糞石(ふんせき)【館蔵品紹介】

地学担当 両角芳郎

哺乳動物の糞石(左右の長さ20cm)

哺乳動物の糞石(左右の長さ20cm)

ひとくちに化石といっても、じつに様ざまなものがあります。まず思いうかぶのは、アンモナイトや貝の殻、動物の骨や歯、植物の幹や葉などの化石でしょう。これらは生物の体の一部が化石となったものなので、体化石とよばれています。それに対して、動物の足あと、這(は)いあと、棲管(せいかん)(巣穴)、食いあと、排泄物(はいせつぶつ)、植物の根の貫入構造など、生物の生活のあとが化石となって残ったものを生痕(せいこん)化石とよんでいます。卵の殻の化石を生痕化石に舎める人もいます。生痕化石の多くは、生物が生活していたその場所でつくられた化石(現地性化石)であることから、体化石からは知ることのできない古生物の行動や習性についての情報を提供してくれます。

今回紹介するのは、糞石(coprolite)という排泄物の化石です。アメリ力合衆国ワシントン州の第三紀層から見つかったもので、哺乳動物の糞(ふん)の化石だと考えられています。おそらく、草原で草を食べていた大型のケモノの糞が、乾燥気候のもとで乾いて固まり、やがて湖成の堆積物におおわれて、原形をとどめたまま化石になったのでしょう。表面には乾いた際にできたと思われるひび割れが観察できます。もちろん、二次的に酸化鉄の注入をうけて鉱化し、力チン力チンに硬くなっているので、臭いはしません。この標本の分析はしていませんが、一般に糞石は珪素(けいそ)・リン・力ルシウムに富んでいるとのことです。

生痕化石の場合、比較的新しい時代のものでは、現生の生物の生痕と比べることによって、その生痕を残した生物が何であるか見当をつけることが可能です。しかし、古い時代のものになると、すべて絶滅した生物のものなので特定がむずかしくなります。この糞石についても、どんなケモノの糞かはわかっていません。

陸上動物の糞は化石lこなる機会が少ないので、お目にかかることはめったにありませんが、海底に積もった泥の層を注意深く観察すると、いろいろな動物が残したぺレットとよばれる糞粒が無数に見られることがあります。それらの糞化石を調べて、それらの動物がどんな内臓をもち、何を食べていたかを明らかにする研究も行われています。最近では、考古学の発掘においても“トイレ考古学”ととばれる研究手法が生まれ、遺物や文書からはわからなかった古代人の生活様式の解明に古代人の糞が一役買っています。余談ながら、私たちの糞は水洗トイレなどで跡形もなく処理されてしまえば、将来の糞石学の対象にはならないものと安心しておきましよう。
 

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