博物館ニューストップページ博物館ニュース036(1999年9月16日発行)宍喰の漣痕[複製](036号館蔵品紹介)

宍喰の漣痕[複製]【館蔵品紹介】

地学担当 両角芳郎

博物館の常設展示室入口に、宍喰(ししくい)の漣痕(れんこん)(複製)が展示してあります(図1)。徳島県の最南端、宍喰町宍喰字古目(こめ)の竹ヶ島に通じる旧国道沿いにある、国指定の天然記念物(1979年11月26日指定)として有名な「宍喰浦(ししくいうら)の化石漣痕(かせきれんこん)」の複製 (レプリ力)です。

図1 展示室の宍喰の漣痕(複製)。

図1 展示室の宍喰の漣痕(複製)。

漣痕は、砂岩層の表面にみられる規則的な峰(みね)と谷からなる構造です。水流によって砂が運ばれて 堆積するとき、リップル斜交葉理(しゃこうようり)とよばれる波状の砂粒の配列をつくることがあります。砂岩層の上面に残されたリップル斜交葉理がつくる凹凸、それが漣痕で、リップルまたはリップルマークともよばれます。

漣痕の「漣」は「さざ波」を連想させるため、漣痕は潮間帯(ちょうかんたい)や浅い海底でつくられるものと思われがちですが、河床や、浅海から5,000mをこえる深海に至るまでの海底など、いろいろな環境で形成されます。砂丘の表面にできる風紋(ふうもん)(ウインドリップル)も、リップルマークの一種です。

宍喰の漣痕は、砂岩泥岩互層(ごそう)の厚さ10数cmの1枚の砂岩層の上面に発達しています。海底では水深や流速によって様々な形態のリップルがつくられますが、宍喰の漣痕は、波長約30cm・波高数cmの非対称な断面をもっ舌状(ぜつじよう)の凹凸が、魚のウロコ状に配列しており、一方向の流れによってつくられた舌状力レントリップルとよばれる形態のものです。漣痕は化石ではないので、「漣痕化石」とか「化石漣痕」というよび方は当を得たものではあリません。

宍喰から竹ヶ島にかけての海岸沿いには、砂岩泥岩互層がよく露出しており、天然記念物に指定されたもの以外にも、たくさんの漣痕を観察することができます。この帯に分布する地層に含まれるナンノプランクトンや放散虫(ほうさんちゅう)化石の最近の研究から、これらの地層の年代は古第三紀始新世(こだいさんきししんせい)中期(4,000~5,000万年前)であることが明らかにされました。また、当時の海の底棲(ていせい)生物が残した生痕(せいこん)化石からは、漣痕周辺の地層は2,000mをこえる深海で形成されたものだと考えられています。

ところで、漣痕のレプリ力製作は、それが国指定の天然記念物であることから、文化庁の許可を得て実施しました。大きすぎて漣痕全体を型取りすることは無理なので、右下の5×6mの範囲を型取りしてレプリ力をつくりました(図2、3)。

図2 漣痕の型取り。表面のほこりやコケを除去したのち、シリコンゴムを塗り重ねて型取りする。

図2 漣痕の型取り。表面のほこりやコケを除去したのち、シリコンゴムを塗り重ねて型取りする。

図3レプリカの着色。工事に持ち帰ったシリコンゴム方にポリエステル樹脂を注入して声明し、実物に合わせて着色する。

図3レプリカの着色。工事に持ち帰ったシリコンゴム方にポリエステル樹脂を注入して声明し、実物に合わせて着色する。

宍喰の漣痕は野外で風雨にさらされているため、年々風化が進んでいます。上部は松の根が地層の間に入り込んで地層をうかせ、崩落(ほうらく)しかかっています。この天然記念物を管理する宍喰町からも尋ねられたことがありますが、残念ながら、今のところ、こうした地質露頭を現地保存する有効な方法がないのが実状です。もし将来、漣痕の傷(いた)みがひどくなった場合、博物館に展示しであるレプリ力が、その元の姿を留める唯一の資料ということになるかもしれません。

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