正月のまつり方

庄武 憲子

 

1 正月飾りの意味

 新しい年の始まりである正月を迎えるにあたって、注連縄(しめなわ)を飾ったり鏡餅を供えたりすることは、多くの家で行っていることだと思います。ただの飾り付けに思われがちですが、意味があったとされています。

 正月の飾りや供物(くもつ)は、年の始めに、これから一年のくらしを祝福に訪れる神様を迎えまつるためのものとされています。この神様は、一般に「トシガミ」といわれ、穀物の霊や家の先祖の霊への信仰から成立した神と考えられています。注連縄は、神を迎える神聖な場所の区域を示し、丸い鏡餅は、各人の魂をかたどるもので、訪れた神によって生命の再生、更新をはかってもらうために、捧げる供物であったといわれています。さらに、屋敷や家屋の入り口に立てる門松は、トシガミをそこに降ろして家に迎えてくる依代(よりしろ)と考えられます。また、屋内には常設の神棚とは別に、恵方棚(えほうだな)などと呼ぶ、トシガミのための特別なまつり場が設けられました。同時に日常まつられている神々や、大切な道具などにも注連縄が張られ、正月の間特別な供物が供えられました。今では、簡略化され忘れられつつありますが、正月を迎えるためには、丁重で厳粛な飾りや供物がなされるものでした。

2 正月のまつり方一例

 県内には、正月飾りや供物のまつり方を大切に伝え行っている家もあります。ここで、神山町鬼籠野(かみやまちょうおろの)のある家の正月のまつり方の一部を紹介をしたいと思います。

 まず、注連縄ですが、もとの方から、1本、5本、3本の藁(わら)の足を出し、やはりもとの方からハナ(シキミ)、ウラジロ、ワカバ(ユズリハ)の葉を順に挟んだ注連縄をまつり場とする所に張ります。屋敷や家屋の入り口に、門松や注連縄を飾るしきたりはありません。

 屋敷内、家屋の東側に、燃料となる割木を組んだものに注連縄を輪状にくくりつけ、まつり場とします。これを「トシトクさん」と呼んでいます(図1)。トシガミに該当する神を迎える場と考えられます。

 屋内床の間前に、東の方へ向けて、「お棚」を設けます。これは、板状のもの(幅70cm、奥行き56cm、厚さ2cm)の両側にロープをかけ、天井からつりさげるもので、大晦日に家の当主が設置することになっています。棚をつりさげているロープの上方に注連縄を輪状にくくります。また、飾りとして棚の向かって左手前に、色とりどりの飾りや、餅を小さく丸めたものをくっつけた「ウサギカクシ」という植物の束をつけます。棚につける飾りの植物は、マツもしくはヤナギの枝を使うことが一般的ですが、この家では、ウサギカクシを使うのが家のしきたりになっており、特徴的なならわしとなっています。ウサギカクシの下方に、「カケダイ」という2尾の鯛と「オカキ」という干し柿4個をつるします。このお棚では、中央で「ヤガミさん」、右端の方で「ヤマのカミさん」をおまつりします(図2)。このほかに、床の間には、氏神である八幡神社の掛軸をかけ、「タユウ」(神主)から配布される天照大神(あまてらすおおかみ)のお札を置き、上方に注連縄を張っておまつりをします(図3)。

 続いて供物のしきたりですが、元旦を迎えるにあたって、まず鏡餅をお供えします。お棚に「オカガミ」という大きい鏡餅を一重ね供え、さらに、ヤガミさんとヤマのカミさんへ「コモチ」という小さい鏡餅を二重ねしたものを重箱に入れて供えます。この時、ヤガミさんへのコモチは重箱の中央に、ヤマのカミさんへのコモチは、重箱の右奥隅に置いてお供えするとされています(図4)。コモチは、一年の月の数である12組用意し、屋内でまつる神々にも供えるといい伝えられています。現在は、省略をして10組のコモチをお供えしています。供え先は、先述したお棚に2、床の間に2のほか、常設の神棚でまつっている皇大神宮とタカヤマのカミガミに2、イズミ・エビス・ダイコクさんにまとめて1、テンジンさんに1、オコウジンさんに1、仏壇の仏さんに1となっています。

 コモチを供えた神々には、さらに、正月三ケ日にはお節、11日にお棚のオカガミを割った餅と豆腐とジイモ(里芋)、14日の朝にハッタイ粉、15日に炊いたお粥をお供えすることになっています。、屋外にまつるトシトクさん、また「オフナトさん」という神様にも三ケ日、11日、14日、15日に同様のお供えをします。その都度、それぞれの神に準備しておいた松の木で作ったお箸を添えることになっています(図5)。蛇足ですが、14日にお供えをするハッタイ粉は、同日夕方にさげて、屋敷回りにまきます。これはナガムシ(蛇)除けになるといわれます。

3 なぞの多い正月のまつり方

 紹介した一部だけでも、正月には実に多くの神々をまつり、そのまつり方には、複雑で細かい、しきたりがあったことがうかがえると思います。

 県内にはほかにも、注連縄、門松、供物など正月のまつり方全般に、地域や家ごとさまざまなしきたりがあったことがいわれています。正月が人々のくらしの中で大変重要視されてきたことを表しているのだと思います。

 一方で、正月のまつり方の多岐にわたる違いについては、その理由がわからないものがほとんどです。正月のまつり方をできるだけ多く記録し、整理する事を、新年度を迎えるにあたっての目標の一つにしています。

  

図1 家屋東側にまつられるトシトクさん。

図2 正面から見たお棚。上方に注連縄がつけられ、左手前にウサギカクシの飾り、カケダイ、オカキがつけられている。

図3 床の間。上方には注連縄が張られ、八幡神社の掛軸が掛けられ、その下に天照大神のお札が置かれている。

図4 お棚へのコモチの供え方。左がヤガミさんへのコモチ、重箱の中央に置いて供える。右がヤマのカミさんへのコモチ、重箱右奧隅に置いて供える。

図5 神々への供物に添えるために準備された箸。松の木を伐ったものである。


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