徳島県立博物館研究報告,(10): 75-79.( March 2000)

 

徳島県におけるブタクサハムシの記録

 

大原賢二・小川 誠

 

Ophraella communa (Coleoptera, Chrysomelidae) in Tokushima Prefecture, Shikoku.

 

Kenji Ohara and Makoto Ogawa

 

Abstract Invading insect,Ophraella communa (Coleoptera, Chrysomelidae) is recorded from several localities of Tokushima Prefecture, Shikoku, Japan. This is the first record of this beetle from Tokushima.

  

I.はじめに

 ブタクサハムシOphraella communa LaSage, 1986は,甲虫目 (Coleoptera),ハムシ科 (Chrysomelidae)の一種である.北アメリカ原産の種であり,北米東部からメキシコにかけて広く分布する(大野,1997).日本には生息していない種であったが,1997年8月に,大野正男氏が埼玉県朝霞市でブタクサ(Ambrosia artemisiaefolia L. var. elatior (L.)),オオブタクサ(Ambrosia trifida L.)を食害している本種を発見され,北米から輸入されている家畜用の干し草にまぎれて侵入したのではないかと指摘し,和名を「ブタクサハムシ」として報告された(大野,1997).しかし,千葉県千葉市内をはじめ,東京都や神奈川県下の数カ所では1996年にすでに発見されており,滝沢春夫氏や千葉県立中央博物館を中心に,調査が進められていた(滝沢ほか,1999).それによると,本種はブタクサ類のほか,オナモミ類(Xanthium spp.),ヒマワリなども食草としており,1996-7年の関東地方における分布は,栃木県,群馬県,茨城県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県及び山梨県の東部にまで及んでいる.

 一方,関西地方においても,すでに1997年10月には大阪府枚方市と高槻市で採集されており(市川ほか,1998;河上,1998),1998年には近畿地方の各地で報告されている.侵入昆虫と考えられる本種が,関西でも関東とほぼ同時期に発見されていることをどのように考えるかは難しい問題であるが,いずれにしても本種は,発見されてからその周辺地域へ,驚くほど早いスピードで分布を拡大しているようである.このような侵入昆虫の分布拡大を追跡できるような調査はほとんどなく,まだ四国に入っていないのであれば,興味深いデータが得られると考えていた.

 1999年9月,加藤敦史・吉道俊一両氏が,香川県三豊郡財田町において,同年5月に成虫,幼虫,卵などを発見したことを報告され(加藤・吉道,1999),四国にもすでに侵入していることが判明した.その後,山口県下関市と福岡県の各地からも報告されており,すでに九州北部まで分布域が広がっている(奥村,1999).

 香川県での記録が発表された直後の9月11日に,著者の一人である小川が,徳島県美馬郡脇町周辺の植物調査を行った際に,道路脇のブタクサが食害されているのを発見し,食害された花穂や葉を博物館へ持ち帰った.これらには,幼虫数頭と蛹2個がついており,9月16日に成虫2頭が羽化した.残りの幼虫もブタクサを与えて飼育し,すべて成虫まで至った.これらの成虫は背面部に特徴的な条紋をもち,容易にブタクサハムシと同定できた.これが徳島県内での初めての発見となった.その後の調査で,11月までに県内の数カ所で本種の生息を確認できたので,徳島県における1999年 の本種の発生状況について報告する.

 この調査にあたり,関西における本種の発生の状況についてご教示下さった大阪自然史博物館の初宿成彦氏と,兵庫県立人と自然の博物館の沢田佳久氏,高知県の情報をお知らせいただいた高知大学農学部応用昆虫学研究室の荒川良氏,海部町及び佐那河内村のブタクサの所在地をご教示下さった徳島市の田渕武樹氏と朝日新聞社徳島支局の菊池均氏に厚くお礼申し上げる.

 

II.ブタクサハムシを発見した場所

 1.鳴門市

  (1)鳴門市撫養町木津

   成虫3頭,蛹2個,幼虫2頭,卵塊1個(卵数8個),1999年9月20日,大原賢二   採集.

 国道11号線の道路脇の空き地のブタクサに見られたが,個体数は非常に少なかった.加害されているブタクサは大きく成長したものではなく,30cmほどの株が数本しか食害されていなかった.まだ入ったばかりという印象を受けた. 

  (2)鳴門市撫養町木津〜中山トンネル

   成虫4頭,蛹2個,1999年9月30日,小川 誠採集.

 大原が見つけた木津の地点から,鳴門市街地に向かって東へ少し入ったところの道路脇のブタクサにて採集.個体数は多くはなかった.

  (3)鳴門市瀬戸町

成虫2頭,1999年9月30日,小川 誠採集.

 木津から3kmほど高松寄りの地点.国道11号線から鳴門市の明神地区へ分岐するあたりの道路脇にかなり大きく成長したブタクサがあり,食痕も多かったが,ブタクサハムシはすでにこのブタクサを食べ尽くしたような状態で,それほど個体数は多くなかった.

 2.阿波郡阿波町

成虫2頭,蛹4個,幼虫4頭,卵塊4個(卵数はそれぞれ8卵,9卵,10卵,12卵),   1999年9月19日,小川 誠採集.

 徳島自動車道上り線の阿波パーキングエリア内の盛り土に生えたブタクサで発見したもの.このパーキングエリアは最近完成したもので,ブタクサそのものが1999年になって生えたものと思われ,ブタクサハムシも多くはなかった.

 3.美馬郡脇町藤川

幼虫数頭及び蛹2個,1999年9月11日,小川 誠採集.

