神山町鬼籠野の正月のまつり方一例
県内には、正月飾りや供物のまつり方を大切に伝え行っている家もあります。神山町鬼籠野のある家の正月のまつり方の一部を紹介したいと思います。
まず、注連縄ですが、もとの方から、1本、5本、3本の藁の足を出し、やはりもとの方からハナ(シキミ)、ウラジロ、ワカバ(ユズリハ)の葉を順に挟んだ注連縄をまつり場とする所に張ります。屋敷や家屋の入り口に、門松や注連縄を飾るしきたりはありません。
屋敷内、家屋の東側に、燃料となる割木を組んだものに注連縄を輪状にくくりつけ、まつり場とします。これを「トシトクさん」と呼んでいます(図1)。トシガミに該当する神を迎える場と考えられます。
屋内床の間前に、東の方へ向けて、「お棚」を設けます。これは、板状のもの(幅70cm、奥行き56cm、厚さ2cm)の両側にロープをかけ、天井からつりさげるもので、大晦日に家の当主が設置することになっています。棚をつりさげているロープの上方に注連縄を輪状にくくります。また、飾りとして棚の、向かって左手前に、色とりどりの飾りや、餅を小さく丸めたものをくっつけた「ウサギカクシ」という植物の束をつけます。棚につける飾りの植物は、マツもしくはヤナギの枝を使うことが一般的ですが、この家では、ウサギカクシを使うのが家のしきたりになっており、特徴的なならわしとなっています。ウサギカクシの下方に、「カケダイ」という2尾の鯛と「オカキ」という干し柿4個をつるします。このお棚では、中央で「ヤガミさん」、右端の方で「ヤマのカミさん」をおまつりします(図2)。このほかに、床の間には、氏神である八幡神社の掛軸をかけ、「タユウ」(神主)から配布される天照大神のお札を置き、上方に注連縄を張っておまつりをします(図3)。
続いて供物のしきたりですが、元旦を迎えるにあたって、まず鏡餅をお供えします。お棚に「オカガミ」という大きい鏡餅一重ねを供え、さらに、ヤガミさんとヤマのカミさんへ「コモチ」という小さい鏡餅を二重ねしたものを重箱に入れて供えます。この時、ヤガミさんへのコモチは重箱の中央に、ヤマのカミさんへのコモチは、重箱の右奥隅に置いてお供えするとされています(図4)。コモチは、一年の月の数である12組用意し、屋内でまつる神々にも供えると伝えられています。現在は、省略をして10組のコモチをお供えしています。供え先は、先述したお棚に2、床の間に2のほか、常設の神棚でまつっている皇大神宮と「タカヤマのカミガミ」に2、イズミ(井戸)・エビス・ダイコクさんにまとめて1、テンジンさんに1、オコウジンさんに1、仏壇の仏さんに1となっています。
コモチを供えた神々には、さらに、正月三ケ日にはお節、11日にお棚のオカガミを割った餅と豆腐とジイモ(里芋)、14日の朝にハッタイ粉、15日に炊いたお粥をお供えすることになっています。屋外にまつるトシトクさん、また「オフナトさん」という神様にも三ケ日、11日、14日、15日に同様のお供えをします。その都度、それぞれの神に準備しておいた松の木で作ったお箸を添えることになっています(図5)。蛇足ですが、14日にお供えをするハッタイ粉は、同日夕方にさげて、屋敷回りにまきます。これはナガムシ(蛇)除けになるといわれます。
図1 家屋東側にまつられるトシトクさん
トシガミに該当する神を迎える場と考えられます。
図2 正面から見たお棚
上方に注連縄がつけられ、左手前にウサギカクシの飾り、カケダイ、オカキがつけられている。
図3 床の間
上方には注連縄が張られ、八幡神社の掛軸が掛けられ、その下に天照大神のお札が置かれている。
図4 お棚へのコモチの供え方
左がヤガミさんへのコモチ、重箱の中央に置いて供える。右がヤマのカミさんへのコモチ、重箱右奥隅に置いて供える。
図5 神々への供物に添えるために準備された箸
松の木を伐ったものである。