花の散歩道

[過去の花の散歩道]

2003年3月18日

私の目にとまった植物を紹介します.


ユキワリイチゲ(キンポウゲ科)

Anemone keiskeana T. Ito

 

ユキワリイチゲ

2003年3月10日,ユキワリイチゲが1株開花していました.昨年撮影した写真でこの植物を紹介しましょう.

 

 2月から3月にかけて,明るい林床でたくさんの薄紫色の花を着ける植物があります.それは,ユキワリイチゲで,キンポウゲ科の多年草で,学名はAnemone keiskeana T.Ito ex Maxim. です.学名を見てピンとこられた方もあるでしょうが,花を楽しむために花壇に植えられ園芸用に栽培されるアネモネのなかま(イチリンソウ属)です.アネモネと一般に呼ばれているのは,ボタンイチゲ(A. coronaria L.)という地中海沿岸原産の植物です.
 イチリンソウ属は世界に約150種もあり,多くは北半球のユーラシア大陸に分布しています.日本には11種が自生していると言われています.徳島県にはそのうち,アズマイチゲ,イチリンソウ,ユキワリイチゲ,ニリンソウが自生し,帰化植物であるシュウメイギクもところどころで見ることができます.なお,アズマイチゲは北海道から九州にかけて分布しますが,徳島県では1箇所でしか記録されておらず,分布の限られている植物です.
 ユキワリイチゲは別名ルリイチゲ,ウラベニソウとも呼ばれ,近畿地方以西の本州,四国,九州に分布します.花を着ける茎(花茎)の高さは15〜30cmで,ミツバのような三つに分かれた葉を着けます.根茎がやや太く,地面を這い,秋にはここから根生葉を出します.早春に花茎を伸ばし,その先に直径3〜3.5cmの花を1個着けます.薄紫色をしていて花びらのように見えるのは萼片です.
 この植物が生えている場所に夏に訪れても,見つけることはできません.葉がないからです.秋に葉を出して,春に花を付け,しばらく経つと葉を落として眠りにつきます.そして翌年の秋にまた葉を出します.ユキワリイチゲは晩春から初夏にかけて,茎や葉が枯れてしまいます.それから長い眠りに入り,秋になり根生葉を出すまでじっとしています.緑色の葉を持った植物は太陽のエネルギーを使って光合成をしています.普通は,気温が高く,太陽エネルギーを多く受けることができ,物質生産効率の高い春から秋に生長します.しかし,その時期は他の植物との競争も激しく,なかなか生き残っていくのは難しいとも言えます.秋から春にかけて生長することによって,他の植物が枯れている間に,光を独り占めする事ができます.ユキワリイチゲはほかの植物と生活のサイクルを変えることにより,落葉樹林ややや明るい竹林の林床でうまく生き残っているのでしょう.

ユキワリイチゲの花
花びらのように見えるのは萼

ユキワリイチゲの花を下側(裏側)からみたところ.萼の裏側が見える.裏側から見ると紫色をしていない.

群落のように生えるユキワリイチゲ.ミツバのような葉をしている.

 この植物はしばしばかたまっって生えて群落のようになっていますが,実は地下茎が横に這い,それが広がってこのように見えています.

 おもしろいことに花が終わっても,種子はほとんどできません.根茎で広がって増えているので,群落のように見えるものは同じ個体なので,受粉しても種子ができないのでしょう.ほかの場所にある個体から昆虫によって花粉が運ばれれば種子ができるようで,たまに長さが5〜6mmにもなる種子を着けます.自生地で観察したところ,1個体だけ種子から発芽した個体を見つけました.

 いろいろと調べてみると意外なことがわかるかもしれません.


ユキワリイチゲの地下茎.紫色を帯びる.




ここで使用した写真(高解像度) 



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このページに関するお問い合わせは作成者:小川 誠(徳島県立博物館)