四国における学芸員交流の試み(補遺)
−その後の展開とこれからをめぐって−

 

 「四国における学芸員交流の試み」で紹介した四国地区歴史系学芸員・アーキビスト交流集会は、2000年2月19・20日に香川県歴史博物館にて第5回目を迎えた。

 漫然とこのまま続けていけばよいわけではないし、継続を強制される筋合いのものでもない。四国4県を一巡(徳島のみ2回)した現時点で、これまでの活動を冷静に評価し、今後の集会のあり方について検討する必要があるのではないかと考える。以下、これまでの経緯と成果を整理し、今後の方向性を考えていくための提起としたい。

1 経緯

(1)第1回集会(1996) 

 これについては、すでに上記拙稿で述べたので詳細については省略するが、ここではとくに、その発端にあった考え方を確認しておきたい。

 1980年代末から1990年代にかけて、四国各県では、博物館・文書館・資料館等の増加に伴い、学芸員・アーキビストが急増した。それぞれに問題を抱えながら活動をしていたが、これら現場スタッフ相互の結集・討議の場は存在しなかった。県によっては博物館協議会があったところもあるし、四国全域では四国博物館協議会がすでにあったのだが、それらは学芸員等が結集する場としては機能してこなかったのである。したがって、学芸員の日常的課題を取り上げるルートはなかったといってよい。もちろん、「博物館」といっても分野が広すぎて、接点をつかむことも難しかったという事実もある。

 そこで、とくに歴史系に限定して学芸員、その類縁的存在であるアーキビストの自主交流の機会を求めて集会を開催しようという流れになっていった。ただそれは、組織としての体裁を整えようとするものではなく、あくまで交流の糸口づくりを目指した単発の計画に過ぎなかった。

(2)第2回集会(1997)〜

 第1回集会が盛況であり、また余剰金が出たことから第2回集会が企画され、さらには毎年1回の恒例行事となって今回に至っている。

 この間の状況を簡単にいえば、概ね第1日目に研究会、懇親会を行い、第2日目には講習会、施設見学が行われるというかたちで定着してきた。とくに、研究会のテーマの明確化と報告の充実、講習の定例化が注目される。また、少数ながら、和歌山県、岡山県、新潟県など四国外からの参加もあり、より広域化した交流への展開の可能性も胚胎してきた。

 (参考)

  第2回;テーマ「教育普及活動」、美術品取扱講習(軸物)

  第3回;テーマ「博物館と地域」、美術品取扱講習(甲冑)

  第4回;テーマ「博物館と地域II(博物館と社会教育をめぐる諸問題)」、写真技法講習

  第5回;テーマ「21世紀の博物館」

 運営については、第1回以来、各県からの世話人が集まって、開催予定日、研究会テーマ、報告者候補を検討し、以後、開催館の学芸員が事務局となって諸準備が行われてきた。ただし、第5回は、事務局を担当した香川県歴史博物館の胡光氏に頼りっぱなしとなった。いずれにせよ、手作りのゆるやかな協議会として展開してきたということができるだろう。

2 成果

 こうした集会が積み重ねられてきた結果として得られた成果をまとめてみる。

 まず、集会が「交流」を銘打っているとおり、交流圏が四国全域に拡大するとともに、交流の緊密化が進んだことが、第一に挙げられるべき成果である。それは、親睦にとどまらず、資料情報をはじめとする業務上の情報交換、資料貸借の円滑化など、日常業務遂行上、まことに意義深いものといえる。そして、集会を離れた場所での交流もさかんになってきた。例えば、高知県では、県内の学芸員交流会が活性化し、また、徳島県松茂町歴史民俗資料館の松下師一氏が主宰するメーリングリスト「松下師一研究室の会議室」が活動し、徳島、香川などの集会常連が参加している。

 次いで、前項と重複するが、研究会としての実質性の向上が指摘できる。無理なく運営し、かつ質的な向上(密度の上昇)が進んだといってよいように思う。

 以上からすれば、交流の機会をつくるという意味ではすでに目的を達成したといえ、今後、この種の活動を続けていくのなら、新たにどのような方向性を考えていくのかが問われることになってくると考えられる。

3 課題−思いつくままに

 成果があれば、一方で課題も残っている。その点を、順不同で述べておく。

 まず、研究会(とくに個々の報告)の充実が見られる一方で、毎回討議の時間がとれず中途半端に終わっていることが挙げられる。懇親会を中心とした交流と研究会活動、施設見学や技術講習などを正味1日の日程でこなそうとする「欲張り」気味の運営に起因するものでもある。

 次いで、対象化すべき問題について。博物館・資料館の大半を占める町村立施設の課題のよりいっそうの前面化、地域的な資料保存への考え方、文書館のあり方、あるいは関係施設間(資料保存、社会教育)の分担・連携の問題、そのほか博物館界全体にかかわる問題(教育政策、運営主体のありかたなど)など、まだまだ検討しなければならない課題は多い。とくに「歴史系学芸員・アーキビスト」と称しながらも、実質上、文書館をめぐる議論が欠落していることは、実に遺憾でもある。

 これらさまざまな課題が山積していることを考えれば、この集会で何らかの課題解決に至ったとは到底いえず、むしろ、今後立ち向かうべき諸問題をいかに認識していくかが問われるといえよう。

 さらに、調査、展示などにおける特定分野による部会的活動の可能性を追求することも必要であろうし、せっかくの報告をベースにした活動成果のまとめ(紀要の刊行)を考えてもよいのではないだろうか。

4 今後の方向をどう考えるか

 以上に述べたような、これまでの成果と課題を踏まえながら、今後の集会のあり方を考える必要があるが、目的意識の明確化と活性化は意識されねばなるまい。成果ありとして終結するのもひとつの考え方であろうし、芽生えてきた交流のさらなる発展と博物館研究の活性化に向けての組織強化などもまた選択肢としてあるだろう。いずれにせよ、21世紀の集会は結集する学芸員の意思にかかっている。

 

(第5回四国地区歴史系学芸員・アーキビスト交流集会での提起レジュメを補訂の上、文章化したもの。記録の意味を兼ねてここに掲載した)

 

 

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