グンバイヒルガオの謎

-分布の北上は地球温暖化のせい?-

 

グンバイヒルガオについてはこちら

グンバイヒルガオの生育地の写真はこちら

 

グンバイヒルガオの生育状況について情報がありましたら、小川 誠 へメールください.


グンバイヒルガオ
グンバイヒルガオ

 2000年の冬に博物館に一枚の標本が持ち込まれました.田渕武樹氏が県南部の徳島県海部郡海部町の海岸で1999年に見つけたものですが,グンバイヒルガオの標本でした.徳島県植物誌(阿部,1990)を見てもグンバイヒルガオの県内の記録はありませんので県内初記録かと思われます.よく調べてみると意外なことがわかりました.
 中西(1987)はグンバイヒルガオの分布を詳細に調査し,幼個体は日本海側では山形県まで,太平洋側では茨城県まで記録があるが,幼個体が冬に枯死してしまうそうです.こうしたものは種子が南から流れてきて発芽しているとのことですが,繁殖している場所(中西(1987)では開花,結実し,越冬する産地を繁殖圏と呼んでいる)の北限は宮崎県の高鍋町であるとしています.
 博物館に持ち込まれた海部町のグンバイヒルガオの標本には種子ができた跡が残っており,現地で繁殖している可能性があり,もしそうなら北限になるので,きちんと調べましょうと田渕氏と話していました.
 そうこうしているうちに,宮崎県総合博物館の南谷氏が植物地理・分類研究の中で,グンバイヒルガオが大分県にも定着していて,繁殖場所が北上しており,地球温暖化のせいではないかと書かれました(南谷,2000).
 調べていくと,高知県レッドデータブックの植物編に,高知市の海岸にグンバイヒルガオが現存して,毎年花を咲かせるという記述があることもわかりました.
 これらのことは,中西(1987)の報告とは異なっており,調査時に見落とされたものか,南谷が指摘するように,温暖化により北上したのかはわかりません.
 昆虫では地球温暖化によって分布が拡大したとされるものがいくつかあるようですが,分布を広げる速度が遅い植物では,そういう例はなかなかありません.グンバイヒルガオがそうであれば,きちんと調べて経年変化を追ってみる必要があります.

 

グンバイヒルガオの分布

グンバイヒルガオの分布

グンバイヒルガオの分布データ

1.[結実] 徳島県海部郡海部町鞆浦 1999年10月5日 田渕武樹採集(標本)
2.[発芽] 山口県下関市 (下関市の飯山様よりメール 2001年10月9日受け)
  >’95 ’97 下関市の日本海側  武久浜と汐入浜で
  >グンバイヒルガオが成長しましたが、開花、越冬はありませんでした。
3.[発芽] 福井県美浜町(兵庫県博の沢田様よりメール 2003年11月19日受け)
  >03/11/13 福井県美浜町 菅浜(ハマヒルガオが多い) グンバイヒルガオ1株
4.[発芽] 福井県越廼村(兵庫県博の沢田様よりメール 2003年11月19日受け)
  >03/11/18 福井県越廼村 越廼海水浴場(ハマヒルガオ,ハマニガナが多い) グンバイヒルガオ
   (離れた位置に)3株
5.[越冬] 高知県高知市(高知県版レッドデータブックより)
6.[越冬] 大分県蒲江町(南谷(2000)の北限の越冬地.小川が2001年10月確認→
写真
7.[越冬] 宮崎県高鍋町(中西(1987)の北限の越冬地.小川が2001年10月確認→
写真


 

【参考文献】

阿部近一 1990. 徳島県植物誌.580p. 教育出版センター.
中西弘樹.1987. 日本本土におけるグンバイヒルガオとハマナタマメの分布と海流散布.植物地理・分類研究,35(1):21-26.
中西弘樹.1994. 種子はひろがる 種子散布の生態学.平凡社.
 
一般には上記の文献が入手しやすく,グンバイヒルガオについては77p.に分布図がのっている.
高知県牧野記念財団編 2000.高知県レッドデータブック(植物編)高知県の保護上重要な野生植物.高知県文化環境部環境保全課.
南谷忠志.2000. 九州の植物新知見.植物地理・分類研究,48(2):121-131.


このページに関するお問い合わせは作成者:小川 誠(徳島県立博物館)

 

[小川誠のページ]