海陽町浅川、海部川上流地域の盆棚の事例
＊１先祖、２新仏、３無縁仏それぞれについて�@まつる場所、�Aまつる場所の呼称、�Bまつる場所の形態、�Cまつり方、�Dその他（供物をする・拝む以外）を記しています。
一 浅川の事例
［事例一］浅川字川ヨリ西（情報提供者：昭和八年生 女性／檀那寺：江音寺 曹洞宗）
１ 先祖
�@屋内の仏壇でまつる。
�A「仏壇」。
�B仏壇の中に位牌を出して並べる（今年からは省略した）。ほかに仏壇に特別な飾りつけをすることはない。
�C一三日の夕方、お墓に参る。「ムカエダンゴ」を作ってお供えに行く。火を焚くということについては聞いたことがない。
仏壇に、オリョウグ（御霊供）、果物などをお供えする。供物についてのきまりは聞かない。一四日にはお寿司、一五日にはおはぎをお供えする。供物は一四日と一五日にする。一六日に送りに行くといってお墓に参る。
八月一一日には檀那寺で施餓鬼供養が行われる。その際に、紙札と木札をいただく。この紙札と木札は、一六日にお墓に「家の仏」を送る際、紙札は墓の両脇の花立てにくくりつけ、木札は墓石の後ろに置く。
２ 新仏
�@屋内の仏壇でまつる。
�A「仏壇」
�B先祖と同様。
�C先祖と一緒に同様にまつる。
�D初盆から三年目の盆まで、八月一日から三一日まで、家の軒下にチョウチンをつるす。つるし終わったチョウチンは八月三一日に寺で焼却する。
３ 無縁仏
�@家屋の玄関横の外側の壁に、毎年設置する木製の小型の家のような箱。「ムエンさんをまつる」といい、だれかわからない霊が家の中に入ってこないように外でおまつりをするという。
�A特に呼び名はない。
�B木製の作り置きの小型の家のような箱をとりつける。その下に砂を盛って線香や花（ミズハギ）などを立てる（写真一、二、三）。
�C一四日と一五日に供物をする。供物は仏壇と同様。箱の下部の砂を盛ったところに、葉っぱの上に、ナスをきざんだものに白米をまぶしたものをお供えする「ミズノコ」という。かつてはムエンさんに供えたものは、一五日の夕方川に流していた。港の向こうの方の海まで流しに行ったという人もある。
一四日に檀那寺から僧が「タナギョウ」に来て、ムエンさんをまつっている前で経をあげてくれる。
写真一 ムエンさんをまつる所（特に呼称はない）
写真二 写真一の上部箱の中の供物
写真三 写真一下部の供物
［事例二］ 浅川字川ヨリ西（昭和一六年生 女性／檀那寺：江音寺 曹洞宗）
１ 先祖
�@屋内の仏壇でおまつりする。
�A「仏壇」
�B仏壇には、位牌を出して並べる。仏壇前を段にして、故人の写真を並べる。そのほかに特別な飾り付けをするということは聞かない。
�C一三日に「お迎え」といって墓に行く。墓に「ミズノコ」という、ナスを刻んだものと洗い米を混ぜたものを供え、線香を焚く。一一日に檀那寺で行われる「セガキ」（施餓鬼）にお布施をしていただく紙幡七枚のうち四枚を持って行って、両脇の花立てに二枚ずつくくりつける。（残りの三枚は、玄関横にまつってあるムエンホウカイさんの花立てにくくりつける）。その後檀那寺にまつってある六地蔵に参り、墓に供えたと同じミズノコを供える。（ミズノコは、墓、六地蔵に供えた後に、少し残しておいて、家の玄関の横にまつっているムエンホウカイさんのところに供えるという）。
仏壇には一四日と一五日に、オリョウグ（御霊供）、ダンゴ、故人の好きだったものなどを供える。人間の食事と同様、一日三回供物をする。間にお茶などもお供えする。
一五日の夕方、送るといって、墓に、ミズノコと自分の家では、「お弁当」といって、おむすびと故人の好きであった焼いた鮭を用意して持って行き供える。（この時、玄関横のムエンホウカイサンにもミズノコ）を供える。一六日に片付けて掃除をする。
２ 新仏
�@屋内の仏壇でおまつりする。新仏だけ別におまつりした記憶はない。
�A「仏壇」
�B特別な飾り付けをした記憶はない。
�C先祖と同様におまつりする。ただ、初盆として、親戚が菓子とか果物の供物をもって訪れるので、それらの供物を仏壇にお供えした。集まってくれた親戚に食事を出していたと思う。また、初盆の時は、親戚が集まった時に、住職に特別に仏壇の前で経をあげてもらうと思う。
