博物館ニューストップページ博物館ニュース015(1994年7月10日発行)画文帯神獣鏡【複製】(015号館蔵品紹介)

画文帯神獣鏡【館蔵品紹介】

考古・保存科学担当 魚島純一

古墳(こふん)には死者とともに武器(ぶき)や装飾品(そうしょくひん)など多くのものが副葬(ふくそう)されます。なかでもほとんどの古墳に必ずといってよいほど副葬されるもののひとつに鏡があります。

鏡といっても現在私たちが普通に目にするようなガラス製の鏡ではなく、丸い板状の金属の一面を磨いてピ力ピ力に仕上げたものです。多くの場合は銅(どう)、錫(すず)、鉛(なまり)などを混ぜ合わせた青銅(せいどう)という金属でつくられているために青銅鏡(せいどうきょう)あるいは銅鏡(どうきょう)とも呼ばれています。
鏡としては使わない裏面には、中央にひもをとおすための鈕(ちゅう)と呼ばれる半球状の突起があり、その周囲にはさまざまな種類の文様(もんよう)や銘文(めいぶん)が描かれています。考古学では、この裏面の文様などで鏡を種類分けしているので、博物館などに展示されるときもこちら側しか見えないように展示されている場合がほとんどで、本来鏡として使われたピ力ピ力の表面を見る機会はほとんどありません。


画文帯神獣鏡(がもんたいしんじゅうきょう)とは、鏡の裏面の文様が神獣(しんじゅう)、すなわち中国の神仙思想(しんせんしそう)にもとづく神像(しんぞう)と獣像(じゅうぞう)の文様が半肉彫りされており、その周囲に絵や文字の帯がめぐっていることから、そのように呼ばれているものです。


今回ご紹介する複製品の原資料は、鳴門市大麻町の萩原(はぎわら)1号墓から出土した鏡と同じ鋳型(いがた)からつくられた鏡(同范鏡(どうはんきょう))、あるいは同じ原型(げんけい)をもとにしてつくられた鏡(同型鏡(どうけいきょう))で、まったく同じ大きさ、同じ文様のいわば兄弟関係にある鏡です。朝鮮半島北部、現在の北朝鮮(きたちょうせん)(朝鮮民主主義人民共和国(ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんきょうわこく))の平壌(ピョンヤン)付近から出土したと伝えられており、慶応義塾大学文学部人類学・考古学教室の所蔵となっています。鳴門市から出土した鏡の兄弟が、遥か離れた朝鮮半島から出土したことはたいへん興味深いことです。
萩原1号墓から出土した鏡の方は、副葬されるときにわざと鏡をバラバラに砕いて副葬したもの(破砕鏡(はさいきょう))で欠損部(けっそんぶ)も多<、全体の文様を見ることはできません。しかし、同じ文様で完全な形を残したこの鏡の文様を細かく調べることで、欠損部の復元(ふくげん)なども可能となります。


また、青銅製の鏡は、普通土の中に埋もれている間に錆(さび)が進んで、全体が青緑色の錆で覆われてしまうことが多いのですが、この資料は現在でも漆黒(しっこく)に輝いており、表面には顔を映すこともできます。資料を傷つけることなく材質を調べることができる蛍光X線分析装置(けいこうエックスせんぶんせきそうち)を使って原資料の材質を分析したところ、錫の含有量が多い、鏡としてはたいへん良質な素材でつくられたものであることがわかりました。
今後、二つの鏡をさらにくわしく調べることによって、二つが同范鏡なのかあるいは同型鏡なのかなど新しいことがわかるようになるかも知れません。

画文帯神獣鏡【複製】

図1 画文帯神獣鏡【複製】

本来の表面【鏡面】

図2 本来の表面【鏡面】

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