死滅漂着植物を探す-浜辺で芽生えをみつける楽しみ-【Culture Club】

植物担当 茨木 靖

 浜辺には世界各地から色々なものが流れつきます。そんな浜辺で拾えるものの代表と言えば、やはりヤシの実でしょう。遠い南の国から流れて来たのかと思うと、とても不思議な気がします。流れてくる実には、他にもアダンやモモタマナ(図1)などいろいろなものがあって、たどり着いたところで芽を出すので“海流散布植物(かいりゅうさんぷしょくぶつ)”と呼ばれます。

図1 漂着したモモタマナの実

図1 漂着したモモタマナの実

浜辺でいろいろな種子を拾う

 私は、浜辺に流れつく異国の木の実が好きで拾い集めてきました。ココヤシ、オニガシ、ゴバンノアシ、オムファレアなど四国では見られない珍しいものばかり。調べていくうちにどのようなものが流れてきているのか、だんだんとわかるようになってきました(茨木 2003,茨木・池渕 2004,濵・茨木 2012,濵ら 2013)。


 とは言ってもわかったのは、浜辺に落ちていれば一目でわかる“大きなもの”ばかり。きっと小さな種子は見逃しているに違いありません。そこで、浜辺の種子を砂もろとも篩にかけて調べることにしました。まだまだわからない種子も多いのですが、これで一応調べる方法はわかりました(米田ら 2013:図2)。

図2 小さな植物を調べる様子

図2 小さな植物を調べる様子

 そんなある日、西表島で見慣れない木の実を拾いました。名前もわからずそのままにして、忘れてしまっていましたが、図鑑を見ていてハッとしました。そっくりな図が載っていたのです。それは、東南アジアに生えるカンラン科の樹木の実だったのです。日本では初めて見つかったものなので、“オニカンラン”と名付けました(茨木ら 2021)。

拾った種子は生きているのか?

 こうして漂着種子について色々調べてきましたが、ずっと疑問だったことがあります。それは、“拾った種子は生きているのか”ということです。もしも死んでしまっているのならば、たとえ流れついても芽が出ないので分布を広げる役には立ちません。そこで、拾った種子を植えてみました。植えたのはヒメモダマという沖縄県より南の島々にはえるマメ科の植物です。植えてからしばらくすると、うれしいことに芽が出てきました。この実験から、徳島県に漂着する南方系種子も生きていることが確かめられました(茨木 2013)。


 それでも疑問は残ります。人が植えなくても流れてきた種子は芽を出すことがあるのでしょうか?この様な話をしていたところ、知人が浜辺で発芽したゴバンノアシを持ってきてくれました(成田ら 2012)。続いて、モモタマナやタイワンモダマも発芽しているものが見つかりました(茨木・中西 2020,茨木ら 2022:図3,4)。いずれも沖縄県より南の暖かい所でなければ育たないものばかりです。

図3 浜辺で芽を出していたモモタマナ

図3 浜辺で芽を出していたモモタマナ

図4 浜辺で芽を出していたタイワンモダマ

図4 浜辺で芽を出していたタイワンモダマ

 これまで調べてきたところ、東南アジアやオセアニアなどの熱帯に生える植物の種子が徳島県まで流れつき、しばしば浜辺で発芽していることがわかりました。以前からグンバイヒルガオなど南方の植物が流れついていることは知られていましたが、思っていたよりも多くの植物が芽を出しているようです。
しかし、これらの芽生えは、寒さに弱く冬のうちにほとんど枯れてしまいます。すると、これは一過性の重要ではないできごとということなのでしょうか?

徳島県の自然を彩る、南からやってくる生き物たち

 海の中を見ると、死滅回遊魚と呼ばれる魚たちがいます。南方生まれの、色とりどりの熱帯魚たちは夏の間に黒潮に乗って徳島県までやってきます。そして冬場水温が下がると死んでしまうのです。これが死滅回遊魚です。最近ではナンヨウボウズハゼやホシイッセンヨウジなど、これまで知られていた以上に、多くの南方系の魚たちが徳島県にもやってきていることがわかってきました(井藤ら 2021,井藤ら 2023)。これは漂着種子の芽生えと似ていると言えます。また、徳島県には、カツオやカモなどがやってきます。これらは、県内を通り過ぎるだけかもしれませんが、私たちの暮らしや文化の中にも、しっかりとその存在が根付いています。また、徳島県の気温がもう少し高くなった場合、南方からやってくる植物が冬を越すようになる可能性もあります。そのような意味で、南からやってくるこれらの生き物たちの存在は、徳島県の自然を考える上で重要なのかも知れません。

 ゴバンノアシやモモタマナなど、“死滅漂着植物”を探すのは楽しい遊びです。名も知れぬ遠い島から流れて来て、今ここに芽を出している見たことも無い植物に巡りあう喜びは、まさに“宝探し”の気分です。皆さんも海岸に行ったら珍しい芽生えを探してみてはいかがでしょうか?

徳島には南の生き物がたくさん来ているんだね。
徳島には南の生き物がたくさん来ているんだね。


<引用文献>
濵直大・茨木靖(2012)徳島県立博物館研究報告,(22):17-26.
濵直大ら(2013)徳島県立博物館研究報告,(23):119-121.
茨木靖(2003)漂着物学会会報,(6):1-4.
茨木靖(2013)徳島県立博物館研究報告,(23):131-132.
茨木靖・池渕正明(2004)漂着物学会会報,(12):6.
茨木靖・中西弘樹(2020)漂着物学会誌,18:27-28.
茨木靖ら(2021)漂着物学会誌,19:23-24.
茨木靖ら(2022)漂着物学会誌, 20:39.
井藤大樹ら(2021)Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 15:10–16.
井藤大樹ら(2023)魚類学雑誌(DOI: 10.11369/jji.22–029).
成田愛治ら(2012)漂着物学会誌,10:33-34.
米田稀美ら(2013)徳島県立博物館研究報告,(23):113-117

 

 

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