資料収集保存

Collection and preservation of specimens

 

液浸標本の作製方法について

無脊椎動物の標本作成方法は, 乾燥標本と液浸標本の2種類に大別されます. 一般的に, カニや昆虫などの硬い外骨格をもつ動物や貝殻などの構造は, 乾燥標本として保存します. 一方, クモは体が柔らかく, 乾燥すると分類学上重要な形質が変形してしまうことから, 液浸標本として保存します. クモの固定には, 70-80%エタノールを用います. 無水エタノールを用いると, 脱水によって関節などが必要以上に硬化し, 脆くなってしまいます. 一方, 標本からDNAを抽出したい場合は, クモの体の一部(脚の先端など)を切り取って無水エタノールで固定し, 生殖器などを含む残りの部分を70-80%エタノールで保存します. 

クモの標本作成過程は, 主に一次標本(仮固定)・ソーティング・完成標本の三段階から構成されます(小野 2009, 2010).

・一次標本(仮固定):同日, 同所で採ったクモを一つの瓶にまとめて固定したもの. 採集年月日, 場所, 採集者等を記したラベルを入れておく. クモの体から漏出した水分によってエタノールの濃度が低下するおそれがあるので, 持ち帰った後に一度エタノールを入れ替えた方が良い.

・ソーティング:一次標本をシャーレ等にあけ, 顕微鏡下で種類ごとに整理, 種同定を行う. 

・完成標本:種同定された標本を個別の瓶に分け, 詳細な情報が記載されたラベルを同封する. 

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クモの標本作成の流れ. 左から, 一次標本(仮固定), ソーティング, 完成標本.

 

完成標本は, 液浸標本収蔵庫に配架します. 配架後に最も重要なことは, アルコールの残量を定期的に確認することです. アルコールが揮発し, 標本が乾燥してしまうと, 標本の学術的な価値は大幅に損なわれてしまいます. 蓋の裏側にパッキンが貼られた, 気密性の気密性の高いスクリュー管瓶を用いるのがよいでしょう. また, 複数の小瓶を大型の瓶に入れて保存する「二重液浸」という方法によって, 揮発のリスクを低減させ, 同時にエタノール補充の手間を省くことができます.

 

ラベルについて

液浸標本のラベルは, 有機溶媒(アルコール)による浸食に耐えうるものでなければなりません. したがって, ラベル紙やインクの種類, 印字・印刷方法の検討は極めて重要です (木村 2009). 

・鉛筆による手書き:有機溶媒によって文字が消えるリスクは極めて小さいが, 記入の手間がかかる.

・インクジェットプリンター:手書きよりも遥かに効率よく印字することができるが, 半永久的に文字が残る保証はない.

・熱転写プリンター:印字効率は良く, 印字が脱落しにくいが, インクリボンが高価

 

 

引用文献

木村浩之 (編) 2009. 魚類標本の作製と管理マニュアル. 鹿児島大学総合博物館, 70pp.

小野展嗣 2009. 5-2. 標本の作製と保管. pp.652–654. In: 小野展嗣 (編著) 日本産クモ類. 東海大学出版会. 738pp.

小野展嗣 2010. クモの標本世界. pp.99–108. In: 松浦啓一 (編著). 標本の世界. 東海大学出版会. 124pp.