�D初盆から、三年間は、八月いっぱいは家の軒下に提灯をつるすという。つるす時期が終了したら、まとめて八月三一日の夜、檀那寺で燃やすとしている。
３ 無縁仏
�@家屋玄関の横の外側の壁に毎年設置する木製の小型の箱。「ムエンホウカイさんのため、全然知らない仏が家にはいらないようにするためまつる」という。
�A特に呼称はない。
�B木製の作り置きの小型の家のような形をした箱を玄関脇につり下げる。その下に砂を盛り、花立てを設置する。花立ての下に八月一一日に檀那寺で行う施餓鬼でお布施した際にいただく紙幡を三枚つける（写真四、五、六）。
�C一三日に墓に参って、寺の六地蔵を参ってから、残しておいたナスを刻んだものと洗い米を混ぜたミズノコをムエンホウカイさんをまつっている花立ての前あたりに供える。一四日と一五日には、つるしてある木箱の中に、仏壇にお供えするものと同様のものを供える。一五夕方、もう一度ミズノコを花立ての前に供える（その後に墓に参って先祖を送るという）。一六日に、ミズノコやつるしていた木製の箱など片付ける。かつては、一六日にミズノコを川に流すといった。
一二日の午後から檀那寺の僧が檀家各家々を順に廻りはじめる。一四日か、一五日に僧が来て、ムエンホウカイさんをまつっている所の前で経をあげてくれる。
写真四 ムエンホウカイさんをまつる所（特に呼称はない）
写真五 写真四の上部の供物
写真六 写真四の下部の供物
［事例三］ 浅川字川ヨリ西（昭和五年生：女性 檀那寺：東泉寺 真言宗）
１ 先祖
�@屋内の床の間
�A「床の間」
�B位牌を全部出してきて床の間に並べる（仏壇の中には狭くて並べられないので、床の間でまつる）。床の間には向かって右手に弘法大師の掛軸、左手には四国八八ケ所を廻った時につくった掛軸をかける（仏壇の中に常に、右から弘法大師、十三仏、不動の掛軸を掛けている）。ほかに、床の間に特別な飾り付けはしない。（自分の生家は、川上だが、子供の頃、仏壇の中に竹を渡し、「キビ」（トウモロコシ）の皮をその竹に簾のように吊していた記憶がある）。
�C一四日に墓に参り、迎えに行くという。迎えに行く時に途中、「カシワギ」と呼んでいる葉っぱをとって、墓の前にカシワギの葉の上に刻んだ茄子と洗い米を混ぜたものを供える。これは「ミズノミ」と呼んでいる。ほかに「ムカエダンゴ」といってダンゴもお供えする。（墓から帰ってきたら、玄関の横にまつっているムエンさんの所にミズノミ、ダンゴをお供えする。）床の間には、ムカエダンゴを供え、一四日と一五日に果物、菓子などの供物、お茶、オリョウグ（御霊供）、をお供えする。一五日夕方「オクリダンゴ」を用意する。床の間に供え、その後、玄関横にまつっているムエンさんの所にオクリダンゴとミズノミを供え、送りに行くといって、墓に行って、オクリダンゴとミズノミを供える。一六日に供物、墓などを片付け掃除をする。その際に一六日に檀那寺でしている施餓鬼でいただく木札を墓に持っていって墓の後ろに立てる。
一四日に檀那寺の僧が経をあげに来てくれる。床の間にまつっている「仏さん」の前で経をあげてもらう。
２新仏
新仏のまつり方については、よく覚えていない。初盆から三年間、八月いっぱい家の軒下に提灯（昔は飾りのいっぱいついたトウロウのようなものだった）をつるすことは聞く。
３ 無縁仏
�@家屋玄関の横の外側の壁に毎盆設置するまつり場。「ムエンさんをまつる」という。檀那寺からもムエンさんだから、毎盆まつらないといけないと聞いた。
�A特に呼称はない。
�B木製の作り置きの小型の家のような形をした箱を玄関横の外壁にとりつける。（箱は大工さんに頼んで作ってもらった。）その下に花立てと線香立てを設置する（写真七）。
�C一四日、墓に行って参った後、ミズノミとムカエダンゴをお供えする。一四日、一五日、床の間にまつっている先祖と同様の供物を、箱の内部に供える。一五日夕方、先祖を墓に送りに行く前に、オクリダンゴとミズノミをお供えする。一六日に片付ける。昔は、ムエンにお供えしたミズノミとダンゴは川に流すといった。
写真七 ムエンさんをまつる所（特に呼称はない）
二 海部川上流域地域の事例
［事例四］相川字東前（情報提供者：昭和四年生 男性・七三才 女性／檀那寺：海陽町大井にある阿弥陀寺 真言宗）
１ 先祖
