展 覧 事 業

 博物館での展示は、常設展と企画展から成る。
 常設展は、徳島の自然、歴史、文化、自然のしくみ等が概観でき、また、全国的・世界的なかかわりについても理解できるよう、いろいろなテーマを定めて展示している。部分的な展示替えや資料の入れ替えは随時行っているが、基本的な展示の構成は開館以来変わっていない。しかし、開館10周年が過ぎ、常設展の更新(リニューアル)をどう図っていくかが大きな課題となっている。
 企画展は、専用の企画展示室を使って年3〜4回行うことにしている。各分野・分類群の館蔵コレクションの紹介、学芸員の研究成果に基づく地域自然誌や文化の紹介、全国的あるいは世界的な広がりの資料の展示など様々なテーマをおりまぜ、数年先までのスケジュールをたてて計画的に取り組んでいる。

 

1.常設展

(1)常設展の構成

 博物館の常設展示は、総合展示、部門展示およびラプラタ記念ホールの展示の3つから構成されている。

●総合展示
 「徳島の自然と歴史」を総合テーマとし、徳島の歴史と文化、現在の自然の姿が概観できるよう、次の7つの大テーマにそって展示が展開されている。

 1.日本列島と四国のおいたち
 2.狩人たちの足跡
 3.ムラからクニへ
 4.古代・中世の阿波
 5.藩政のもとで
 6.近代の徳島
 7.徳島の自然とくらし

●部門展示
 総合展示とはちがった角度から、分野ごとの個別的、分類的な展示を行っている。

 人文:焼物のうつりかわり/阿波の美術工芸/徳島の歴史・民俗資料 など
 自然:いろいろな岩石/鉱物/いろいろな動物/生物の生活と自然のしくみ など

●ラプラタ記念ホールの展示
 アルゼンチン共和国のラプラタ大学から寄贈された南アメリカ特有の更新世哺乳動物化石を展示している。

 主な展示資料:
  メガテリウム全身骨格(レプリカ)
  パノクツス全身骨格及び甲羅
  マクラウケニア全身骨格(レプリカ)
  トクソドン全身骨格(レプリカ)
  スミロドン全身骨格(レプリカ)
  ヒッピディオン全身骨格(レプリカ)
  ステゴマストドン頭骨(レプリカ)

(2)部門展示の展示替え

 部門展示(人文)では、テーマを決めて随時展示替えをしている。平成14年度は次の展示を行った。

戦前期徳島の映画館チラシ
 3月26日(火)〜5月26日(日)(前年度からの継続)
 平成12年度に購入した大正〜昭和戦前期の映画館チラシの一部を展示した。

おまけになった動物たち
 3月26日(火)〜9月8日(日)(前年度からの継続)
 お菓子のおまけのうち,動物をモチーフにした精巧なおまけ192種と,それらに関連した剥製,標本,歴史資料などをあわせて展示した。

●前山古墳群の発掘調査
 5月28日(火)〜9月8日(日)
 名西郡石井町石井にある前山古墳群の発掘調査の成果を展示した。

知らせる道具・広告
 9月10日(火)〜12月1日(日)
 館蔵品を中心に、さまざまなタイプの看板、引札、ポスターを展示した。

石垣島の民具
 12月3日(火)〜3月30日(日)
 沖縄県石垣島で作られ、使われた民具を展示した。

 

2.企画展

 平成14年度は、次の3回の企画展を行った。 

(1)第1回企画展「貝化石が語る海の記憶」

 おもに古生物学的な観点から貝類や貝化石を取り上げた。貝類の生息場所と化石としての残りやすさの関係、各地質時代の貝化石、四国周辺地域の貝化石など、このグループの概要を、さまざまな角度から紹介した。

●期間 平成14年4月12日(金)〜5月12日(日)

●会場 博物館企画展示室

●展示内容
 [1]貝と貝化石
 [2]貝の模様と形
 [3]貝がすむいろいろな環境
 [4]地質時代の貝化石
 [5]四国の貝化石
 [6]貝殻や貝化石をつくる鉱物
 [7]地層の中の貝化石
 [8]貝化石の調べ方

●主な展示資料
赤坂金生山のペルム紀大型貝化石(豊橋市自然史博物館および当館蔵)
世界各地の貝化石(当館蔵)
四国および周辺各地の貝化石(高知県立牧野植物園および当館蔵)

●展示資料点数 合計780点

●観覧料 一般200円/高校・大学生200円/小・中学生100円

●期間中の観覧者数 6,317人

●企画展関連行事

・企画展解説
 第1回:4月14日(日) 参加者60名
 第2回:4月28日(日) 参加者20名

 

