ヒゼンマユミ


Euonymus chibae Makino   (ニシキギ科)

 この植物は暖地の海岸沿いの林に生える常緑の高木。同じニシキギ属のマサキに似ています。ニシキギ属の中にはマユミ、サワダツ、ヒゼンマユミなどのマユミ節とマサキやツルマサキなどのマサキ節があります。マユミ節ではマユミやサワダツが落葉であるのに対して、ヒゼンマユミ、ムラサキマユミは常緑(冬に葉が落ちない)です。ヒゼンマユミとマサキでは雄しべ(雄蘂)の付き方に違いがあり、ヒゼンマユミでは雄蘂が花盤の上に付き、マサキでは花盤の縁につきます。

 長崎の諫早(いさはや)で最初に見つかったので、牧野富太郎博士により肥前真弓(ひぜんまゆみ)と名付けられました。朝鮮半島南部と、九州と沖縄に分布しますが、徳島県の阿南市伊島町にある棚子島にも記録があります。
 1954年に出された「伊島の植物」(伊島小学校武田公夫著)によると、この植物は棚子島で1953(昭和28)年に発見され、7株があったとのことです。そのうちの1株が小学校近くの地元の方の庭で栽培されていたようで、著者も伊島の調査のおりにその方から苗木をわけていただきました。それが開花したのが上の写真です。
 徳島県のレッドデータブックでは環境省のカテゴリに従い、「過去50年間前後の間に、信頼できる生息の情報が得られていない。」ということで絶滅(徳島県RDBでは野生絶滅を分けていないので)に入れてありますが、環境が激変したわけではありませんので、まだ残っている可能性は十分にあります。
※※その後、2010年に現地で生育が確認されたのを受け、現在は絶滅危惧IA類に改訂されています。

 徳島県を含む四国の他の地域では確認例がなく、隔離分布となっています。
 この植物は中西(1990)によると、鳥散布とのことです。ただ、伊島のヒゼンマユミが鳥に種子を運ばれたものであるとするなら、なぜ途中に分布がないのかは気になるところです。ともあれ、阿南市の産地は分布の東限となります。なお、山口県の蓋井島が北限と言われる場合もありますが、対馬でも見つかっていますので、そちらの方が北限となります。


ヒゼンマユミの実.背景の緑と黄色、中のオレンジ色の対比が美しい.(2024年3月撮影)


ヒゼンマユミの葉.通常は濃い緑色をしているが、冬には赤く紅葉して美しい.(2024年3月撮影)

※通常、希少種については採取の危険が伴う場合は、詳細な産地を公開しない方針です。今回のヒゼンマユミについては、花は目立たないのでその危険は少なく、むしろ積極的に産地を公開した方が、再発見につながると判断しました。


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