絶滅の危機に瀕している水辺の植物

 

 徳島県のレッドデータブックにはアサザ,ヒメシロアサザ,ミクリ,ヒメコウホネなど溜め池,水田,湿地や河川などの水辺の植物が140種を越えて多数掲載されており,水辺の植物が絶滅の危機に瀕していることを示しています.これは全国的にも似た状況と言われています.

 溜め池や河川に生育するアサザはミツガシワ科の多年草で,葉を水面に浮かせて,6〜8月に黄色い花を咲かせます.生育地の池が埋め立てられたり,水質が汚濁してしまったことにより減っています.また,種子が発芽するためには水位が変化する緩やかな斜面が必要ですが,溜め池の改修によって,そうした緩斜面が少なくなっているために減っています.溜め池の緩やかな斜面は浅い水深となり,また,水の増減によって水井が変化することからいろいろないきものの生育場所となっています.
 溜池は稲作に必要な水をまかなうために,徳島県では阿讃山地沿いや阿南市などでたくさん作られています.しかし,道路建設に伴って埋め立てられたり,用水が整備されたり,水田そのものが無くなって,溜池はどんどん減っています.そして,そこに生育していた生きものたちがいなくなっています.水も単にためて置いたのでは水質が悪化してしまいますので,適度に排水されることが必要です.自然だと我々が思っている生きものの多くは人間の活動に適応していますので,自然を守るためには,どのようにしてそれが維持されてきたのか理解する必要があります.

山間にある小さな溜池.複数の絶滅危惧植物が生育している.

アサザ


生き物がくらしている仕組みを理解して溜め池を改修する必要がある.


 ノニガナはキク科の1年草で,徳島県では絶滅危惧II類になっています.田の畦や草地などの日当たりの良い場所に生えています.徳島市でも休耕田で見つかりましたが,管理が放棄されて他の草が大きくなって,日当たりが悪くなったために翌年から生えなくなってしまいました.

上:水田の畦に生えるノニガナ(小松島市).右:休耕田に生えるノニガナ(徳島市).

 デンジソウは水田やハス田,池などに生えるシダ植物です.四つ葉のクローバのようにわかれた葉が田の字を想像させますので田字草と呼ばれています.環境省では絶滅危惧II類,徳島県では絶滅危惧I類の絶滅危惧種です.生育地が土地造成でなくなったり,農薬の使用や管理を放棄してしまったために減っています.

デンジソウ

ヒメナミキヒメナミキ

 ヒメナミキは徳島県で絶滅危惧I類となっています.他県では河川のヨシ原のような湿地に生育していますが,県内では主に水田の畦などに生えています.しかし,そうした場所も管理が放棄されたり,改修されたりして減っています.小松島市の生育地では,水田の畦に多数生育していましたが,地元の人が除草剤をやらないようにして大切に守られています.このように,絶滅危惧種を守るためには,地元の方々の協力が不可欠です.


 他にも水田や用水路に生育する絶滅危惧種はスズメハコベ,サンショウモ,ミゾコウジュなどたくさんあります.農地改良や農薬の使用,用水路のコンクリート化などによって,多くの植物が絶滅の危機に瀕しています.また,農業を行う後継者不足から休耕田が目立つようになってきています.管理が放棄されれれば,そこにいた絶滅危惧種もいなくなってします.
 生産性の向上や省力化など農業の抱える課題は多くありますが,農業の持つ多面的機能の一つである自然環境の保全という側面も忘れてはいけません. 


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