(2)第2回企画展「海道をゆく −黒潮のはこんだもの−」

 黒潮が、生物の移動だけでなく人やそれに伴う文化の移動に重要な貢献をしてきたことは間違いないと思われ、徳島の生物や民俗文化の成立基盤の一端を探るために、黒潮の洗う地域の民俗文化や生物相と比較してみた。
 本企画展では、フィリピンや沖縄から南九州へと渡ったと思われる丸ノミ型石器や磨製石斧、貝類の加工品等の資料を中心に、黒潮に乗って北上した時代を紹介し、逆に南へと向かう時代の資料も併せて紹介して、黒潮が海洋民族の移動に影響したことを示した。同時に、黒潮の影響を受けて南西諸島から四国南部、紀伊半島などに分布している特殊な植物や動物などを紹介した。また、南西諸島の島々や南九州の自然や人々のくらしもとりあげ、生物、民俗文化及び徳島にも関わると考えられる資料なども紹介した。

●期間 平成14年7月20日(土)〜9月1日(日) 

●会場 博物館企画展示室

●展示構成と主な展示資料

[1]海上の道はあったのか
 ・石器は語る・・丸のみ型石器(鹿児島県加世田市栫ノ原遺跡、高知県と磨製石斧
 (沖縄県西表島)、その他の石器
 ・貝の道・・貝輪と甕棺(貝輪を付けた埋葬の写真)
 ・補陀落渡海・・那智参詣曼荼羅ほか
 ・徳島のカツオ・・木簡に残された調としての堅魚
 ・阿波と安房・・忌部の足跡(古語拾遺)

[2]イネの来た道
 ・海を渡ったイネ・・イネは「海上の道」を通らなかった?!
 ・遺伝子はかたる・・イネのふるさとは中国か(インディカと熱帯ヤポニカ)
 ・イネ作りの証拠・・プラントオパール(温帯ヤポニカ、熱帯ヤポニカ、インディカ)

[3]黒潮のはこんだもの
 a.流れのままに
 ・漂着物はかたる・・ゴミか宝物か
 ・アメリカからの手紙・・2年半の旅
 ・種子がはこばれる・・黒潮の道を物語る証拠
 b.南へ北へ
 ・海流ではこばれた生き物たち・・植物の分布拡大戦略、昆虫の旅

[4]まれびとの系譜
 ・仮面と祈り・・南西諸島の面と祭り(弥勒、アンガマ、鹿児島県の各島の面)

[5]琉球弧

 a.南西諸島の特徴的な動植物
 ・ヤンバルの生き物たち・・ヤンバルテナガコガネ、ノグチゲラ、ヤンバルクイナ
 ・ヤンバルの植物・・オリヅルスミレ
 ・昆虫・・コノハチョウ、フタオチョウ、八重山の昆虫
 ・甲殻類・・ノコギリガザミ、テナガエビ

 b.人・くらし
 ・石の魔よけ・・石敢當(徳島小松島市、三加茂町)、門中墓(写真)
 ・沖縄の染織・・八重山上布、宮古上布、芭蕉布、紅型など
 ・農具と生活用具・・植物を利用した民具、ヒラなど

●展示資料点数 実物資料 488点

●観覧料 一般200円/大学生100円/小・中・高校生は無料

●期間中の観覧者数 3,194人

●企画展関連行事 記念トーク(黒潮トーク+展示解説)

[1]日時:7月28日(日) 13:30〜14:30
 演題:隆起を続ける珊瑚礁の島―喜界島
 講師:中尾 賢一
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:17人

[2]日時:8月4(日)13:30〜14:30
 演題:植物の目から見た黒潮の道
 講師:小川 誠
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:6人

[3]日時:8月11日(日) 13:30〜14:30
 演題:コメの渡来ルート
 講師:茨木 靖
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:25人

[4]日時:8月18日(日) 13:30〜14:30
 演題:イモの祭りー根栽農耕文化と黒潮の道ー
 講師:庄武 憲子
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:10人

[5]日時:8月24日(土) 13:30〜14:30
 演題:本土と南西諸島のヤスデ、貝、かに
 講師:田辺 力
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:9人

[6]日時:8月25日(日) 13:30〜14:30
 演題:南島の熊野信仰
 講師:長谷川 賢二
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:16人

[7]日時:9月1日(日) 13:30〜14:30
 演題:昆虫と黒潮の道
 講師:大原賢二
 会場:講座室及び展示会場
 入場者:18人

 

(3)第3回企画展「古代のわざ」

 古代の人びとが技術の粋を集めて作りだしたさまざまなものに隠された「わざ」に焦点をあて,文化財の科学的調査などからわかった優れた製作技術などを紹介した。また,復元された正倉院宝物の一部を展示し,それぞれの宝物に秘められた技術の高さについても紹介した。

