徳島県の盆踊り
徳島の盆の踊りというと、「阿波踊り」を思い浮かべるだろう。しかし、県内で踊られている踊りは、ほかにもたくさんある。一般に、盆踊りと総称されるこの時期の踊りは、先祖供養と鎮送(ちんそう)のために踊るとされる。県内で広域に分布する盆の踊りに、「廻り踊り」「神踊り」などがある。「廻り踊り」は、やぐらを中心とし、あるいは逆さにした木臼を中心にして、先祖供養や新仏供養のために、踊り手がその周囲を回りながら踊る。また、堂内で踊る地区もある。「神踊り」は、色鮮やかな花笠や、採り物を身につけ、小歌を謡いながら踊るもので、盆の時期を中心に踊られる。この「神踊り」の広範囲の分布は、徳島県の盆の踊りの一つの特色ともいえる。このほか、県南地域に顕著にみられる「慰霊(いれ)踊り」や「うちわ踊り」や、県北部地域の「二上(にあ)がり音頭」などもある。
では、先祖供養と鎮送という点に着目して詳しくみてみよう。徳島市津田町に伝わる「津田の盆(ぼに)踊り」は先祖供養の性格をもつ。初盆を迎える家族が、死者をかたどったわら人形を海に流した後、迎え火を焚き、海から精霊(しょうろう)を迎えて踊る。盆に踊られる踊りと、盆に行われる先祖供養の儀礼が一緒になったもので、鎮送の要素もみることができる。
新仏の供養と結びついた踊りとしては、つるぎ町川見、木屋両地区の「踊り念仏」を挙げることができる。新仏の供養として盆に踊られる踊りで、特に木屋の場合は、新仏がある年にのみ踊られる。
地元地区の男性のみが、堂内で輪になり、輪の中央の先達(せんだつ)がたたく鉦(かね)にあわせて跳びながら回るのが川見、後ろ向きに回るのが木屋の踊り念仏である。これらの踊りは、「ナムアミドーヤ」などと念仏を唱えながら堂内で踊る「念仏踊り」である。ただ後ろ向きに歩いたり、横向きに跳んだりと、簡単な所作を繰り返す。これらの点に、中世の「踊り念仏」にも似た形態とみることができ、特色ある盆の踊りといえる。
念仏を唱えながら踊る芸能としての「念仏踊り」には、三好市西部から愛媛県四国中央市にかけての「鉦(かね)踊り」がある。県内では三好市山城町の粟山、信正、寺野、茂地の4地区で行われている。地区ごとに特徴があるが色鮮やかな花笠、踊りの場を浄める鬼面、さらに法螺(ほら)貝の音に合わせて山伏面などが登場するなど、さまざまな要素が集約された踊りであるといえよう。「鉦踊り」の場合、盆に踊られるもの以外に、盆より遅れて八朔(はっさく)の時期に踊られるものもある。また、多くは神社の祭礼の一環で行われ、神輿(みこし)の巡幸を伴うものもある。
仏教色が強いように思われる盆の踊りだが、念仏踊りには、修験道とのかかわりを感じさせる要素、一部に古い踊りの形態との類似を見いだすことができる。時を経る中で、さまざまな要素を折り込んできたが、現存する多種多様な盆の踊りから、ルーツとしての「踊り念仏」との結び付きを想像することができよう。
写真1 木屋の踊り念仏 |
写真2 茂地の鉦踊り |