博物館ニューストップページ博物館ニュース040(2000年9月16日発行)Q.石を割(わ)った面にシダの葉のような模様(もよう)が・・(040号QandA))

Q.石を割(わ)った面にシダの葉のような模様(もよう)がついていることがありますが、それは化石ですか?【レファレンスQ&A】

地学担当 両角芳郎

A 一見(いっけん)がんじようそうに見える岩石にも、圧力を受けたり、膨張(ぼうちょう)・伸縮(しんしゅく)のくりかえしによって、たくさんの割れ目(節理(せつり))が発達しています。岩石は、こうした割れ目に沿って割れやすくなっています。

サヌカイト質安山岩の節理面に見られるしのぶ石(上:標本全体、 下:左下部分のク ロー ズアップ)

サヌカイト質安山岩の節理面に見られるしのぶ石(上:標本全体、 下:左下部分のク ロー ズアップ)

岩石の割れ目のすき聞には雨水や地下水がしみ込むため、水中に溶けているミネラルが沈殿(ちんでん)します。割れた岩石の表面が褐色に色づいていることが多いのは、酸化鉄(さんかてつ)(褐鉄鉱(かってつこう))の沈殿物が付着しているためです。割れ目に沿って割れた面(節理面(せつりめん))にはまた、シダの葉のような形をした黒色の模様が見られることがあリます(写真)。「しのぶ石」、「樹形石(じゅけいせき)」あるいは「模樹石(もじゅせき)」とよばれているものです。「しのぶ石」とは、形がシノブ科のシダの葉に似ていることからつけられた名前です。

文化の森の野外劇場から知識の森へ上る石段には、板状に割れた火山岩(おそらく香川県産の安山岩(あんざんがん))が使われていますが、以前はこの石にも同様な樹形模様がたくさん見られ、「植物の化石ですか?」という質問を何度も受けたことがあります。造成から10年以上もたったので石の表面にはコケが生え、今ではほとんど見えなくなってしまいました。

それでは、しのぶ石は化石なのでしょうか?化石は大昔の生物の遺骸(いがい)または生活の跡(あと)が残ったものなので、たいていは泥岩(でいがん)や砂岩、凝灰岩(ぎょうかいがん)などの堆積岩(たいせきがん)の中に入っています。マグマが冷えて固まった火成岩(かせいがん)や、もともとの岩石が変化してできた変成岩(へんせいがん)の中には、よほどの例外を除いては入っていません。植物化石の場合は、木の葉などが流されてきて堆積物中に埋もれて化石になるので、地層の中の堆積物の粒子の並びに平行に入っているのが普通です。

こうした化石の一般的な知識を頭に入れて、もう度しのぶ石のついた岩石を観察してみましょう。しのぶ石が見られるのは、岩石の節理面に限られるということにまず気づくと思います。新しく割られた新鮮な面には決してついていません。また節理面なら、一定方向の面だけでなく、様々な方向の面にしのぶ石ができていることにも気づくでしょう。更に、しのぶ石は、火成岩でも堆積岩でも、どんな種類の岩石でも見ることができます。しかし、きれいな樹形模様ができるのは、泥岩や火山岩など、きめの細かい岩石です。

以上の説明でおわかりのように、しのぶ石は化石ではありません。それでは正体は何かというと、マンガンという元素の酸化物、すなわち軟(なん)マンガン鉱(こう)(Mn02)です。正確には、水(すい)マンガン鉱(こう)(MnO(OH))の結晶の中味が軟マンガン鉱に置き換(か)えられたもの(仮晶(かしょう))です。マンガンは重金属の中では鉄に次いで、量が多く、広く分布する元素です。マンガン鉱物自体は近辺(きんぺん)にはそう多くは存在しませんが、マンガン元素は鉄と似た大きさで性質も似ているため、鉄を含む鉱物の中にもわずかながら混じって存在しており、それが溶けだして酸化し、しのぶ石をつくるものと考えられます。しかし、マンガン酸化物が成長する際にどうして樹形状の形をとるかは、詳しくはわかっていません。

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