Q.百本足の百足(むかで)はいるのでしょうか?【レファレンスQ&A】
動物担当 田辺力
A. ム力デは漢字で百足と書きます。英語ではcentepedeと呼び、これも百本の足という意味です。では本当に百本の足を持つム力デはいるのでしょうか。
この問いに答える前に、しばしム力デの世界をのぞいてみましょう。ム力デは世界に約2800種ほど知られ、大きく5つのグループに分けられます。日本にいるのはそのうちの4つで、オオム力デ類、ジム力デ類、イシム力デ類、ゲジ類です(図1)。
図1 日本に生息するムカデの4つのグループ。
私達を毒牙で咬(か)んで困らせるのはオオム力デ類です(図2)。体長が10cmを超える大型のム力デはこの仲間です。ジム力デ(地百足)類(図3)は落葉土中のやや潜ったところに住んでいる細長いム力デです。イシム力デ(石百足)類は体長14cmほどと小型で、名の通リ石の下などでよくみられ、すばしごく動き回ります。ゲジ類は長い足が特徴で、機動力に優れ、ジャンプして獲物を捕らえることもあります。
図2アオズムカデ。オオムカデ類に属する。徳島県徳島市産
図3ベニジムカデ属の一種。ジムカデ類に属する。徳島県佐那河内村産。足が百本を超えるのはこのジムカデ類だけ。
さて、話しをもとにもどして、4つのグループごとに足の対の数をみてみましょう。イシム力デ類とゲジ類では足の対の数はすべて15対です(幼体ではそれより少ないことがあります)。よって足の数は30本です。オオム力デ類のものは21か23対なので、足の数は42か46本のどちらかです。よって、これら3つのグループでは足の数は百本に遠くおよばないのです。百本足の可能性があるのは残るジム力デ類だけです。
おもしろいことにジム力デ類では種類ごとに、また同じ種類でも一匹ごとに足の対の数が遣うことがあります。ジム力デ類は世界に約1000種以上が知られ、足の対の数には29-191の幅があります。足の数にすると58-382本です。
ここで奇妙なのはム力デの足の対の数はどれもすべて奇数だということです。百本足ということは50対の足を持つことになりますが、50は偶数です。よって、百本足のム力デというのは知られていないのです。自然界とは本当に不思議なものです。
1999年の夏、ポーランドで聞かれた国際多足類会議に参加したとき、ジム力デ類の足の数に関連した発表がいくつかありました。足の研究は人気があるんだなという印象でした。それからしばらくして、その研究のうちのつについての論文が国際的に有名な英国の科学雑誌『ネイチャ-』に掲載されました。人知れず暮らしているム力デ達もようやく科学で脚光を浴びるときがきたのかと、ちょっと嬉しくもあリました。