博物館ニューストップページ博物館ニュース131(2023年6月15日発行)「鳴門わかめ」の伝統的な製法、灰干しワカメとはどのようなものですか?(131号QandA)

「鳴門わかめ」の伝統的な製法、灰干しワカメとはどのようなものですか?【Qandレファレンス】

民俗担当 磯本宏紀

 ワカメは、日本列島や朝鮮半島などでは代表的な食用の海藻です。徳島県産のワカメは「鳴門わかめ」のブランドで知られ、鳴門市域や小松島市域などでは養殖による生産が盛んに行われています。
 8世紀ごろにはワカメと考えられる海藻が採取され、それが阿波国から都の平城宮へ送られていたことがわかっています。ワカメをはじめとした海藻類は、採ってすぐに加工処理をしなければ長期保存ができません。そのため、古くは生ワカメを日干しにしていたと考えられます。

 19世紀初めころ、現在の鳴門市里浦町の前川文太郎(1808~1882)が、灰をまぶして加工する灰干しワカメの製法を開発しました。彼は、讃岐地方で干しワカメを売り歩く行商人でした。

 当時の製法は次のとおりでした。生ワカメの茎を取り除き、葉に草木灰(もくそうばい)を付着させ、縄にかけて4、5日乾燥させ、さらに晴れた日に水で灰を洗い流した後、陰干しして仕上げました。灰干しワカメは、明治時代以降広く流通するようになり、生産者が増えました。

 灰干しワカメが転機を迎えたのは、2000年ごろのことでした。もともとは竈(かまど)や囲炉裏(いろり)など生活のなかで出る草木灰を利用していたのですが、生活様式が変わったことで、加工用の灰を別途仕入れる必要が生じました。しかし、食品加工に使う灰ですので、基準が厳しく、入手困難になっていきました。そのため、鳴門市域の多くのワカメ加工業者は、このころを境に湯通し塩蔵(えんぞう)製法による加工に切り替えていきました。生ワカメを湯通しし、塩をまぶして冷蔵して保管する方法です。

 そんななか、一部の生産者は灰干しに使う灰を活性炭に切り替え、灰干し(炭干し)ワカメの生産を続けています。朝採ってきた生ワカメに灰付け機で活性炭をまぶし(図1)、広げて天日干しします(図2)。1日干した後、乾いたワカメに潮水(しおみず)をかけて炭を落とし、屋内に片付けます。翌日再びワカメを屋外で天日干しし、夕方にはまた屋内に片付けます。この作業を3日ほど繰り返し、天日干しは完了となります。天候に左右され、時間のかかる天日干し作業があるため、湯通し塩蔵製法より手間も時間もかかりますが、現在も灰干し(炭干し)製法を続ける生産者がいます。

図1 灰付け機でワカメに炭をまぶす 2023年3月撮影 鳴門市里浦町

図1 灰付け機でワカメに炭をまぶす
2023年3月撮影 鳴門市里浦町

図2 炭を付けたワカメを天日で干す 2023年3月撮影 鳴門市里浦町
図2 炭を付けたワカメを天日で干す
2023年3月撮影 鳴門市里浦町

 

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