博物館ニューストップページ博物館ニュース011(1993年7月10日発行)南アメリカ産トウモロコシ(011号館蔵品紹介)

南アメリカ産トウモロコシ【館蔵品紹介】

植物担当 鎌田磨人

祭につきものの焼きトウモロコシ、映画を見ながら食べるポップコーン、ディナーの前のコーンポタージユなど、トウモロコシは私たちの生活に深くはいりこんでいる作物です。このトウモロコシが栽培化されたのが、メキシコなど中央アメリ力だと言えば驚かれる人もいるのではないでしょうか。トウ(唐)モロコシ、トウ(唐)キビといわれるように、中国起源だと思っていた人もいるかもしれません。

南アメリア産のいろいろなトウモロコシ

南アメリア産のいろいろなトウモロコシ

栽培化されたトウモロコシの小さな穂軸はメキシコの中部山岳地帯、テ力ワン河谷の紀元前5000年前の遺跡からみつかっています。この時期、日本は縄文時代で狩猟採集による生活を営み、農耕は発達していなかった時代です。ラテンアメリ力でのトウモロコシ栽培化の歴史、農耕の歴史はとても古いのです。

今、日本の八百屋やスーパーマーケットでは、スイートコーンなどの黄色いトウモロコシしか見かけませんが、古くから栽培されていた南アメリ力では、インディオをはじめとする現地の人びとによって、白、黒、紫など実に色とりどりのトウモロコシが栽培されています。当館では、このような南アメリ力産のトウモロコシの品種の一部を保管しています。その中には原始的な形状を持つと思われるトウモロコシも含まれています。

トウモロコシ(Zea mays)は一年生のイネ科の作物ですが、その祖先種がどんな植物なのかということをめぐって、以前からさかんに議論されてきています。一年生のテオシントという植物(Zea mexicana)が、現代のトウモロコシの直接の祖先だろうと考える人がたくさんいます。また、多年生テオシント(Zea diploperennis)と野生トウモロコシの交雑種が、現在のトウモロコシと一年生テオシントの祖先だろうと言う人もいます。トウモロコシの祖先が何であったのか、今でもはっきりとした決着はついていないのです。
私たちが今食べている作物の祖先が何であったのかを知ることは、より生産性の高い品種をつくったり、病気や害虫に強い品種をつくったりする上で、とても重要です。また、農耕そのものがどのように発生してきたのかという人類の歴史上の疑問を明らかにする鍵を与えてくれる、という意昧においても大事なことなのです。当館に保管しているトウモロコシを使って、そのような謎ときに挑む人が現れてくれたらと思います。

なお、このトウモロコシの一部は今年の夏に当館で開催する企画展「南アメリ力の自然」でご覧いただこうと思います。

 

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