ミノムシが消えた


 ミノムシというのは,ガの中にミノガ科というグループがあって(日本には50種ほどいることがわかっています)このミノガの幼虫が作る巣をミノ,中の幼虫をミノムシと呼んでいるのですが,二つ合わせてミノムシと言ったほうがいいでしょう.ミノというのは昔の人が農作業の時などに使った雨や,暑い日差しを避けるための蓑(みの)からきています.

 みなさんも 冬に葉を落として寒そうにしているサクラやウメの木の枝などにぶら下がっているのを見ことがあると思いますが,これはミノガの中でも一番大型のオオミノガというミノムシだったのです.ところが,ここ数年の間に,このオオミノガはほとんど見られなくなってしまいました.「いや,まだうちの木にはついていますよ」といわれる方もおられますが,それらはたいていはチャミノガという少し小さいミノムシです.本州や九州ではもう見ることができないといわれるほど激減したオオミノガ・・・いったい何が起こったのでしょうか.

 それは,ハエに食べられたのです.ハエといっても家の中を飛び回るキンバエなどではありません.ハエの中にヤドリバエと呼ばれるなかまがいて,その中の一種がオオミノガを専門に殺しているのです.ヤドリバエというのは,寄生するハエという意味で,オオミノガにつくヤドリバエは,オオミノガの幼虫がミノから頭を出して葉を食べている所をねらってその葉にものすごく小さな卵を産みつけます.ハエの卵は幼虫が葉を食べるときに一緒に食べられて体の中に入り,ミノムシの消化管の中でかえります.かえったハエの幼虫はミノムシの体を中から食べてしまうのです.しかも一匹のミノムシから普通は4-6個体,多いときには10-30個体くらいのハエが育つので,ハエの数はものすごい勢いで増えてしまったのです.このようにして,あっという間に日本国中のオオミノガが姿を消しました.

オオミノガのメスのミノから出てきたヤドリバエ

 このハエは,1995年秋に福岡県で発見され,1997年には九州ではオオミノガが全滅しました.ヤドリバエの研究者である九州大学の嶌 洪(しま ひろし)教授が調べたところ,東南アジアに広く分布するヤドリバエで,一番近いところでは中国の南部までしかいないことがわかりました.いつやってきたかはわかりませんが,風にのって自分で飛来したか,あるいは偶然に荷物などについて入ってきたとしか考えられないのです.

 本州でもほとんど姿が消えたオオミノガですが,この四国の徳島県と高知県にはまだ少しですが生き残ったところがあるのです.徳島県では美馬郡脇町や美馬町,麻植郡鴨島町,そして徳島市内では眉山の麓や,上八万町のしらさぎ台の周辺に少し見られます.高知県でも南国市をはじめいくつかの場所で発見されています.今や,四国はオオミノガにとって生き残りをかけて戦う最後の場所となってしまいました.

 みなさんも家のまわりの木に,大きなミノがぶら下がっていたら,どうか殺さずに,そっと見守っていただきたいものです.


オオミノガの生活史の概要です.おおよそこのような生活のサイクルを持っています.


 

オオミノガとチャミノガのミノの形と付き方の違いです.このような点に気をつけると識別できます

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