昼と夜の間には夕方があります。夕方は昼でもなく、夜でもない微妙なひとときで、黄昏れ時として歌われることも多く、この時間の好きな人もたくさんいることでしょう。このように2つの現象にはさまれたさかい目では、それらが混じりあって、だんだん変化していく領域ができます。川が海に流れ込む河口域もその一つです。
徳島市勝浦川の河口を覗いてみましょう。旧国道55号線の勝浦浜橋の下にヨシ原が広がっています。近づいてみると、潮が満ちてくると水につかる場所に、もこもことした、見られない植物がはえています。これはフクドというヨモギのなかまです。日本に生えるフクド以外のヨモギのなかまは、草原のような乾いた場所に生えるものばかりで、フクドのように水につかるような場所に生えるものはありません。勝浦川河口にはヨモギ、ヒメヨモギ、オトコヨモギ、カワラヨモギといったヨモギのなかまがたくさん生えていますが、どれも土砂がたくさんたまって陸地になった場所で、フクドとは異なった場所に生えています。
フクドの葉を触ってみましょう。多肉植物のように葉が厚く、表面がてかてか光っています。これもほかのヨモギのなかまに見られない特徴です。フクドが生えるような、河口の潮が満ちてくると水につかる場所はふつう干潟と呼ばれますが、植物生態学では塩沼湿地と呼ばれています。塩沼湿地は、塩水と真水が混じって汽水になっており、そうした場所に生える植物の多くが、フクドのように葉があつぼったく、その表面がてかてか光るという特徴をもっています。これは、浸透圧の高い汽水に体内の水分をとられないための工夫といわれています。勝浦川河口にはハマサジ、ハママツナ、ホソバノハマアカザが生えていますが、このような特徴を持っています。
塩沼湿地に生える植物は塩生植物と呼ばれていますが、こうした場所は川の河口や浅い内湾にしかなく、場所そのものが少ないことに加えて、人の手が加わっているところが多く、なかなかよい状態には保たれていません。そうしたなかでも勝浦川河口は徳島県でも最大級の塩生植物群落があり、『籠の塩生植物群落』として環境庁の特定植物群落に指定されています。 フクドは吉野川や那賀川にはみられません。フクドの葉をちぎって匂いをかぐと、すがすがしいとっても良い匂いがします。残念ながら、この場所にはたくさんのごみが目立ちます。上流から流れてきたものに加えて、投棄されたもの、さらに野焼きされたものが目立ちます。ぜひ、さかい目のおもしろさに触れて、そうした行為がないようにしたいものです。 (植物担当:小川 誠)
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