�@毎盆川原に並べた石。「ホトケさん」をむかえるといって川原に石を並べていた（現在はしていない）。また、「古い仏」は屋内の仏壇でおまつりする。
�A川原に石を並べていたものに特に呼称はない。仏壇は「仏壇」。
�B八月一三日の朝、川原に石を立てて並べ、その前に供物を置くための平石を置いた。まつる場所の両脇にはシキビを立てるようにした（図二）。仏壇には内部上方に竹を渡し、供物をつるすようにした。
�C八月一三日の朝、お墓と川原に立てた石の所に行って、マツの木を削ったものを束ねたタイマツで火を焚いた。お墓と川原の石前に「シンコダンゴ」という丸いダンゴに餡のついたもの、ナスビを刻んだものと生米を混ぜたものをお供えした。お墓と川原に立てた石の所、どちらを先に訪れたか覚えていない。仏壇には、渡した竹にナスビ、根引きのサトイモ、素麺などをつるして供えた。また、ダンゴ、オリョウグ（御霊供）を置いてお供えした。
一五日ぐらいに「タナギョウ」といって寺からお参りに来る。仏壇の前で経をあげてもらう。
２ 新仏
�@屋内の仏壇。
�A「仏壇」。
�B先祖をまつるの同様。
�C先祖をまつるのと同様。
�D八月一日から一ケ月、家屋の軒下に提灯をつるす。
３ 無縁仏
この辺りで盆に無縁仏をまつるというのは特に聞かない。
図二 川原に石を並べるまつり場（情報提供者に書いてもらったもの）。
［事例五］平井字瀬津（情報提者：五0才 男性／檀那寺：龍王寺 真言宗）
１ 先祖
�@川原の水際に石を据えてつくったまつり場（現在はしていない）。「家の仏さんを呼び込むために」といった。屋内の仏壇に供えものをする。
�A川原に石を据えたまつり場に特に呼称はない。「川原のハカさん」といった。仏壇は「仏壇」。
�B川原の水際に墓石のようなものを選らんで据えた。その両脇に「シキビ」（樒）をさすようにした。樒が「早く水に流れるような」位置に設置した。
仏壇には特別な飾り付けはない。
�C一三日の晩、川原に石を設置し、一四日の朝、そこに参りに行った。お米を供え、石の両脇に樒を立て、線香を焚いて帰ってきた。
仏壇には、一四日の朝、お菓子、おはぎ、ダンゴなどをお供えした。
２ 新仏
新仏のまつり方に特別なまつり方はない。先祖とまつる場所を分けるということはない。ただ、初盆の時はトウロウをつるすという。
３ 無縁仏
「ムエンボトケ」は、「ムエンボトケ」のお墓とされているところでおまつりをする。
〔事例六〕小川字皆ノ瀬（情報提供者：大正三年生 女性・昭和一六年生 女性・昭和六年生男性／檀那寺：海陽町鞆浦にある多善寺 浄土宗）
１ 先祖
�@屋内の仏壇。「家の仏さん」は仏壇でまつる。
�A「仏壇」。
�B先祖の過去帳を出して置く。かつては、仏壇の内部上方に「一年竹」を切ったものを渡して、供物をつるして供えた。「一年竹は仏さんにするものなので他には使わない」といった。現在は竹を渡すことはなく、供物は置いて供えるだけである。
�C一三日の夕方屋敷の門の横でマツのタイマツを焚いた。一四日の朝、墓参りに行く。墓にはダンゴ、菓子などを供え、線香を焚く。仏壇には、一四日、一五日、かつては、渡した一年竹に「フロウ」（豆の一種）、「ヒナ」（植物の名前）、マイモ（里芋）、センベイ（麩焼きのような薄い丸い菓子だと思われる）などをつるして供えていた。そのほか、オハギ、オリョウグ（御霊供）をお供えする。一六日の朝お墓に行って送るといった。また、かつては一六日の夕方、門の所で火を焚いた。
一五日に檀那寺から僧が拝みに来る。仏壇の前で経をあげてもらう。その際に「施餓鬼供養」の木札を持ってくるので、お布施をする。
２ 新仏
�@屋内の床の間。初盆の場合は、先祖とは別に床の間にまつる。
�A「オトコ」（床の間）。
�Bかつては、先祖をまつる仏壇と同様、一年竹を渡し、供物をつるすようにしていた。
�C供物などは、仏壇の家の仏と同様である。
�D初盆から三年間、八月一日から三一日まで、軒下にトウロウをつるす。三年つるしたらトウロウは焼くという。
３無縁仏
�@川岸に毎盆設置する石の前。「ムエンさんのためにおまつりする」という。
�A特に呼称はない。
�B川原の水際に石を立て、「一本花」として樒を立てる（写真八）。
