四国初の恐竜化石(館蔵品紹介)

地学担当 両角芳郎

立川層から見つかっだイグアノドン科の恐竜の歯の化石(岩石中央の黒い部分)。スケールは1cm

 

日本では、1978年に初めて岩手県岩泉町茂師(もし)の宮古層群から竜脚類の恐竜の上腕骨が発見されて以来、各地の白亜紀層から相次いで恐竜化石が発見されるようになりました。産地は北海道から岩手・福島・群馬・岐阜・富山・石川・福井・福岡・熊本の各県に及んでいます。また、山口県のジユラ紀層からも最近足跡が見つかりました。

徳島県の勝浦川流域には、基盤の中・古生層を不整合におおって前期白亜紀の地層が分布しています。下位から立川(たつかわそう)層・羽ノ浦層・傍示(ほうじ)層・藤川層に区分されていて、植物やアンモナイト、三角貝などの化石を産出することで古くから知られてきた地層です。最下位の立川層は、礫岩・砂岩を主体として泥岩をはさむ地層で、シダ類やソテツ類などの植物化石、ハヤミナやトリゴ二オイデスなどの汽水生二枚貝化石を含むことなどから、河口のデルタのような環境に堆積した地層だと考えられています。もし徳島からも恐竜の化石が見つかるとすれば、それは立川層からだろうと関係者の間ではひそかに期待されていました。そして、その立川層から、ついに恐竜の化石が発見されました。四国からは初めての恐竜化石です。

この化石を発見したのは高知大学の学生(菊池直樹君)で、今年4月に貝化石を調査している時に見つけたそうです。そして、6月に博物館にこの標本を寄贈してくださいました。泥岩に入った草食恐竜の小さな歯の断片でしたが、調べたところ、歯冠(しかん)部の条線の特徴からイグアノドン科の恐竜の歯であることが確認できました。期待されていたこととはいえ、現実に恐竜化石を目の前にしてみると、「よくも見つけたものだ」と発見者の鋭い観察眼と幸運に驚かされます。

この標本は、四国で初めてであるだけでなく、西南日本外帯(中央構造線より南側の地帯)では群馬県中里村の瀬林(せばやし)層に次いで2列目の恐竜化石です。北陸地方に分布する手取(てとり)層群を中心に、内帯からは多数の恐竜化石が見つかっているのに、外側からは非常に少ないのはなぜでしょうか?いずれにしても、この標本は、立川層の堆積時に西南日本の外帯にも恐竜が生息するような陸地が広がっていたことを物語っており、白亜紀前期の日本の古地理や環境、内帯と外帯との関係を考えるひとつの材料を提供したことになります。恐竜化石を含む地層の調査、随伴する化石の収集などをつうじて、第2、第3の恐竜化石が見つかることを期待します。
 

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