ブタクサハムシ(写真)をご存じですか?
ブタクサハムシOphraella communa LaSage, 1986は,甲虫目,ハムシ科の一種で,体長が4ミリメートルほどの小型の昆虫です.もともとは北アメリカに生息する昆虫であり,日本では見られない種でした.ところが,数年前に関東と関西でほぼ同時に発見され,その後このムシはものすごいスピードで日本国中に広がろうとしてます.
このハムシが日本で初めて記録されたのは1997年のことでした.東洋大学の大野正男先生が埼玉県朝霞市でブタクサ,オオブタクサを食害している本種を発見され,和名を「ブタクサハムシ」として報告されたものが最初の記録です.
しかし,千葉県千葉市内をはじめ,東京都や神奈川県下の数カ所では1996年にすでに発見されており,ハムシの研究者の滝沢春夫氏や千葉県立中央博物館の学芸員の方を中心に,調査が進められていたようです.1996-97年の関東地方における本種の分布状況は,栃木県,群馬県,茨城県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県及び山梨県東部にまで及んでいます.
幼虫や成虫は,和名の由来にもなったブタクサやオオブタクサを食べて育ちます.これらの植物は,このハムシと同様に,原産地が北アメリカで帰化植物として有名ですが,花粉症の原因の一つとしても悪名高い植物です.ほかにオナモミやヒマワリなども食べるとされています.
一方,関西地方においても,すでに1997年10月には大阪府枚方市と高槻市で採集されており,1998年には京都府,滋賀県,大阪府,兵庫県,奈良県などあちこちで報告されていました.現在ではすでに富山県にも入り,西では山口県の下関市や福岡県でも発見されています.
このような侵入昆虫が,関西でも関東とほぼ同時期に発見されていることをどのように考えるかは難しい問題です.成田空港と関西空港がある・・そう簡単ではないでしょうね.
いずれにしてもこのハムシは,発見されてからその周辺地域へ,驚くほど早いスピードで分布を拡大しているようです.侵入昆虫の分布拡大を正確に追跡できるような調査はほとんどありません.ですから,まだ四国に入っていないのであれば,その広がり方などが調べられるのではないかと考えていました.
しかしながら,1999年5月に香川県三豊郡財田町において成虫,幼虫,卵などを発見したことが9月に報告され,四国にもすでに侵入していることがわかりました.
徳島県ではどうなのだろうと皆で話していましたが,香川県での記録が発表された直後の1999年9月11日に,当館の植物担当の小川誠氏が,美馬郡脇町周辺の植物調査を行った際に,道路脇のブタクサの花穂や葉が食害されているのを発見し,博物館へそれらを持ち帰ってくれました.この葉には,幼虫数頭と蛹2個がついており,9月16日に2頭が成虫になりました.残りの幼虫もブタクサを与えて飼育し,すべて成虫まで育ちました.これらの成虫は特徴的な条紋をもち,容易にブタクサハムシと同定できました.
これが徳島県内での初めての発見となり,その後の調査で,鳴門市撫養町の木津,阿波町の土柱付近,美馬郡脇町,美馬郡美馬町,那賀郡那賀川町出島などのブタクサでブタクサハムシが発見されました.調べてみると,県内のブタクサの分布は思ったほど広くなく,しかも局所的です.ですから,ブタクサハムシの分布もかなり局所的に見えます.しかし,昨年の調査は,すべてブタクサを狙って調査したもので,オナモミのように県下に広く分布している植物の調査を行っていません.小川さんの調べでは,兵庫県の加古川市などではオナモミを普通に食べているということで,徳島県でもオナモミなどを含めた調査を行わないと,正確な分布状態は把握できません.
この侵入昆虫のハムシは,今後,徳島県や四国でどのように分布を広げていくのか,なぜこれほどのスピードで広がることができるのか,そして天敵はいないのか・・などおもしろい問題をかかえた種であると思われます.皆さんもお近くのブタクサやオナモミなどを探してみて下さい.葉を食べている小さなムシがいたら,ぜひご連絡を下さいますようお願いいたします.(博物館ニュース,No.38. 2000年3月25日発行より)