の使用―アンケート調査から―.徳島博物館研究会編「地域に生きる博物館」,教育出版センター:240-261.
佐藤陽一(2002.3)魚類.那賀川町史編さん委員会編「那賀川町史,上巻」,那賀川町:121-133.

<地学>
両角芳郎(2002.3)博物館の学芸組織に関する一考察.徳島博物館研究会編「地域に生きる博物館」,教育出版センター:97-107.
中尾賢一(2002.3)資料整理・登録の方法−徳島県立博物館の地学資料の場合−.徳島博物館研究会編「地域に生きる博物館」,教育出版センター:225-239.

<考古>
魚島純一(2002.3)博物館施設における燻蒸をめぐる課題と展望―特に小規模な博物館施設が抱える問題を中心に―.徳島博物館研究会編「地域に生きる博物館」,教育出版センター:193-203.

<歴史>
長谷川賢二(2003.1)近世阿波の藍商人 盛家の巡礼資料.巡礼研究会編「巡礼論集2 六十六部廻国巡礼の諸相」,岩田書院:191-204.
長谷川賢二(2002.3)博物館における展示と部落問題.徳島博物館研究会編「地域に生きる博物館」、教育出版センター:262-282.

<民俗>
庄武憲子(2002.3)第三章 年中行事;第五章 民間療法.那賀川町史編さん委員会編『那賀川町史 下巻』、徳島県那賀郡那賀川町:754-791、824-828.

●一般著述(逐次刊行物、その他)

<動物>
大原賢二・中峯浩司*(2002.12) 「2001年の移動記録一覧」.日本鱗翅学会・アサギマダラプロジェクト編「アサギマダラ年鑑,2001」p. 30-34.
大原賢二・中峯浩司*(2002.12) 「日本列島〜台湾におけるアサギマダラの移動記録一覧(1980〜2000年)」日本鱗翅学会・アサギマダラプロジェクト編「アサギマダラ年鑑,2001」p. 35-44.
佐藤陽一(2002.3)魚類.(財)とくしま地域政策研究 所編、徳島県環境現況基礎調査報告書(平成13年度 徳島県委託調査).(財)とくしま地域政策研究所:111-120+58-61.
佐藤陽一・高橋弘明・洲澤 譲(2002.3) 淡水・汽水産魚類.徳島県版レッドデータブック掲載種検討委員会編「徳島県の絶滅のおそれのある野生生物―動物 編―徳島県版レッドデータブック―[普及版]」,徳島県県民環境部環境局循環型社会推進課自然共生室:36-40.
佐藤陽一(2002.5)フォーラム「河川・湿地における生態系の保全・復元―その目標設定の考え方」コメント:水辺生態系の保全・復元目標は達成できるか?―理想と現実とのはざまで―.平成14年度土木学会四国支部第8回技術研究発表会講演概要集:25-26.
藤田博行*・岡部健士*・佐藤陽一(2002.5)勝浦川正木ダム上下流の魚類相とその生息環境.平成14年度土木学会四国支部第8回技術研究発表会講演概要集:63-164.
上月康則*・佐藤陽一・村上仁士*・花住陽一*・倉田建 悟*・長地 洋*(2002.5)メダカに対するカダヤシの攻撃行動について.平成14年度土木学会四国支部第8回技術研究発表会講演概要集:492-493
佐藤陽一(2002.8)魚博士の吉野川魚図鑑連載第6回:トビハゼ.四国三郎吉野川,12:9.
佐藤陽一(2002.9)農村生態系と魚類.(社)農村環境整備センター編「平成13年度農村環境技術研修【生態系保全(中国・四国ブロック)コース】テキスト」,(社)農村環境整備センター:1-24.
佐藤陽一・岡部健士*・竹林洋史*・藤田博行*(2002.10) 河川性魚類の生息と物理環境要因との関係の解析方法の比較.2002年度日本魚類学会年会講演要旨集:40.
佐藤陽一(2002.12)ハゼってどんな魚? ふる〜ぶ,34:5.
佐藤陽一(2003.01)魚博士の吉野川魚図鑑連載第7回:タモロコ.四国三郎吉野川,13:5.
佐藤陽一・岡部健士*(2003.3)魚類調査.(社)土木学会編「ダム水環境改善事業調査・河川環境調査合併調査委託報告書:勝浦川 勝浦郡上勝町〜勝浦町No. 2,平成15年3月」,(社)土木学会:6-1〜13+177.
田辺 力 (2002. 7)片子とババヤスデ―土壌動物学会奨励賞をいただいて―.どろのむし通信(日本土壌動物学会ニューズレター),28:3-4.
田辺 力 (2002. 11) 第12回国際多足類会議報告. Acta Arachnologica,51::158-159.

