博物館ニューストップページ博物館ニュース025(1996年12月1日発行)Q.お正月に門松(かどまつ)を立てる・・・(025号QandA)

Q.お正月に門松(かどまつ)を立てるのはなぜですか?【レファレンスQ&A】

民俗担当 庄武憲子

門松(三好郡三加茂町)

門松(三好郡三加茂町)

A松や竹できれいに飾(かざ)られた門松が家々の門口(かどぐち)に立てられていくのをみると、お正月が来るんだなあという気分がします。しかし、この門松はただのお飾りではありません。

年の暮れに山から生木を伐(き)ってきて、それを立てて飾る習(なら)わしは、古くから日本全国の広い地域にわたって行われてきました。これは「松迎え」などという儀式とされています。徳島県内でも、牟岐(むぎ)町で12月20日に松、うらじろ、椎(しい)の木などの「お迎えもん」と呼ばれるものを男子が山へとりにいき、これを前庭にさしたり、納屋(なや)や井戸、臼、持ち船に飾ったりするという風習などありました。このように山から伐ってこられた木は、年神(としがみ)、年徳神(としとくがみ)とよばれる神様が降りる依代(よりしろ)の木であるとされ、この神を迎え祭るというのが、門松をたてる本来の意味と考えられるのです。年神、年徳神は正月が近くなると高い所から降りてきて、人々に幸いをもたらしてくれるという考え方があり、この神には,農耕神や先祖の霊などの性質がうかがえ、その本質はいろいろに解釈されています。

漁船に飾られた松(海部郡牟岐町)。

漁船に飾られた松(海部郡牟岐町)。

あちこちの門松をみてまわりますと、地域や家ごとによって、使われる木やその形には、様々な違いがみられます。各地で松を使わず、楢(なら)、朴(ほお)、栗、榊(さかき)、樒(しきみ)などの木を立てる風習があります。たとえば、西祖谷山(にしいややま)村には言い伝えにより、門松に桧(ひのき)しか使わないきまりのある家がありますし、牟岐町の出羽(てば)島では、大きな椎の木を門口に2本たてるのが習わしであったようです。これらは、もともと門松に、その土地で選ばれた木が使われていたことを示していると思います。

正月にたてる木を門松とするのは、松を「千歳(せんざい)の松」などといい、長寿(ちょうじゅ)を象徴するめでたい木とみなす知識の流行があったためと考えられます。

また、現在よくみかける門松は、竹を斜めにきったものを中央にたて,そのまわりに松などを飾る形式です。この風習は、武田信玄(たけだしんげん)と徳川家康(とくがわいえやす)の両軍が対陣中に詠(よ)みあったという歌、「松(徳川をさす)枯れて竹たぐひなき旦哉(あしたかな)」 「松枯れて竹だ(武田)くびなき旦哉」から、この時代ごろに出てきたものと考えられます。

このお正月には、自分の家や近所の家の門松をちょっと眺(なが)めてみてはいかがでしょうか。何かおもしろいいわれがみつかるかもしれません。

参考文献

民俗学研究所編. 1975.年中行事図説.岩崎美術社.
西角井正慶編. 1958. 年中行事辞典.東京堂.
文化庁文化財保護部編.1970. 正月の行事3:徳島県-三重県.平凡社.

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