おばけキャベツ!?-レウム・ノビレは温室植物-【CultureClub】
植物担当 茨木靖
右の写真(しゃしん)を見てください(図1)。なんだか変(へん)な植物(しょくぶつ)ですねえ。これはキャベツでしょうか?それとも白菜(はくさい)?いえいえこれはタデの仲間(なかま)のレウム・ノビレ。テレビなどで見たことがあるぞ、という人もいるのでは?ヒマラヤの高い高い山の上に生えている植物で、どちらかというと藍染(あいぞ)めに使う“アイ”とか、あの盛(も)りそばやざるそばのもとになる“ソバ”の親戚(しんせき)というから全(まった)く信(しん)じられません。そこでもう一度レウムの写真をよく見てください(図1)。葉(は)っぱの色に二種類(しゅるい)あるでしょ?下の方は普通(ふつう)の葉っぱ。上の方はなんだか黄色くて半透明(なんとうめい)。実はここが重要(じゅうよう)。上の葉っぱは葉緑素(ようリょくそ)が無くて光合成(こうごうせい)はしない。つまり普通(ふつう)の葉っぱの働(はたらき)きはしません。では、何のためにあるのでしょう?これがこの植物のおもしろいところ なんです。
図1レイム・ノビレ。「高貴なダイオウ」という意味。ダイオウとは漢方薬で有名な「大黄」のこと。ネパール東部からブータン・中国西南部まで分布。
図2レイムの歯(包葉)を取り除いて中を見たところ。太い花序軸に小さな小さな花がたくさんついているのがわかる。中に虫がいることがある。包葉で覆われた花序の温度は外気温に比べて5~15℃も低い、
峠を超える山羊の群。4,000mを超える高い山なのに山羊や羊、それにヤクの放牧が行われていて、さながら牧場
レウムの半透明な葉っぱ(包葉(ほうよう))の働き
この上の半透明の葉っぱを取(と)り除(のぞ)くと中には花がたくさん隠(かく)れています(図2)。この半透明な葉っぱと花とは何か関係(かんけい)があるのでしょうか?実(じつ)はとても深(ふか)い関係があります。これまでにわかっているところではこの葉っぱは花の花粉(かふん)の形成(けいせい)にとても大切(たいせつ)な働(はたらき)きをしているらしいのです。試(ためし)しに花序(かじょ)が大きく伸(の)びてきた頃(ころ)この葉(は)を取(と)り除(のぞ)くと、花粉(かふん)が変な形になったりして異常(いじよう)が起きてしまうのです。こういう現象を「低温障害(ていおんしょうがい)」と言い、イネなどでも知られています。レウム・ノビレの包葉(ほうよう)は花序(かじょ)を包み、外の低温から花序を守ります。 それはまるで大切な花序を温室(おんしつ)で守(まも)っているかのようなので、このような植物を「温室植物(おんしっしょくぶつ)」と言います。また、このレウム・ノビレの包葉(ほうよう)は強(つよ)い紫外線(しがいせん)が花に直接当(ちょくせつあ)たるのを防(ふせ)いでいることもわかってきています。ヒマラヤの高山帯(こうざんたい)は夏が短(みじか)く、風は強く、気温(きおん)なども昼と夜では全く違い植物にとっては厳(きび)しいことばかりです。そんな中で、植物達はさまざまに適応(てきおう)して生きているのですね。
食べられる!レウム・ノビレ。
標高(ひょうこう)4,200m。歩くだけでも苦しいのにこの岩場を登るなんて!と歩くこと2週間(しゅうかん)あまり。灼熱(しゃくねつ)の森からやっとの思いでヒマラヤの高山帯(こうざんたい)に来ました。峠(とうげ)にさしかかるとシェルパ達が何か騒(さわ)いでいます。なに?・・遠くの岩場(いわば)の上で若いシェルパが二人てや大きなキャベツのような物をとっているのが見えます(図3)。これこそまさにレウム・ノビレ!やっと出会えたレウムに感動(かんどう)!その他にも岩場に点々とあるのが見えます。ところがキャンプサイトについてびっくり。なんと先に来ていたポーターさん達がレウムをみんな力レー(図4)にして食べてしまっていたのです。なんでも、レウムはおいしいらしいのです。あーあ、わざわざ日本からこれを見に来たのに…。
図3レイム・ノビレをとってくるシェルパ達。山羊や羊が食べてしまうので、簡単にいけるところには見られない。標高4,000mを超える高い山でも端石をするのも大変なのにシェルパはへっちゃら。
図4カレーを食べるポーター。ネパールではカレーをタルカリと呼んでいる。