<植物>
小川 誠・木下 覺*・片山泰雄*・木村晴夫*・木内和美*・小松研一*・植北ちず子*・水上敏夫(2003.3)佐那河内村の植物相.阿波学会紀要 第48号 佐那河内村総合学術調査,阿波学会:25-36.

<地学>
両角芳郎(2002.6)Our 徳島の自然と歴史の発信基地−地域に根ざした総合博物館をめざして−.初等教育資料,756号:74-75.
元山茂樹*・寺戸恒夫*・平尾尚史*・小澤大成*・石田 啓祐*・橋本寿夫*・中尾賢一・森江孝志*・森永 宏  *・福島浩三*・香西 武*(2002.3)佐那河内村に分布する地すべり地形と御荷鉾緑色岩類の岩石学的特徴.阿波学会紀要 第48号 佐那河内村総合学術調査,阿波学会:1-12.

<考古>
高島芳弘(2002.12)徳島の遺跡50選 9 前山古墳群 (石井町石井)徳島新聞,12月15日朝刊.
高島芳弘(2003.2)徳島の遺跡50選 18 田浦の古墳群(小松島市田浦町)徳島新聞,2月16日朝刊.
魚島純一(2003.03)高松市長崎鼻古墳で確認された赤色顔料付着遺物の蛍光X線分析について.高松市埋蔵文化財調査報告第62集,高松市教育委員会:115-117.

<歴史>
長谷川賢二・生駒佳也*(2002.4)部落問題入門:部落差別をなくすために考えるべきことは何だろうか.財団法人徳島県同和対策推進会編「展望 2002年度版」,財団法人徳島県同和対策推進会:15-32.
長谷川賢二(2002.12)三好郡の中世―道と交流―.三好郡郷土史研究会誌,(11):3-8.
長谷川賢二(2003.1-3)阿波圏―不思議のハコ;鳥居龍蔵と郷土史;遍路の季節.徳島新聞1月11日;2月8 日;3月8日朝刊.
長谷川賢二(2003.3)四国遍路史研究の課題をめぐって.鳴門教育大学「四国遍路八十八カ所の総合研究」プロジェクト報告書1.「四国遍路研究」:27-44.

<民俗>
庄武憲子(2002.9)徳島県の祭礼山車.四国民俗,(35),四国民俗学会:39-68.
庄武憲子(2003.3)徳島県の盆棚;農村舞台復活への活動;正月の年棚;新刊紹介 日本藍染め文化協会編『日本の藍-伝承と創造』.徳島地域文化研究,(1),徳島地域文化研究会:17-38,179,180-181,190.
磯本宏紀(2002.12)民俗学とまちづくり―民俗学、そして宮本常一を見直す流れの中から―.徳島県県民環境部地域振興局編「阿波の自治」61:22-25.
磯本宏紀(2003.2)書評『徳島県漁業史』.史窓,(33):124-129.磯本宏紀(2003.3)カリサオ考―徳島県板野郡上板町での連枷調査から―.民具集積,(8):35-45.
磯本宏紀(2003.3)道で結ばれる空間―三野町太刀野山の伝説から.徳島地域文化研究,(1):128-139.
磯本宏紀(2003.3)新刊紹介:徳島県文化振興財団民俗文化財集編集委員会編『土成の民俗』.徳島地域文化研究,(1):188-189.

