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図2 土砂が取り除かれた生育地(2002 年4 月23 日) |
ここのタコノアシはもしもの時に移植できるようにと博物館に持ち帰って栽培していました。今回は埋まってからの時間が短かったこと、時期が4
月で埋まった種子があればそれから芽が出る可能性があるので、とりあえず土砂を取り除いて以前の状態に戻し様子を見て、必要であれば苗を移植しようということになりました。 |
図3 芽生えたタコノアシ(2002 年5 月14 日)
図4 開花したタコノアシ(2002 年8 月5 日)
図5 復元した生育地に定着したカニ
このタコノアシの生育地を元に戻す際に、工事関係者のはからいで、土砂をとめる擁壁(ようへき)に石組みを使用しました。すると隠れ家ができ、たくさんのカニたちが定着しました。我々が絶滅危惧種を守る際に注意することは、花壇に植えられた花ようにその植物が生育していた場所と違った環境に植え、その植物を守るのではないということです。タコノアシが生育していた周りの環境を守ることによって、タコノアシを含めてそこに生きるいろいろな生き物たちを守ることを目指しているのです。この場所にはカニ以外にもいろいろな生き物が定着し,徳島県が推進しているビオトープ(さまざまな野生生物がくらす場)となっていくことでしょう。
このようにタコノアシの生育地は守られました。うれしいことに、以前は見られなかった園瀬川の岸辺にも、種子で広がったタコノアシが確認されました。種子の供給源が確保されたことによりタコノアシはさらに下流にも広がっていく可能性があります。
最近、工事関係者と話す機会がよくあります。レッドデータブックが出版されたせいか、彼らの絶滅危惧種に対する感心は高まっていて、工事区内に絶滅危惧種が存在することを伝えると、それを守る対策を積極的にとるようになりました。しかし、植物の研究者や地元の植物について詳しい者はどこで工事が行われているのか、また、どこに開発などの計画が持ち上がっているのか把握しているわけではありません。工事が行われることを知った時点では、予算がすでに決まっていたり、生育地が壊されていたりして救うことができないといったことがしばしばあります。植物の関係者と工事関係者が連絡を取り合いネットワークを組むことにより、こうしたことが減るのではないでしょうか。
工事関係者に工事の際には植物相に関する調査をお願いするのですが、面積の関係で環境アセスメントにはかからない工事も多くあります。関係者はそうしたものに予算をとるのは厳しいと言っています。そうした狭い範囲での工事でも,事前調査を行う仕組みを作る必要があります。また、植物相の調査が行われても、絶滅危惧種が見落とされているというケースが目立ちます。建物の工事では、要所要所で検査が行われ、一定の水準が保たれます。しかし、植物相の調査ではそうした検査がありませんので、形式さえ整っていれば、本来リストアップされなければならない絶滅危惧種が落ちていても、調査を行ったことになります。実例をあげると、徳島空港に関して行われた環境アセスメントの調査では環境省のRDB
で絶滅危惧IB
類とされているワタヨモギがリストから落ちていました(追記参照)。徳島市が行った環境基本計画策定のための基礎調査では徳島県版RDB
で絶滅危惧I類とされるビロードテンツキが、調査区内に生育しているにもかかわらずリストアップされていません。調査を行ったならその精度を検証する必要があります。
レッドデータブックは作られました。守るべき生き物のリストはできましたが、具体的にそれを守る方法についての施策や規則は示されていません。幸いなことにタコノアシのケースでは、植物関係者と工事関係者の連絡がうまくいったために、絶滅から救われました。このようなネットワークが作られ、法規が整うことによって、一つでも絶滅から植物が守られる事を願います。(植物担当)
徳島空港の環境アセスメントでワタヨモギがリストから落ちていた件に関してアセスの担当者と話をしました.彼によると,ワタヨモギが生育していたのは埋め立てによる直接的な影響がある場所ではないので,調査精度が落ちていたとのことです.ワタヨモギについては追加調査を行ってもらいましたが,絶滅危惧種が他にも落ちてる可能性については調査を行われていません.環境アセスメントの調査においてそうしたスタンスで良いのかは議論する必要があります.(2003.6.30記)