吉野川の植物
吉野川を上流から下流へと下ってみると,それぞれの場所にさまざまな植物が生えているのに気がつきます.上流側の河川敷にはクヌギの林やマダケの竹林があります.下流の流れのゆるやかな場所では,エビモ,ササバモ,イバラモやセキショウモなどの水草が生えています.
ここでは,その吉野川の植物について少しだけ紹介してみましょう.
■渓流沿いに生える植物
景勝地として有名な大歩危付近では,吉野川は平野部とは違った顔をしています.川は深い谷を流れ,川岸はごつごつした岩場になっています.このような渓流沿いの岩場にはキシツツジやホソバイブキシモツケ,ヤシャゼンマイ,アオヤギバナ,ナガバシャジン,イワバノギク,シラン,ヒメツルキジムシロなどが生えています.なかでもホソバイブキシモツケやヒメツルキジムシロは吉野川の渓流沿いで発見され,名付けられました.渓流沿いに生える植物の中には,近縁種に比べて葉が細くなったものが多く見られます.これらの植物は,大雨などで川が増水した時に水をかぶってしまうのですが,葉を流線型にしてできるだけ水の抵抗を減らしていると考えられています.
吉野川の渓流沿いに生える植物.左:キシツツジ,中央:シラン,右:ホソバイブキシモツケ.
■帰化植物
ホテイアオイ,オオカナダモ,コカナダモは外国から来た水草ですが,緩やかな流れに生えています.旧吉野川や用水路などでこれらの水草が水面を被って,船舶や水の流れのさまたげになり,駆除されています.
こうした,もともと日本にはなく,近年になって外国から入ってきて野生状態になった植物を帰化植物と呼びます.吉野川の川原には,メマツヨイグサ,セイヨウミヤコグサ,マツバウンラン,オオアレチノギクなどたくさんの帰化植物が生えています.中にはセイタカアワダチソウやセイバンモロコシのように大きな群落を作っている帰化植物もあります.クレソンとして食卓に並べられるオランダガラシも栽培されていたものが逃げ出して水辺に生えています.
春の吉野川の風物詩として話題となる菜の花は,昔から日本で栽培されているアブラナではなく,それに良く似たカラシナや一般に飼料カブと呼ばれているアブラナの一種が栽培されていてそれが逃げ出したものです.
帰化植物は一般に市街地のような都市化した場所に多いと言われていますが,このように吉野川の川原に多い理由としては,撹乱が定期的に起こり帰化植物が好む空き地ができやすいことや,土手の斜面の吹き付けや農地に蒔く種子に帰化植物の種子が混じっていて,種子の供給が定期的に起こっていることが考えられます.
■絶滅のおそれのある植物
「わが国における保護上重要な植物種の現状」(通称自然保護協会版レッドデータブック)には絶滅のおそれのある植物がまとめられていますが,その中で危急種として上げられているミゾコウジュやタコノアシ,ミクリなどが吉野川には生育しています.これらの植物は昔は水田や用水路にたくさん生えていましたが,除草剤の使用や用水路の改修によって現在では県内でもわずかな場所にしか見られなくなりました.
最近,環境庁が絶滅危惧植物調査を行っていますが,その中で調査対象種としてあげられているカワヂシャは兵庫県版レッドデータブックでも自然保護協会版レッドデータブックの希少種にあたるCのランクとして取り上げられています.しかし,吉野川やその支流でカワヂシャはかなりの個体数が生育しています.
これらのことは吉野川がまだまだ良い自然をたくさん残していることを意味しているのでしょう.
ミゾコウジュ
■川原の名がついた植物
カワラマツバ,カワラヨモギ,カワラニンジン,カワラハハコ,カワラナデシコ,カワラサイコ,カワラケツメイ,カワラハンノキなど川原の名前がついた植物が吉野川の河川敷には数多く生育しています.これらは,川原にしか生えないか,川原にたくさん生えるためにそれらの名前が付きました.なかでもカワラヨモギは頭花が漢方薬として利用され,吉野川は全国でも有数のカワラヨモギの頭花の産地となっています.
カワラヨモギの頭花
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