からさお―阿波の脱穀用具
※徳島県立博物館部門展示「からさお―阿波の脱穀用具―」の紹介記事です。からさおは、麦、大豆、蕎麦などを脱穀したり、藍の葉をこなしたりするのに用いられる道具である。柄の先に取り付けた棒を回転させることにより、より効果的に打撃作業を行うことができるよう工夫されている。
今回の部門展示では、からさおに着目し「1 脱穀具としてのからさお」「2 さまざまな阿波のからさお」として、2つのコーナーにわけて展示している。
「1 脱穀具としてのからさお」では、からさおの使用風景を写真で展示しているほか、からさおの形態や用途などを記述した文献を紹介している。江戸時代に編まれた「図説百科事典」ともいえる『和漢三才図会』や、同じく江戸時代に阿波で編まれた農書『阿州北方農業全書』などには、からさおの用途やつくり方などが紹介されている。明治時代に使われた「農具教科書」などでも、からさおについての項目が設けられている。鉄製のもの、木製のもの、竹製のものなど、地域によって使い分けられていたことがわかり、文献が書かれた当時から、さまざまな形態のからさおが広く普及していたことがわかる。
「2 さまざまな阿波のからさお」では、民具として収集されたからさおについて着目した。同じ用途の道具でも、それぞれの地域に適応した形態があり、材質や柄の長さなどに地域差が見られることを、多数のからさおを並列に展示することにより表現した。この展示のベースには、四国民具研究会の共同研究による報告書『四国のからさお―連枷調査報告書―』(四国民具研究会,2007年)がある。からさおの打撃部、柄、回転軸、その他部位の長さや重量などの計測値や形態により分類し、地域差とその背景を明らかにしようとした調査報告である。展示では、そのデータの内いくつかの要素を抽出し、それぞれのからさおを比較、分類する作業を行った。
第1に、からさおの穀物を打つ打撃部と、手でもって回転させるために力を加える柄の、それぞれの長さを指標として抽出した。からさおを、柄の長さの長いものから順に並列に展示することにより、形態の地域差を視覚的に確認してもらうのがねらいである。概していうならば、吉野川中流域、下流域、那賀川下流域のからさおは柄が長く、2メートルを超えるものも多いのに対し、県西部の山間地で使われるからさおは柄が短く、1メートル少々のものも多数あるという傾向が現れる。これに対して、打撃部の長さには柄ほどの大きな違いは見られない。柄の長さに顕著な差がみられることになる。
第2に、材質により分類した。狭い徳島県内で使われたからさおの中でも、打撃部が鉄、木、竹などさまざまな材質のものがある。これも、吉野川下流域の平野部では割竹を結束したものが中心であるのに対し、県西部の山間地では打撃部が一木のもの、鉄棒を結束した形態のものが中心となる。
子細にわたる話になったが、要するに多様な形態の民具が存在していたことを、今回の展示を通じて感じてほしい。多様な形態の民具の背景には、それを生じさせる要因となった多様な生活世界があることを想像してほしい。ほんの一断面にすぎないが、からさおを題材とし、視角化しようとしたのが、今回の展示の目指したところである。
写真1 展示室のようす |