伊勢田川に生息するクロコハゼについて(133号 情報ボックス)
動物担当:井藤大樹
クロコハゼDrombus sp.は、全長5cmほどの小さなハゼのなかまで、河口域の石の下などに生息しています。ぱっと見るとただの黒っぽい小さなハゼですが、よく見ると、とても美しい色彩をしています(図1)。本種は、主に沖縄などの暖かい地域に分布し、徳島では南部の河川を中心に生息が確認されています。生まれてすぐに海に降くだり、海流に乗って各地へ分散すると考えられています。徳島には、暖かな地域で生まれた仔
稚魚が海流に乗って毎年たどり着いているのです。
徳島は、クロコハゼの分布域の中でもかなり北方に位置します。本種は主に暖かい地域に生息することから、県内の河川では、夏から秋にかけて一時的に生息するものの、冬の低水温に耐えられずに死んでしまう可能性が高いと筆者は考えていました。しかし、令和4年度に、阿波魚類研究会とともに、徳島南部を流れる伊勢田川(図2)に生息する魚類の調査を行うと、12月や1月にもクロコハゼが確認され、県内で越冬していることがわかりました。近年、地球温暖化の影響で徳島でも河川や海の水温が上昇しています。クロコハゼが県内で越冬できているのは、もしかすると温暖化も影響しているのかもしれません。県内で本種が繁殖しているかはわかりませんが、これから温暖化がさらに進み、河川の水温が上昇すると、県内で安定的に繁殖するようになると思われます。
今後も県内各地で調査を進め、情報を蓄積していけば、生態系の異変などがわかってくるかもしれません。
図1 伊勢田川で採集されたクロコハゼ
図2 海陽町 伊勢田川河口域