●アゼオトギリ−公共工事にともなう生物調査のあり方を教えてくれた

 アゼオトギリは田の畦などの日当たりの良い湿った場所に生えているオトギリソウ科の多年草で環境省では絶滅危惧IB類に,徳島県では絶滅危惧I類になっています.徳島県では山裾の水田周辺ではぽつりぽつりと見つかっていますが,多数の個体が生育している場所はあまりありませんでした.
 徳島県では徳島県田園環境検討委員会を設置し,県が行う農地改良などの工事について環境との調和を検討しています.工事前に環境調査を行い,影響をできるだけ軽減しようというものです.
 筆者が那賀川町の農地改良予定地を訪れたところ,事前の調査では報告されていないアゼオトギリが生育してるのを見つけました.博物館ニュース記事参照.
 現地は田の間をぬって流れている小さな用水路の縁で,土がむき出しになっていていろいろな草が生えているものの,手入れ(草刈り)がよくされていて日当たりが良く,約50mの間に30個体以上の生育が見られました.アゼオトギリ本来の自生地としては県下で最大級の群落で,盛んに開花して実を付けており生育状態も良好でした.この発見をもとに補足調査が行われ,同委員会で検討したところ,自生地をできるだけ改修せず現状のまま残すことになりました.
 もし,このアゼオトギリが事前の調査で見つからなければどうなっていたでしょう.おそらく何の配慮もされず工事が行われ,絶滅していたことでしょう.この場所の農事前調査では,アゼオトギリの他にも2種の絶滅危惧種が見落とされていることがわかりました.

アゼオトギリの花(上),葉(下左)とその付け根(下右)

小さな用水路の縁に生えるアゼオトギリ(矢印)

 公共工事にともなう生物調査は調査期間が十分でない,調査者が県外から来ているので県産の植物に対する知識が乏しいなどいろいろ難しい問題を抱えています.県内でも環境アセスメントを初めとして工事に伴う調査が行われていますが,同定の間違い(誤認)や貴重種の見落としがしばしば起こっています.建物の建築であれば,図面どおりできているのか,材質は基準を満たしているのかなどの検査が行われることが普通です.しかし.生物調査ではそのような検査(評価)は行なわれませんので,単に書類が整っておればよいということになり,調査の精度にばらつきがでてきます.しかし,博物館には植物の情報がたくさん集まっていますので,調査結果をそれと照合することにより,いままで徳島県に記録がない植物が調査結果としてあがっているといった疑問点等のチェックをかけることができます.また,採集された標本を調べることによりどの程度の精度で同定が行われたのか推測することが可能です.今回のアゼオトギリの発見もそうした作業を通じおかしな点があったので,現地に出向いてみたことがきっかけです.
 工事を計画する担当者は生物に関する知識がないのが普通です.そのような人が生物の専門用語の並んだ報告書を見てもわからないかもしれませんが,専門家ならおかしな点を指摘することができます.徳島県では公共工事の環境配慮のためのアドバイザ制度を作っていますので,そうした制度を活用し,より高い調査制度を保つことが必要です.(小川 誠)