ムスタン〜風の谷へ花々を求めて〜

茨木  靖

 

 昨年、海外学術調査に参加し、ヒマラヤの懐の国ネパールのムスタン地方の植物を調べに行ってきました。ここではムスタンの環境とそこで見られる花をいくつかご紹介します。

風のムスタンへ
 亜熱帯の町、ポカラから飛行機で30分。緑の森を越え、巨大なヒマラヤ山脈の谷をぬって、いよいよムスタンに入る切り立った谷間を抜けた瞬間、あたりは一面の茶色い世界になってしまいました。まさに別世界。この地ははインド風と呼ばれる強く乾いた風の影響で全土がカラカラに乾いています
(図1)。厳しい環境ですが,川沿いには人々がオオムギやソバを作って暮らしています(図2)

とげだらけ
 ムスタンの山を歩いてすぐに気付くのは棘のある植物がとても多いということです。特に多いのがマメ科のカラガナ(Calagana)の仲間(図3)。サボテンのような鋭い硬い棘がびっしり生えていて、さながら”針の山”です。この他、棘に覆われたバラ科(図4)やメギ科の植物も多く見られました。

変わった形
 厳しい乾燥と低温の影響か、中にはとても変わった形になった植物もあります。薄い酸素に息を切らせ4500mほどの頂きに立った時、まわりには、まるで月面基地のような、半球形に縮まった植物たちが覆う奇妙な景観がありました(図5)。この他、植物体が縮まって玉状になったものなども見られました(図6)

カルカ〜砂漠の中の花園〜
 カラカラに乾いたムスタンですが、沢筋などにはカルカと呼ばれる湿地(図7)が広がっています。まさに砂漠のオアシスと言えましょう。サクラソウ属(図8)、シオガマギク属(図9)そして美しいランの仲間(図10)などが咲き乱れ、乾燥地の植物とはまるで違うのに驚かされました。

 こうして無事に調査を終え、たくさんの植物標本を得ることができました。現在データの整理中ですが、いずれ皆さんのお目にかけたいと考えています。(植物担当)

  

図1 カラカラに乾いた大地。沢筋だけに村が見える。

図2 畑ではチベット系の人びとがオオムギやソバを
   作って暮らしている。

図3 マメ科のカラガナ(calagana)のなかま。
   まさに棘だらけ。

図4 バラのなかま。非常に多く見られた。

図5 ナデシコ科のノミノツヅリなかま。

図6 サクラソウ科のトチナイソウのなかま。
   葉や茎が縮まって丸くなっている。

図7 カルカで採集するシェルパ族のスタッフ。

図8 サクラソウのなかま。ヒマラヤには種数が多い。

図9 シオガマギクのなかま。これもヒマラヤには
   種数が多い。

図10 ウチョウランのなかま。
    カルカの中ではとても多かった。


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