インターネットの活用(学名-実践編2)

その1へ

 お隣の香川県の植物研究会は熱心な活動を続けてこられていることで知られています.その香川植物の会の会報2008年9月1日発行の434号に同会員の佐藤さんが他の会員の方と連れだって福井・岐阜県境の夜叉が池に行かれた記事を書かれていました.その中に,そこに生育するヤシャダケという竹について名前の由来についてホームページなどでも調べたのだけれど,学名を付けた牧野氏の牧野植物図鑑にも載っていなかったと書かれていました.
 名前にヤシャが付く植物は多くちょっとひっかかったのでインターネットで調べてみました.

 まずは,日本植物名検索(http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_srch_easy.html)でヤシャダケを検索します.すると下記のような情報が得られます

学名: Semiarundinaria yashadake (Makino) Makino
和名:  ヤシャダケ
学名ステイタス: 標準
掲載図鑑とページ番号: (平凡社・日本の野生植物)木本2: 257;(保育社・原色日本植物図鑑)木本2: 366;(至文堂・日本植物誌)103;
文献情報(原記載文献など): J. J. B. 5(2): 3 (1928); Ohwi, Fl. Jap.: 76 (1953). basion.: Arundinaria narihira Makino f. yashadake Makino in B. M. T. 14: 63 (1900).


米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList),http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html(2008年8月24日).

 学名が「Semiarundinaria yashadake (Makino) Makino」となっていますので,牧野氏がyashadakeで最初に記載し,それを本人が組み替えたということが想像できます.
 文献情報(原記載文献など)に「J. J. B. 5(2): 3 (1928)」とありますのでこれが上記の学名を発表した文献になるのでしょう.J. J. B.というのは植物研究雑誌のことですが,残念ながらネット上には公開されていません.
 もう一つ注目したいのがbasion.以下に書かれた部分で,基礎異名を表していますので,これが先に発表された学名になります.それは「B. M. T. 14: 63 (1900)」となっていますので植物学雑誌(http://www.journalarchive.jst.go.jp/japanese/jnltop_ja.php?cdjournal=jplantres1887)を調べてみます.記事がダウンロードできますので見てみると農商務省がその年パリで開かれる博覧会に竹を出品するのでその目録を作成したものの学名で,ヤシャダケの学名としてArundinaria narihira Makino f. yashadake Makinoを使っています.それ以外の情報はこの文献からは得られませんでした.

 やはり最初に出てきた「J. J. B. 5(2): 3 (1928」を見ないことにはどうしようも無いようです.植物研究雑誌であれば国会図書館でもネットで申し込んで取り寄せできますのでなんらかの手段で記事を取り寄せます.すると

Semiarundinaria yashadake (Makino) Makino, nov. comb.
Arundinaria narihira Makino f. yashadake Makino
Semiarundinaria fastuosa var. yashadake Makino in Bot. Mag., Tokyo. XXVI.1912. p.19. Fig. 5. et p.26.


Makino, T. (1928) A contribution to the knowledge of the flora of Japan. Bot. Mag., Tokyo 5(2):2-10.

 Semiarundinaria yashadakeという学名が nov. comb. (新しく組み替えた)であること,それ以前の学名が掲載されていることくらいですが,Semiarundinaria fastuosa var. yashadakeを発表した論文が載っていますのでそれを調べます.「Bot. Mag., Tokyo. XXVI.1912. p.19. Fig. 5. et p.26.」植物学雑誌の26巻(1912年)19ぺージと5図,26ぺージです.ホームページで300号と302号の牧野氏の論文を見てみると300号の方は学名と図くらいで情報がないのですが,302号の方には詳しい記述があります.和名はI.Tsuboiに従ったこと,I.Tsuboiが栽培していた夜叉が池産の標本を他の標本に先駆けて引用していることがわかります.

 このI.Tsuboiが誰かということはご存じの方はわかるかと思いますが,わからない場合は「坪井 竹」でgoogleなどで検索すれば,坪井竹類図譜の坪井伊助氏ということがわかります.坪井氏と牧野氏が親交があって坪井氏がヤシャダケと呼んでいて庭に植えていたものを標本にして牧野氏が学名を付けたということだと想像できます.
 ではその坪井竹類図譜に詳しい情報が書かれていることが推測できますので,その本を見れば良いのですが,図書館などで再版されたものが見られるかもしれませんが,googleで「坪井竹類図譜」の画像を検索してみると岐阜県立図書館のサイトに行き着いて,そこがデジタルライブラリとしてこの図譜を公開しています.
  坪井竹類図譜(岐阜県立図書館)
  http://www.library.pref.gifu.jp/digitallib/tsuboi/tsuboi.htm
そのヤシャダケの頁(http://www.library.pref.gifu.jp/digitallib/tsuboi/img/IMG0022.JPG)を見ると,この竹の模様は夜叉が池の蛟竜の勇姿で,この竹を他に移植すると蛟竜が怒って池に戻りその姿を2度と現わさなくなると言い伝えがあり,大切にしているというのがこのタケの名の由来であるとしています.


 見慣れない記号や用語などが出てくるのでわかりずらいもしれませんが,インターネットで元の情報に当たりながら調べることができます.


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