オムイカ(六日)の蓑笠人形

 人の死後7日目を初七日(しょなのか)と言い、現在でも仏式の葬送においては一つの区切りとなる日である。その前日の、死後6日目のことをオムイカ(六日)と呼ぶ。この日、蓑(みの)と笠(かさ)を着せて死者に見立てた人形を、道の脇や川原、海岸などに立て、供物(くもつ)を供える習俗がある。現在、こうした葬送習俗が行われることは少なくなっているが、オムイカの蓑笠人形をつくって葬送を行ったことのある方に復元してもらった。
 写真1は、三好市山城町上名での復元で、ニュウドウジメと呼ばれる。人形の構造は単純で、1メートルほどの縦棒になる自然木に、腕木になる横棒を十字形に組み合わせて骨組みをつくり、地面に立てる。これに故人が使っていた浴衣を着せ、顔部分は白い手ぬぐいを巻き、顔を書き入れることもある。さらに、その上に蓑と笠を着せているのが写真のニュウドウジメである。人形の前には、膳に載せた一膳飯、汁椀、豆腐、菜物などの御霊具を供える。
 ニュウドウジメは、翌日の初七日まで立てられ、故人の親族によって倒される。倒す際、後ろ手に鉈をもって人形の根元から切り倒し、そのままふり向かずに帰ってくる。倒された人形は自然に朽ちるまで放置される。
 写真2は、美波町赤松での復元である。人形の基本的な構造は写真1と同様に十字に自然木を組み合わせたものであるが、十字に組み合わせた木の骨組みに蓑を着せ、笠を被せ、藁草履(わらぞうり)を結び付けておく。このほか、膳の縁を一箇所はずし、その面を正面にして、玄米で炊いた一合飯で握った握り飯四つに青葉を添えた御霊供(おりょうぐ)(写真中央)と、六本のろうそくを立てたロクジゾウ(写真右)を一緒に供える。
 オムイカの日、この蓑笠人形は川原に立てられる。川原に立てに行くのは故人の親族ではなく、近所で葬式の世話をする講組の人である。人形を立てた後、亡くなった人の名前を呼んでから石を1つ川に向かって投げ、そのままふり返らずに帰ってくる。人形は流されるまで川原に放置される。
 オムイカの蓑笠人形は、故人の葬送ためにつくられ、初七日を過ぎるとそのまま放置される。三好市山城町上名の例だと鉈をもって切り倒し、美波町赤松の例だと故人の名を呼んで石を投げ、いずれもふり返らずに帰ってくる。死者への恐れと、死者を送り出す明確な意志を読み取ることのできる行為である。
 ところで、かつては鮎釣りなどで川に行った際、川原に立てられたオムイカの蓑笠人形に偶然遭遇することがあったという。その際には、人形に取り付けられている藁草履をはいて鮎を捕ると大漁になるとされた。死者を象徴するオムイカの蓑笠人形は、親族などからは石を投げられ、ふり返らず帰ってくるなど、恐れられる存在であった。一方で、無関係の者には大漁をもたらす存在だったのである。

 
写真1 三好市山城町上名のオムイカの蓑笠人形(ニュウドウジメ),2011年11月撮影。
※山本ヒロ子氏、西浦房子氏、木下ツタエ氏、小笠原ヨシ子氏、近藤直也氏(九州工業大学)の協力を得て復元した。
 写真2 美波町赤松のオムイカの蓑笠人形、2010年12月撮影。
※乾秀夫氏、近藤直也氏(九州工業大学)の協力を得て復元した。