植物の保護,生育環境の保全のための調査に関するページ生物の多様性を守るための徳島県の活動としては下記のものがあります.私(小川)はこれらに関わっており,調査の相談を受けたりすることがあります.その場合,どのように調査を行ったら良いか書いたものが下の文章で,簡略版と詳細版の2つがあります.
簡略版環境配慮のための調査について公共工事における環境配慮のための調査は,多岐にわたっているので,ここでは植物相調査について記述する.植生,昆虫や魚類などの動物相については別途適切な専門家の指導を受けること 植物相調査の内容1.調査範囲内の栽培植物を除くすべての維管束植物の目録を作成する 植物相調査の範囲1.工事により改変される地域 植物相調査の時期最低でも春,夏,秋の3回行う 注意点●誤認.見落としをなくすこと ●調査の際には,栽培植物をのぞいた全種について標本を作製し,それに基づきリストを作成すること ●事前に綿密な情報収集(聞き取りや文献調査)を行うこと ●同定が困難なものについては,適切な専門家に依頼すること ●調査全般について植物相の専門家の指導をあおぐこと ●その他「植物相調査のためのチェックリスト」参照のこと ----------簡略版ここまで----------------------詳細版ここから---------環境調査における植物相調査について
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全種類数(A)
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絶滅危惧種類数(B)
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絶滅危惧の割合(B/A)
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香川県 |
1726
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401
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23.2%
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徳島県 |
3166
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814
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25.7%
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全国(環境省) |
7000
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1877
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27.0%
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だいたい1/4程度の植物が絶滅の危機に瀕している.特に水田,溜池,用水路に絶滅危惧種が多い
1.調査計画をきちんと立てる
調査時期,調査内容,情報収集
2.調査時
誤認をなくす・・・標本をきちんと採る
見落としをなくす・・・ポイントポイントで立ち止まってしっかり調査
3.調査内容の検証
調査内容がおかしかったら,修正できる体勢を
正確な自然環境の把握・・・植物リストの作成
↓
保全のための目標設定・・・絶滅危惧種,未記録種,地域的な貴重種など(以下貴重種と明記)の抽出
↓
設計,保全策などの実施
正確な自然環境の把握のためには貴重種かどうかにかかわらず,正確な植物リストを作成する必要がある.
保全の考え方としては,対象種(貴重種等)のみではなく「対象種の生育環境を保全する」ということ
・現地調査での記録は信頼性に欠けるので,貴重種にかかわらず標本を必ず作成し,同定できる人に標本の同定を依頼しリストを作る.ただし貴重種に関しては,採集による絶滅がおこらないように配慮.
・花が咲いていないなどの理由で同定できなかった種については.リストから落とさずに「Artemisia sp. 」のように同定できるところまで記録する.
・自生でない種については栽培種,栽培逸脱などを明記する.
・標本を台紙に貼る必要はなく,新聞にはさみラベルをつけた状態でOK.
調査者,同定者を明記する
正確な調査範囲を図示する
栽培・帰化の明記
誤認をなくす・・・・・・・・標本を専門家に見てもらう
見落としをなくす・・・・・・複数の調査者によるクロスチェックの必要性
調査範囲の設定ミス・・・・・事前によく専門家と打ち合わせすること
入札仕様書にもりこむ項目・・すべての種について標本を作成
■調査計画について
■現地調査計画について
■調査時
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調査が終わったら,植物標本については博物館小川に提出してください.ついては下記のようにお願いいたします.
1.標本は新聞ではさんだ状態で可.保存するかどうかの取捨選択については博物館に一任.
2.標本1点につき,ラベルを1点添付すること(同じ標本の場合はコピーで可)
標本ラベルの例
平成15年度忌部地区調査標本
リュウノウギク(キク科) 採集地 徳島県麻植郡川島町桑村,山神社北側. |
多くの環境調査で見られる,見落としや誤認を避けるために標本の採集し,それに基づきリストを作成することをお願いしている.多くの調査で見られる「同定が困難な場合は標本を採集し室内で同定する」というのではきちんとした調査はできない.なぜなら同定が困難な場合というのは採集者が気がつかない場合が多い.たとえば下記のようなやりとりがある.
小川:調査リストに載っているアオキの標本を見せてください
調査者:普通種ですので採集していません
小川:徳島県にはアオキとナンゴクアオキが分布している.後者はRDBには掲載されていないが徳島県では分布が限られており,希少種にあたるが,どちらであるか判別したのか.したとすればその根拠は?
調査者:.....
要するに同定が困難かそうでないかは決められないわけなので,1期に1度しか調査ができない場合はすべての標本を採っておく必要がある.
また,標本を作成するということは現地での滞在時間が長くなるので,周りにも目を配ることができる.見落としているものを見つけるのは,案外こうした他の標本を採っている時である.
標本を作製するのは手間がかかるとよく言われるが,乾燥方法を工夫すれば手間がかからないし,調査の標本であれば,ラベルはほとんどが同じなのでパソコンを使えば簡単に作成できる.その際得られたデータをリストに活用すれば一石二鳥である.
植物の調査時期というのはとても重要で,半月時期が変われば確認できない種も少なくない.調査計画の立案や調査結果の精査には専門家との相談をよく行い,精度をあげていく必要がある.私のところでは調査結果のリストがあれば,植物相調査チェックシステムを使って,表層的なエラー(現地にいかないでわかるエラー)をチェックすることができる.
このページに関するお問い合わせは作成者:小川 誠(徳島県立博物館)