箒(ほうき)【館蔵品紹介】

民俗担当 福田珠己

1960年頃から、住宅様式の洋風化にともなって、電気掃除機が箒にかわり急速に普及しました。今では掃除機が全家庭に普及しているといっても過言ではありません。しかし、家のまわりから箒がまったく姿を消してしまったわけではありません。家の中をちょっと見渡してください。座敷箒や庭箒が身近にあるのではないでしょうか。

今回紹介する2本の箒は、モロコシとシュロで作られたものです。30年ぐらい前に、池田町洲津(当時の箸蔵村)で作られ、使用されたものです。店などから購入されたものではなく、使用していた家で作られたものです。モロコシ製のものは土間など室外で、シュロ製のものは室内で使われていました。

ここでは、モロコシとシュロが材料として使われていますが、箒の素材はさまざまです。わらしべや羽、竹なども一般的に使われます。また、南西諸島ではクロッグ、クパなど独特の素材も見られます。身近な素材を束ねて作った掃除道具、それが箒なのです。

モロコシ箸(池田町洲津)

モロコシ箸(池田町洲津)

 

シュロ箒(池田町洲津〕

シュロ箒(池田町洲津〕

ところが、この掃除道具である箒は、単なる道具ではありません。神が宿る依代(よりしろ)でもあります。箒を逆さに立てて嫌な客を早く退散させるという光景は、最近のCMでも放映されていたのでご存知でしょう。また、各地で女性が箒をまたぐことを禁忌(きんき)としているという事例がみられます。これらは、すべて箒の持つ呪術(じゅじゅつ)的側面を表すものです。
では、箒に宿る神とはどのようなものなのでしようか。多くのところで、箒は人の生死に深くかかわる産神(うぶがみ)の依代、または、産神そのものと考えられています。箒が持つ元来の機能、すなわち、ゴミをはさだしたりはき集めたりする機能が、胎児をこの世に送り出すという出産行為を象徴するのです。箒は現実の世界にあるゴミだけでなく、霊魂まではきだしはき集めるのです。このように、霊魂に関与する箒は、神霊を招くことになります。そのため、箒の周囲を聖なる空間に変えてしまうことになります。

霊魂を媒介として、この世とあの世、生と死の境に存在する箒。そう思えば、先がふわりとふくらんだ形が、不思議なものに見えてきませんか。

カテゴリー

ページトップに戻る