 徳島県の初記録となるブタクサハムシを採集した地点である.国道193号線を曽江谷川に沿って,脇町から香川県の塩江温泉に向かう途中の道路脇の荒れ地に生えていたブタクサについていたものを採集した.この道路沿いでは,ブタクサそのものが多いことはなく,現時点ではこの地点でしか見ていない.

 4.美馬郡美馬町

  (1)美馬町美馬インターチェンジ付近

成虫1頭,蛹1個,1999年9月19日,小川 誠採集.

徳島自動車道の美馬インターチェンジを出て,すぐの地点.ブタクサはそれほど多いわけではなかったが,成虫と蛹が見つかった.

  (2)美馬町喜来

成虫13頭,幼虫1頭,卵塊3(卵数はそれぞれ9卵,11卵,12卵),1999年9月19   日,小川 誠採集.

 吉野川に架かる美馬橋の北岸の河川敷に生えたブタクサで発見した.

 5.那賀郡那賀川町出島湿原

成虫2頭,幼虫2頭,1999年10月2日,小川 誠採集.

 出島湿原の北東端にあたる荒れ地のブタクサで発見した.徳島市の勝浦川河口付近で発見できていなかったので,吉野川の南岸側にはまだ入っていないのではないかと考えたが,すでに那賀川町まで入っていることを確認した.

 

III.ブタクサハムシを発見できなかった場所

 1.鳴門市鳴門町高島付近

 鳴門教育大学周辺及び埋め立て造成された地域であるが,ブタクサを発見できなか

った.

 2.鳴門市北灘町から香川県白鳥町付近

 徳島市と香川県高松市を結ぶ国道11号線沿いに道路脇や,海岸,港湾の荒れ地など

を調査したが,ブタクサを発見できなかった.

 3.鳴門市木津から上板町にかけての道路周辺

 鳴門市木津ではブタクサとブタクサハムシの両方を発見できたが,そこから県道12号線(鳴門ー池田線)沿いに上板町まで調査したが,ブタクサは発見できていない.

 4.徳島市大原町勝浦川河口付近

 国道55号線の勝浦浜橋の周辺である.ブタクサがかなり見られるにもかかわらず,小川の数回の調査ではブタクサハムシは発見できていない.

 5.名東郡佐那河内村

 徳島県立佐那河内いきものふれあいの里ネイチャーセンターの少し手前(標高約

700m)の道路脇にブタクサのかなりの群落があり,調査したが食痕もなく幼生期も成虫も発見できなかった.ブタクサは側溝工事のために持ち込まれた土について運ばれたものと考えられ,この周辺のほかの場所では発見できなかった.今回調査を行った場所の中では,最も高い所にあるブタクサである.ほかの地域も,ブタクサハムシはほとんどが平地で発見されており,どれくらいの高さまで生活できるのかも興味深い問題である.

 6.海部郡海部町吉田

 海部町吉田の海部川河川敷で調査を行ったところ,ブタクサが多数確認できたが,ブタクサハムシは発見できなかった.

IV.徳島県のブタクサハムシの概況と今後の課題

 関東や関西の発生地では,食草を枯らすほど食害することも報告されているが(大野,1997),徳島県ではそのような状況は見られず,個体数も少なかった.各産地とも侵入後,それほど時間が経っていない状況ではないかと思われた.

 四国では香川県に次いで本県にも生息していることが判明したが,大阪自然史博物館の初宿氏の私信によれば,1999年秋の時点で,愛媛県にもすでに入っているとのことである.一方,高知大学応用昆虫学研究室助教授の荒川良氏からは,高知県ではまだ本種が見つかったという情報はないというご連絡もいただいた.本種がどのような方法で分布を拡大しているのかはわからないが,他の地方の状況をみても,四国全体に分布を広げるのは時間の問題ではないかと思われる.徳島県においても,1999年秋の調査では,ブタクサ以外の植物での調査を行っていない.したがって,ブタクサが発見できなかった地域でも,ほかの食草で発生していた可能性がある.特に県内に広く分布しているオナモミ,オオオナモミでの発生の有無について,詳細な調査を急がねばならない.

 本種が,今後四国内でどのように分布を拡大するのか,また,これまでに知られている植物以外の植物を利用することはないのかも含めて,継続して調査する必要がある.

 

引用文献

長谷川洋,1999.ブタクサハムシの採集記録.月刊むし(346): 18-19.

市川顕彦・細井孝昭・宮武頼夫,1998.ブタクサハムシ,大阪に出現.Nature Study,44(3): 8.

伊澤和義,1999.岐阜県南部のブタクサハムシ.月刊むし(346): 18.

加藤敦史・吉道俊一,1999.ブタクサハムシ四国に侵入.月刊むし(343): 44.

河上康子,1998.高槻市でもブタクサハムシの分布を確認.Nature Study 44(3): 8.

大野正男,1997.ブタクサハムシ(新称)日本に侵入.昆虫と自然 32(11): 35.

奥村正美,1999.福岡・山口の両県でブタクサハムシ発生.月刊むし(345): 46.

鈴木邦雄・堀卓央・中村大樹・佐藤謙治,ブタクサハムシ富山県に侵入.月刊むし(343): 44-45.

高橋敞,1999.京都市内のブタクサハムシ.月刊むし(346): 18.

滝沢春雄・斉藤明子・佐藤光一・平野幸彦・大野正男,1999.侵入昆虫ブタクサハムシ ー関東地 方での分布拡大と生活史ー.月刊むし(343): 44.

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