千鳥蒔絵鞍 銘 観松斎-江戸時代【館蔵品紹介】

美術工芸担当 大橋俊雄

漆(うるし)を使う工芸は、日本のほか中国、韓国、タイなどアジアにひろく見られます。しかし、器物に漆をぬり金粉をまいて模様をあらわす、蒔絵(まきえ)という技法は日本だけのものです。平安時代には、蒔絵の鞍(くら)や箱が中国への贈り物にされ、桃山時代には、蒔絵の調度品が大量に輸出されました。江戸時代になると、蒔絵の技術はそれまでより一段と精密lこなり、有名な蒔絵師の名前を知られるようになりました。
蒔絵の技法には、平蒔絵(ひらまきえ)、研出蒔絵(とぎだしまきえ)、高蒔絵(たかまきえ)の三種類があります。平蒔絵は、塗面に金粉をまいて模様をあらわし、金粉の部分に漆をぬって粉をかため、これを研いだものです。研出蒔絵は、塗面に金粉をまいて模様をあらわし、つぎに塗画全体lこ漆をぬって金粉をおおい、全体に研ぎをかけて金粉を研ぎ出したものです。高蒔絵は、蒔総の部分を盛り上げて模様を立体的にあらわしたものです。
干鳥蒔絵鞍(ちどりまきえくら)は、鞍の正面と背置に、数羽の千鳥が飛ぶさまを高蒔絵であらわしています。背面の下隅に「観松斎(花押)」の銘を記しています。
観松斎(かんしょうさい)は名前を飯塚桃葉(いいづかとうよう)といい、明和から天明頃の18世紀後半に活躍しました。蜂須賀家に召し抱えられた蒔絵師で、代表作に宇治川蛍蒔絵料紙硯箱(ほたるまきえりょうしすずりばこ)(御物)があります。観松斎銘のある作品を見ますと、銘の書体や作風のちがいから何人か弟子がいたらしく思われます。こうした問題はまだ未解決なので、この鞍も研究資料の一つとして貴重です。
干鳥蒔絵鞍(ちどりまきえくら)

干鳥蒔絵鞍(ちどりまきえくら)

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