●期間 平成14年10月11日(金)〜11月10日(日)

●会場 博物館企画展示室

●展示内容及び主な展示資料

[1]出土遺物にみる古代のわざ
 縄文・弥生・古墳時代など,時代ごとに代表的な遺物にスポットをあて,科学的調査などや復元製作によってわかった「わざ」を紹介。

 a.縄文土器にみる芸術とわざ
 火焔型土器(名古屋市博物館蔵)
 土偶(奈良国立博物館蔵)

 b.2000年前のハイテク―銅鐸―
 大岩山1号銅鐸復元品(野洲町立歴史民俗資料館蔵)
 伝徳島県内出土銅鐸(当館蔵)

 c.古墳副葬品にみる工人たちのわざ
 新沢千塚第126号墳出土金製垂飾付耳飾〔複製〕(橿原市教育委員会蔵)
 王墓山古墳出土金銅製冠帽(善通寺市教育委員会蔵)

[2]よみがえる正倉院宝物
 宮内庁などによって復元された正倉院宝物とその製作技術を紹介。
 正倉院宝物復元品(銀平脱合子,螺鈿箱,粉地彩絵八角几ほか)(宮内庁正倉院事務所蔵)

●展示資料点数 合計 85点

●観覧料 一般200円/高校・大学生100円/小・中学生50円

●期間中の観覧者数 3,724人

●企画展関連行事

[1]企画展「古代のわざ」記念講演会
 日時:11月3日(日)
 講師:木村法光氏(京都市立芸術大学教授,前宮内庁正倉院事務所保存課長)
 演題:正倉院宝物に見るいにしえのわざ
 会場:文化の森イベントホール
 参加者:67人

[2]企画展「古代のわざ」銅鐸の復元製作実演
 日時:10月20日(日)
 会場:文化の森野外劇場
 実演者:小泉武寛氏・小泉裕司氏(金属工芸家)
 参加者:136人

[3]企画展「古代のわざ」展示解説
 第1回:10月13日(日) 参加者 29人
 第2回:11月4日(月) 参加者 23人

 

3.特別陳列

(1)人権教育のための国連10年協賛「丹波マンガン鉱山の記録―在日コリアンの労働史―」

 丹波地方には、約300のマンガン鉱山があり、1896年頃から1983年頃までマンガンの採掘が行われた。これらの鉱山で働いていた人々の多くは、朝鮮半島からやって来た人たちであり、なかには、戦時中に労働力不足を補うために強制連行されてきた人もいた。また、被差別部落の人々も職を求めて鉱山にやって来た。丹波マンガン鉱山の労働を支えた人々には「じん肺」という病気が降りかかり、鉱山労働を離れた後にも苦しめられることになった。また、「じん肺」罹患により、偏見と差別が厳しくなった側面もあった。
 この特別陳列は、在日コリアンの元鉱山労働者が鉱山に生きた人たちの心を刻み、また歴史の教訓に学ぶために独力で設立した人権博物館である、丹波マンガン記念館の収蔵資料をもとに、鉱山に生きた人々のおかれた状況を示し、日本の歴史のなかに刻まれた人権侵害の実態を示すことを目的として開催した。
 なお、当館における会期終了後は、徳島県博物館協議会を介した県内博物館施設の連携事業として、海南町立博物館(7月11日〜22日)、石の博物館(7月31日〜8月15日)、土成町郷土歴史館(8月20日〜9月4日)、松茂町歴史民俗資料館・人形浄瑠璃芝居資料館(9月8日〜9月25日)を巡回し、同内容の展示を行った。

●主催 徳島県立博物館・徳島県博物館協議会

●後援 人権資料・展示全国ネットワーク

●期間 平成14年6月25日(火)〜7月7日(日)

●会場 博物館企画展示室

●展示構成と主な展示資料
[1]ワシらは山で生きてきた
 写真パネル(丹波マンガン記念館蔵)

[2]鉱山での生活
 マンガン採掘道具(丹波マンガン記念館蔵)
 チゲ(背負子)ほか梱包・運搬具(丹波マンガン記念館蔵)
 写真パネル(丹波マンガン記念館蔵)

[3]マンガンってなに?
 マンガン鉱物(丹波マンガン記念館蔵)
 徳島県産マンガン鉱物(当館蔵)
 レール、乾電池ほかマンガン使用製品(丹波マンガン記念館蔵)

[4]丹波マンガン記念館
 パネル(丹波マンガン記念館蔵)

●観覧料 無料

●観覧者数 1,195人

●展示解説
 7月6日(土) 参加者48人
 李龍植氏(丹波マンガン記念館長)を招いて解説していただいた。

 

