くらしの中の藍染め

 江戸時代後期から明治時代にかけて、徳島は、染料「藍」の産地として全国に名をはせました。徳島の藍生産が隆盛した一因には、藍と相性のよい木綿が、庶民のくらしに、急速に普及し、なくてはならないものとなったことがあります。藍と木綿の結びつきは、人々のくらしに密着しながら、全国各地で美しい染織品を生み出してきました。

 この展示では、徳島県立博物館のコレクションの中から特徴ある藍染織品を紹介します。同時に、くらしに用いられてきた藍染めに見られる、人々の衣生活へのこだわりや工夫について振り返ります。

 

(1)絞り

 絞りは、布地の染め残す部分を糸でくくったり、縫ったりすることによって色留めをし、染め液に浸すという染織技法です。布を絞った部分に残る立体感や、染料がにじんで、ぼかした輪郭が出るのが特徴とされます。

 絞りの技法は古くから行われていましたが、木綿が普及すると、木綿の産地であった、有松・鳴海で、さらに多様な絞り技法が編み出され、全国に広まりました。絞りの多くは、浴衣地として用いられました。

 

・木綿地藍三浦絞り銀杏紋着物

 産地:不明

 三浦絞りは有松・鳴海(愛知県)で発展した代表的な絞り技法の一つです。染め上がった粒の紋様がひよこの姿に似るのが特徴とされます。本資料には藍の濃淡の一面の三浦絞りに白地の銀杏紋が表されています。

 

・木綿地段紋に団扇紋夏着

 産地:有松・鳴海(愛知県)

 縫い絞りの技法によって、色の濃淡による段紋と、白地の団扇紋様を表した着物です。団扇は、涼を呼ぶ紋様として夏用の衣服に好んで用いられました。

 

木綿地折り花絞り肌着

 産地:有松・鳴海(愛知県)

 布地を屏風だたみにし、両面から板を当てて、強く縛ることによって染める、板締め絞りの技法によって表された花紋様です。板締め絞りでは、花のほか麻の葉、格子など幾何学的な連続紋が表されます。

 

・木綿地藍傘雨紋様絞り着物

 産地:横手・浅舞(秋田県)

 帽子絞りと鹿子絞りの技法で、傘と雨の紋様が表された着物です。横手・淺舞の地域は、江戸時代に、西廻り廻船によって絞り技法が伝わり、絞りの産地として発展しました。

 

・木綿地鳴海紺型下着

 産地:不明

 身頃部分は鳴海紺型と呼ばれる型染めの布、袖は三浦絞の布でつくられた下着です。

 鳴海紺型は、有松・鳴海で木綿の絞りが発達した際に、絞り染めが大変な人気を得たため、より大量生産可能な型染めによって、絞りに似た風合いを出すよう工夫された染織技法です。

 

(2)絣

 絣は柄になる部分を白く染め残したり、逆に染めたりしておいた糸で、布面に紋様を織り出す技法です。紋様がかすれて表現されるのが特徴です。

 絣の技法は東南アジアから沖縄に伝わってきたとされます。木綿が普及した頃に絣の技術が沖縄から伝来し、薩摩(鹿児島県)、久留米(福岡県)、伊予(愛媛県)、大和(奈良県)、備後(岡山県)などが木綿の絣の産地として有名になりました。

・幾何紋着物

 産地:伊予(愛媛県)

 細かな幾何学紋様の繰り返しが織り出された絣の着物です。久留米商人の絣の着物を見て、絣技法が開発されたと伝わる伊予では、明治中期頃に、沖縄の絣紋様を積極的に取り入れました。

 

傘に花扇紋絣着物

 産地:弓ケ浜(鳥取県)

 傘と扇を組み合わせた紋様が織り出された絣の着物です。鳥取県米子・境港一帯で発達した弓浜絣の特徴は、身の回りの器物を絵絣として表すこととされます。

 

・木綿地幾何紋白絣

 産地:大和(奈良県)

 白地に紺の絣紋様が織り出された着物です。大和では白地に紺、あるいは茶などの絣紋様を表す、白絣が多く産出されました。男性用の着物として受容されました。

 

(3)仕事着

 手仕事によって糸を紡ぎ、布を織りだしていた時代、布地は貴重品でした。藍染めには、布地を丈夫にするという性質があり、日々の衣料に用いる布として最適なものでした。仕事着には、布地をできるだけ長く、大切に扱おうとする人々の工夫をうかがうことができます。同時に藍染めをいかした、奥の深い美意識を見ることができます。

駕篭かき衣装陸尺看板

 産地:不明

 大名などの乗る駕篭をかく人の衣装です。通常の駕篭かきの衣装と区別し、特別に陸尺看板と呼びます。布を堅牢にする効能もある、深く染められた紺地に、縞模様の衿と帯が組み合わせられるなど、斬新で粋なデザインを見て取ることができます。

 

こぎん刺し仕事着

 産地:青森県

 紺の麻地に、こぎん刺しと呼ばれる、木綿糸の縫い目で紋様が施された仕事着です。木綿の栽培が不向きであった東北地方では、麻地の着物を木綿糸で補強、装飾する技術が発達しました。木綿糸の細かな縫い目に、衣生活への工夫と美意識を窺うことができます。