岩波ジュニア新書89 奈良・京都の古寺めぐり 仏像の見かた【本の紹介】

著作 水野敬三郎


美術工芸担当 大橋俊雄

平成5年11月25日、奈良東大寺の南大門前で、仁王像の落慶法要が行われました。これは鎌倉時代につくられた国宝の仁王像を6年かけて修理し、その完了を記念したものでした。横綱の曙が仁王像の前で土俵入りする姿が、テレビニュースで政送されましたので、ご記憶の万も多いかと思います。そこで今回は、仏像の入門書から一冊選んでご紹介します。

岩波ジュニア新書の『奈良・京都の古寺めぐり』は、青少年むけに書かれた仏像の入門書です。著者は東京芸術大学の教授で、仏像の研究にたずさわっているこの道の第一人者です。やさしい言葉を使って分かりやすい内容になっていますので、仏像の歴史を知りたい人には格好の入門書であるといえます。

以下にこの本の特色を述べてみましよう。まず、取りあげられる仏像はあまり多くありません。それぞれの時代を代表する仏像をしぼって、造られた時代、表現の特色、歴史上の位置づけを、やさしい言葉で分かりやすく述べています。とくに表現についての説明は、やさしく書かれていますが、著者の長年の経験にささえられて読みごたえのある内容になっています。そのため一つの仏像について、じっくりと学び、理解することができます。
またこの本では、作品ごとに話をまとめていますが、その歴史的な説明の部分を通して読んでいくと、飛鳥時代から鎌倉時代までの仏像の流れが要領よく分かります。仏像の歴史がどのように考えられているかは、専門でない人にはむずかしいことですが、著者はもっとも重要な点を、かみく定いて述べていますので大変参考になります。
この本が出されたのは昭和60年ですが、ほかのものとは一味ちがう入門書として今でもさかんに読まれています。
 

カテゴリー

ページトップに戻る