(2)楠コレクションの美術・歴史資料

 楠コレクションは、徳島県鳴門市出身の故楠育治氏が所蔵されていた美術・歴史・民俗の諸資料約3,000点である。平成14年3月に、御夫人の弘美氏より当館に寄贈された。
 それらには、光格上皇の御幸の行列を描いた「光格上皇修学院御幸儀仗図巻」3巻、祖谷への道筋の眺めを描いた「祖谷山絵巻」2巻、全国の名勝を集めた「全国名勝絵巻」10巻の徳島県指定文化財が含まれている。
 楠コレクションはなお整理中であるが、その一部を特別陳列として広く公開した。

●期間 平成15年1月21日(火)〜3月2日(日)

●会場 博物館企画展示室

●展示構成と主な展示資料

[1]徳島ゆかりの美術資料
 光格上皇修学院御幸儀仗図巻 渡辺広輝筆
 祖谷山絵巻 渡辺広輝筆
 鳴門十一景図 貫名天蓼筆
 旧徳島城図 須木一胤筆
 墨跡 泰雲書
 延生軒詩 高泉禅師書

[2]書画の優品
 勢至菩薩画賛 木庵禅師
 茶園詩 仙崖書
 大和し美し 棟方志功作 
 山と水 棟方志功画 
 茄子 金島桂華画

[3]歴史・民俗資料
 日野資名筆 後伏見上皇院宣
 塵摘問答 阿波国文庫本
 東海道分間絵図 菱川師宣下絵
 角目頭 人形忠作
 信楽焼大壺

●展示件数 49件

●観覧料 無料

●観覧者数 4,655人 

 

(3)2002年度文化の森人権問題啓発展

 文化の森5館と徳島県教育委員会(生涯学習課・人権教育課)との共催で、年2回の人権問題啓発展(同和問題啓発標語ポスター入選作品展と識字学級生の作品展)を行った。

●主催 文化の森5館・徳島県教育委員会

●期間

[1]2002年度文化の森同和問題啓発標語ポスター・資料展
  平成14年7月27日(土)〜8月4日(日)
  入場者数 1,066人

[2]2002年度文化の森人権問題啓発展
  平成14年12月3日(火)〜8日(日)
  入場者数  669人

●会場 2回とも近代美術館ギャラリー・21世紀館多目的活動室・ミニシアター(ビデオ上映)

●入場者数計  1,735人

 

4.移動展

 徳島県博物館協議会の役員会や総会などにおいても、県立や市町村立の博物館が連携しての巡回展や移動展などを開催し、博物館活動を盛り上げていきたいという要望もあがっている。14年度には前述のように、丹波マンガン記念館の資料による巡回展を行ったが、秋には初めての試みとなる「移動展」を海南町立博物館で開催した。
 資料の貸借という方式でなく、展示構成も当館側である程度検討したものを運搬してのこのような展示会はこれまでは行ってこなかったが、今後は開催館の分野に関係なく、このような企画が増えていくことも考えられる。

■2002年度移動展「昆虫の世界」
●主催 海南町立博物館・海南町教育委員会・徳島県立博物館
●期間 平成14年10月26日(土)〜11月24日(日)
●会場 海南町立博物館 企画展示室
●入場者数 1,328人

 

5.その他の展示

 平成14年4月1日(月)より6月30日(日)まで,平成13年度の購入資料である「伝徳島県内出土銅鐸」を,2階総合展示室内ラプラタ記念ホールの一角において速報展示した。

 

6.常設展の更新に向けての取り組み

 当館では、開館10周年をめどに常設展の全面更新を実現したいと考え、開館5年目にあたる平成7年度から館内での検討を行ってきた(年報7号参照)。そして、開館15周年目に当たる17年度にリニューアル・オープンする計画で、事業規模を縮小した基本案見直しを行い、予算積算などを行ったが、厳しい財政状況等もあって、今回も事業化は認められなかった。
 今後、できるだけ早い時期での常設展更新が実現するよう、その方途を探っている。
 また、最近開館した博物館や展示のリニューアルを行った館に対する調査も継続してきており、14年度には次の調査を行った。

 北九州市立自然史・歴史博物館:新規開館の展示状況の調査

 

7.展示関係出版物

■企画展図録・解説書

●第1回企画展図録「貝化石が語る海の記憶」
2002年4月12日発行、A4判39ページ(カラー)、700部+友の会増刷分300部

●第2回企画展図録「海道をゆく−黒潮のはこんだもの−」
 2002年7月19日発行、A4判74ページ(カラー)、700部+友の会増刷分300部

●第3回企画展図録「古代のわざ」
 2002年10月11日発行、A4判32ページ(カラー)、700部+友の会増刷分100部


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