答え:ワタヨモギの葉の上面の顕微鏡写真です.
ワタヨモギの葉の上面には白点がたくさんあります.
ワタヨモギ(キク科) 葉の上面
ワタヨモギの葉の上面の走査型電子顕微鏡写真 →ヨモギの葉
−ワタヨモギ(Artemisia gilvescens)とは− ワタヨモギはヨモギに似ていますが、虫眼鏡で葉の表面を見てみると,白点がたくさんあるので区別できます. 日本、中国に分布し、日本では山口県下関市と愛媛県大洲市の2産地が報告されていますが,現在ではこれらの産地での生育は確認されていません。ところが,徳島県鳴門市にはこのワタヨモギが生育しています.もしかするとみなさんのまわりにもこのワタヨモギがあるかもしれません.
葉の形.右:ワタヨモギ.左:ヨモギ 右:ワタヨモギ.左:ヨモギ
おまけ
野草の自然誌 −ヨモギのはなし− 博物館の人目につかない片隅で,不思議な光景がみられます.たくさんの野草が植木鉢で大切に育てられているのです.園芸好きの人ならたちどころに抜き捨ててしまいそうな雑草ばかりです.その一つはみなさんもよくご存知のヨモギ(Artemisia princeps)です.今回はそのヨモギについてのはなしです.
役に立つヨモギ
野原で遊んでいて怪我をした時,ヨモギの葉をよくもんで,傷につけた経験が誰しもあることでしょう.ヨモギの葉は止血の漢方薬として用いられることがあります.ヨモギのなかまには薬として利用されるものが多く,河原に生えているカワラヨモギは肝臓の漢方薬に,ヨーロッパ原産のミブヨモギは回虫の駆除薬になります.
薬だけでなく,料理にもヨモギのなかまは使われます.タラゴンという外国産のヨモギの乾燥させた葉は,フランス料理に欠かせないハーブの一つです.ニガヨモギはアブサンという酒の香りづけに使われます.
しかし,なんといっても,ヨモギときいて最初に頭に浮かぶのは草餅でしょう.ヨモギが草餅に使われる理由には,そのヨモギ独特の香りもさることながら,葉の裏の毛がつなぎの役目をし,草餅のねばりを出すのに役立っていることがあげられます.ヨモギの葉の裏が白く見えるのは白い毛がたくさん生えているからです.
ところで,ヨモギやオオヨモギの葉の裏の毛を集めたのがもぐさです.もぐさに火をつけると,なんともいえない臭いの煙がただよってきます.一説によると,”ヨモギ”という名は善燃草からきたともいわれています.
ヨモギ属の特徴
そもそもヨモギはヨモギ属(Artemisia)に属するキク科の植物です.ヨモギ属は,日本には30種類,世界では300種類以上ものたくさんの種類からなっています.図1は日本産のヨモギ属の葉のシルエットを示したものです.このように,ヨモギ属にはさまざまな葉の形があります.
図1 いろいろなヨモギの葉 A:オオヨモギ,B:ワタヨモギ,C:カワラヨモギ,D:ヨモギ,E:イワヨモギ,F:イヌヨモギ,G:フクド,H:ヒトツバヨモギ,I:ヒロハウラジロヨモギ,J:シロヨモギ,K:ヒメヨモギ,L:オトコヨモギ,M:アサギリソウ.下線は徳島県に生育している種類.
徳島市の勝浦川河口付近には,ヨモギ,カワラヨモギ,オトコヨモギ,ヒメヨモギ,フクドの5種が生育していて,さしずめヨモギの見本市といった場所があります.ヨモギ属はやや乾いた場所に生えるのが普通ですが,この中のフクドは,満潮時に塩水混じりの水に浸かる川岸の泥湿地に生えています.その形も独特で,葉は肉質で,指でつぶすと汁がたくさん出てきます.生態的にも形態的にも他のヨモギ属とまったく違っているように見えるフクドですが,秋に咲く花はヨモギ属の特徴を持っています.
ヒマワリやマーガレットといったキク科の花には,普通,黄色や白色の花びらがあってよく目立ちます(図2のB).キク科の花は小さな花が集まって一つの花(頭花)を形作っているのですが,その頭花は花びらのように見える舌状花と,中心部にある花びらのない筒状花からできています.ところが,ヨモギ属の花にはこのような目立つ花びらがありません(図2のA).ヨモギの頭花はすべて筒状花からできているのです.これはヨモギ属の大きな特徴です.しかも,頭花は小さく下に向いてついているので,花が咲いてもほとんど気がつかれません.これはむかしヨモギ属が虫の少ない砂漠のような場所で分化したためだと考えられています.つまり,ヨモギ属は虫に花粉を運んでもらうわけにゆかなかったので,目立つ花をつけて虫を引き寄せるのではなく,風によって花粉を飛ばしやすいように,小さな頭花をたくさんつけるようになったというのです.
図2 キク科の花.A;カワラヨモギ,B;リュウノウギク. 植物にとって,花粉をどうやって運ぶのかはひじょうに大切な問題です.他のキク科が虫に花粉を運んでもらっているのに対し,ヨモギは風に運んでもらうちょっと変わったやつなのです.そして,きれいな花をつけないために,雑草というレッテルを貼られ,秋には花粉症のもとになるやっかいものになってしまったのです.
みなさんのまわりには,人間の勝手な都合で雑草と決めつけられた野草たちがたくさんいます.人が一生懸命生きているように,踏まれても,抜かれても生えてくる草たちも懸命に生きています.たまには野草たちのはなしに耳を傾けてみてはいかがでしょうか.
徳島県立博物館ニュースNo.6 1992年4月発行より
おまけ2
ヨモギこぼればなし −ヨモギの島− 本州の北の北,下北半島の先に弁天島という島があります.島を1周するのに歩いて5分もかからないような小さな島で,燈台があるだけの無人島です.海抜数メートルの平らな島ですが,ここにはオオバヨモギとオニオトコヨモギが生育しています.島の中心部にはオオバヨモギが,より海に近いところにはオニオトコヨモギがびっしりと生えており島のほとんどがこの2種のヨモギに覆われているのです.しかもこの2種は,オオバヨモギはこの島だけで,オニオトコヨモギは他に2箇所でしか見つかっていない珍しい種類です.帰りの渡し船を待つ間,夏の太陽に照らされながら海岸の岩場に寝そべって,私はひそかにこの島をヨモギの島と名付けました.
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