�C一三日に川岸に石を立てる。一四日の朝「お墓に参ってから、ムエンさんを参る」という。墓参りをしてから、川原に設置した石のところに行って、柄杓で、川の水をすくってかけ、供物をして線香を焚く。送る場合は、一六日に、「川原のムエンさんに参ってから、お墓に参って送る」という。
写真八 川岸に設置されたムエンさんをまつる所（呼称は特にない）。
［事例七］小川字皆ノ瀬（情報提供者： 大正一一年生 男性・昭和八年生 女性／檀那寺：海陽町奥浦にある薬師寺 真言宗）
１ 先祖
�@屋内の仏壇。
�A「仏壇」。
�B一二日頃に位牌を全部出して川で水浴びをさせていた（現在は、家屋の近くの水場で洗う）。その後その位牌を全部仏壇に並べる。かつては、仏壇の内部上方に「一年竹」をつっぱらせて渡していた。そこに根ごと引いてきた「ズキイモ・マイモ」（里芋）と「ヒナ」（植物の呼称）、「フリョウ」（豆の一種）、「ホオジク」（ホオズキ）、ナス、平たいセンベイのような菓子をつるして供えていた。新品のタオルもつるしてかけていた。仏壇の横には弘法大師の掛軸をかける。そのほか、リョウグ（霊供）、ダンゴ（盆に供えるダンゴは「仏さんが嫌うので」といって塩を入れないと聞く）、オハギ、素麺、果物などを置いて供える。
�C一四日の朝、墓に行って迎えてくる。ナスを刻んだものと洗い米を混ぜたもの、オダンゴ、菓子、水などを持って行って供え、線香を焚く。仏壇は一四日、一五日にお供えをする。一四日はダンゴ、一五日にはオハギをお供えするという。ダンゴは二一個供える（真言宗だから弘法大師の命日の数にちなんでいると思う）。一六日に送るという。川にまつっているムエンさんに参ってから、墓に先祖を送るといい、一四日に墓に行くとき持っていったものと同様のものを持って行く。かつては、仏壇につるして供えていた供物は、一六日に送るとする際、ムエンさんをまつっているところで、川に流していた。
２ 新仏
�@床の間（新仏をまつるには、位牌を床の間に移して、別におまつりをしていた）。
�A床の間。
�B覚えていない。
�C覚えていない。
�D初盆から三年間、八月一日から三一日まで、家の軒下にトウロウをつるすという。
３ 無縁仏
�@川岸に毎盆石を立ててまつる。「ムエンさんをまつる」という。（水の事故で亡くなった人などまつらないといけないと思う）。
�A特に呼び名はない。
�B川岸に石を設置し、脇に「一本花」として樒の枝を挿して立てる（写真九）。
�C一四日の朝、「先に墓に参ってから、川岸のムエンさんをまつる」という。墓に持っていって供えるのと同様、ナスの刻んだものと洗い米を混ぜたもの、ダンゴ、お菓子を持って行く。柄杓で川の水をくんで、石にかけた後、供物をして、線香をあげる。その後、送るまでは、このまつり場には来ない（盆の間、川に行ってはいけないといった）。一六日、送る時は、「先にムエンさんへ行ってからお墓に行って先祖を送る」という。一四日と同様の供物を供え、線香をあげる。その後墓に行って、先祖を送る。
写真九 川岸に設置されたまつり場
［事例八］多良字井口（情報提供者：昭和二二年生 男性・大正三年生 男性／檀那寺：海陽町吉野にある覚成寺 真言宗）
１ 先祖
�@墓と屋敷の外側に流れる用水脇に毎盆設置するまつり場で迎え、屋内の仏壇でおまつりする。
�A用水路脇に設置するまつり場に特に呼び名はない。
�B用水脇に石を設置してまつり場とする。竹筒で、花立てと線香立てを設置する（写真一0）。本当は川岸にするといいらしいが、この辺は家屋から川が離れているので、用水脇に設置している。仏壇の飾り付けについては知らない。
�C一三日からまつり一五日に送るという。一三日夕方、墓に行き、用水のところのまつり場をまつる。「ホトケさんを迎える」という。送りは、一五日夕方で、用水のところのまつり場を取り払って、それから墓地に送りに行くという。仏壇でのまつり方については、よく知らない。
盆の間、檀那寺の僧が各檀家を廻ってくる。屋内の仏壇の前で拝んでもらう。
２ 新仏
新仏のまつり方については知らない。新仏をまつるために特別なまつり場は設けない。初盆の時提灯はつるす。
３ 無縁仏
ムエンをまつるということについては、聞いたことがない。
写真一0 用水路脇に設置されたまつり場（呼称は特にない）
