博物館ニューストップページ博物館ニュース018(1995年4月10日発行)Q.あちこちの山で松が枯れて・・・(018号QandA)

Q.あちこちの山で松が枯れてしまっていますが、この先どうなるのでしょうか。【レファレンスQ&A】

植物担当 鎌田磨人

A.松枯れは、マツノマダラ力ミキリという力ミキリムシが松を食い荒らすから起こると考えられていたこともありましたが、実際には、マツノマダラ力ミキリが媒介する、マツノザイセンチュウという線虫が原因であると今では考えられています。

松の中で繁殖するマツノザイセンチュウは、これまた松の中で幼虫期を過ごすマツノマタラ力ミキリが羽化する時に乗り移って、その松からカミキリムシとともに飛び出します。そして、カミキリムシが他の松を訪れ、その小枝をかじる時にセンチュウが再び松の中にはいって行く、というサイクルで伝播します。そして、その松の樹脂道のなかで増殖して、松を枯らしてしまいます。

このように、直接的な松枯れの原因はセンチュウによるものが多いのですが、それがなぜ近年になって突然に増えたのか、という疑問については未だにはっきりした答えは得られていません。都市化や道路の建設に伴う大気汚染や乾燥によって、感染しやすい弱った松が増えたという説や、プロパンガスなどが普及する前には、松林の植物は燃料などとして頻繁に刈り取られていたために、すでに感染している松が取り除かれていたのに、近年では松林が利用されることがなくなったために感染した松が増えた、という説などもあります。

いずれにしても、多くの松林は“松枯れ病”によってすでに枯れてしまっています。徳島県でも特に吉野川沿いの山地や眉山などではつい10年ほど前まではア力マツ林が続いていましたが、現在ではあまり見ることができなくなりつつあります。

さて、このア力マツ林が枯れてしまうと、木はなくなり、土砂崩れなどの起こりすい裸地化した山になってしまうのでしょうか。実際にはそういう山配は少なそうです。地域差はあるものの、松枯れが起こるような松林の中には、コナラやクヌギ、あるいはアラカシなど、森林を形成できるブナ科の樹木が育っているからです。そのため、たとえ林冠樹であったア力マツが枯れてしまっても、すぐにコナラ林などの雑木林となります。実際、徳島市の眉山などではもうア力マツはほとんどなくなってしまいましたが、すでに立派な雑木林ができあがっています(下図参照)。今後、松林はますます少なくなり、コナラやクヌギ、そしてシイなどからなる広葉樹林になっていくでしょう。

居山口一ブーウェイ周辺の 森林の変化。(左)周囲は松林(1959年〉。 (右)周囲は雑木林(1991年)

居山口一ブーウェイ周辺の 森林の変化。(左)周囲は松林(1959年〉。 (右)周囲は雑木林(1991年)

生態学的な観点からは、それは本来の自然に近い森林への移行過程として見ることができますが、別の見方をすれば、かつては燃料などの採取源として、生活するに欠かせない身近な森林であった松林を、私たちが、必要としなくなり、遠ざけてしまったことの現れでもあるのです。

どのような森林を私たちのまわりに残し、創ってゆくのかは、私たちがどのような生活を望むのかという問題なのです。

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