 

(4)学会・研究会等での発表(*印:館外研究者)

両角芳郎(2002.10)県立博物館と「文化の森」建設と評価.国立民族学博物館主催博物館学国際協力セミナー.
大原賢二(2003. 2)アサギマダラの移動の記録,2002年の四国の記録.日本鱗翅学会四国支部第8回例会(新居浜市).
佐藤陽一(2002.5)フォーラム「河川・湿地における生態系の保全・復元―その目標設定の考え方」コメント:水辺生態系の保全・復元目標は達成できるか?― 理想と現実とのはざまで―.平成14年度土木学会四 国支部第8回技術研究発表会(徳島).
藤田博行*・岡部健士*・佐藤陽一(2002.5)勝浦川正木ダム上下流の魚類相とその生息環境.平成14年度土木学会四国支部第8回技術研究発表会(徳島).
上月康則*・佐藤陽一・村上仁士*・花住陽一*・倉田建 悟*・長地 洋*(2002.5)メダカに対するカダヤシの攻撃行動について.平成14年度土木学会四国支部第8回技術研究発表会(徳島).
佐藤陽一・岡部健士*・竹林洋史*・藤田博行*(2002.10) 河川性魚類の生息と物理環境要因との関係の解析方法の比較.2002年度日本魚類学会年会(松本).
田代優秋*・上月康則*・佐藤陽一・大久保美知子*・花 住陽一*・山崎敬生*・村上仁士*(2003.3)都市近郊農業水路における魚類相とその変動について.第30回四国魚類研究会(高知).
花住陽一*・上月康則*・佐藤陽一・田代優秋*・村上仁 士*(2003.3)農業用水路網におけるメダカの生息ポテンシャル評価について.第30回四国魚類研究会(高知).
田辺 力・曽田貞滋*(2002. 9)ババヤスデ属における雌雄間のコンフリクトによる交尾器形態の多様化.日本昆虫学会第62回大会(富山).
田辺 力(2002. 11)多足類の分類と生態.第47会四国植物防疫協議会大会(徳島).
田辺 力・曽田貞滋*(2003. 3)ババヤスデ属における交尾器形態の進化:雌主導の雌雄間軍拡競争の影響.日本生態学会第50回大会(つくば).
曽田貞滋*・田辺 力(2003. 3)交尾器の多様化による多発的種分化:ミドリババヤスデ種複合体.日本生態学会第50回大会(つくば).
Tanabe, T., and T. Sota*(2002. 7) Rapid divergence of genitalia in the millipede genus Parafontaria driven by sexual conflict. 12th International Congress of Myriapodology(南アフリカ,ムツンジニ).
船本常男*・小川 誠・中村卓造*(2002. 9)日本産ノリウツギ(ユキノシタ科)の細胞地理.日本植物学会第6回大会(京都).
小川 誠(2003.3)情報システムの有効活用.MML研究会(小田原).
小川 誠(2002. 3)仕事に使えるデータベースの事例−徳島県版レッドデータブック作成編−.MML研究会(大阪).
中尾賢一(2002. 8)地層と貝化石からみた干潟環境.徳島保全生物学研究会シンポジウム「干潟は生きている−吉野川河口」(徳島).
横川浩治*・中尾賢一(2003. 2)日本産アワジチヒロ属貝類の系統進化と分類.日本貝類学会平成15年度(2003年度)大会(豊橋)
魚島純一(2002. 12) 徳島県立博物館における銅鐸の調査.第7回中・四国九州保存修復研究会(広島).
長谷川賢二(2002.7)四国における学芸員交流の試み.第25回西日本人文系学芸員研究会(倉敷).
長谷川賢二(2002.11)中世後期における修験道組織の一展開形態.徳島地方史研究会例会(徳島).
長谷川賢二(2002.12)薩麻駅と薩摩郷.第41回四国中世史研究会(海部).
庄武憲子(2002. 8)徳島県の妖怪.四国民俗学会(香川).
磯本宏紀(2002.5)伝承母体の再編―岡山県真庭郡落合町吉の念仏踊りを事例として ―.徳島民俗学会例会(徳島).
磯本宏紀(2002.6)八丈島民俗誌とその記述について.徳島地方史研究会例会(徳島).
磯本宏紀(2003.1)徳島県の潜水漁について.徳島民俗学会例会(徳島).
磯本宏紀(2003.3)カリサオ考.四国民具研究会合評会(高知).

 

7.研究会・学会等の開催

●四国民具研究会
開催日:6月14日
会 場:博物館講座室
参加者:15名

●植物談話会
開催日:平成13年4月〜14年3月までの毎月1回 開催(土曜日の18:30から)
会 場:博物館実習室
参加者:毎回約15名

●徳島地方史研究会例会
開催日:6月30日
会 場:博物館講座室
参加者:8名

●巡礼研究会資料見学会
開催日:3月21日
会 場:博物館講座室
参加者:7名


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