博物館ニューストップページ博物館ニュース126(2022年3月25日発行)阿讃山地産のノストセラス科アンモナイトの新種(126号情報BOX)】

阿讃山地産のノストセラス科アンモナイトの新種【情報BOX】

地学担当 辻野泰之

徳島県と香川県の県境にある阿讃山地(あさんさんち)(讃岐山脈(さぬきさんみゃく)は、和泉層群(いずみそうぐん)とよばれる白亜紀(はくあき)後期(約8000万~ 7000万年前)の地層でできており、二枚貝やアンモナイト、海生爬虫類(かいせはちゅうるい)などの化石が産出します(図1)。特に、殻(から)が塔(とう)状に巻くノストセラス科アンモナイト(異常巻きアンモナイト(いじょうまきあんもないっと)のグループ)が、よく産出することが知られています。当館にも、香川県の化石愛好家である黒田武志(くどだたけし)氏や白井憲治(しらいけんじ)し氏から寄贈を受けた阿讃山地産のノストセラス科アンモナイトが多数収蔵されています。2007年に発行された当館の博物館ニュースNo.66においても、当時、館長であった両角芳郎(もどずみよしろう)氏が、「阿讃山地から産出するノストセラス科アンモナイト」というタイトルで、これらのアンモナイトを紹介し、その研究の必要性を指摘していました。

図1:和泉層群の分布(茶色)と主な化石産地(赤色)

図1:和泉層群の分布(茶色)と主な化石産地(赤色)

しかし、阿讃山地産のノストセラス科アンモナイトについて研究途中であった両角氏が博物館を定年退職したこともあり、長らく、これらのアンモナイトは、研究されてきませんでした。その後、2015年に香川県の化石愛好家である金澤芳廣(かなざわよしいひろ)氏が、大阪市立自然史博物館にノストセラス科アンモナイトを含む阿讃山地産の化石を多数寄贈したこともあり、阿讃山地産のノストセラス科アンモナイトについて、より詳細な研究が可能になりました。

このことが契機となり、ノストセラス科アンモナイトの専門家である御前明洋(みさきあきひろ)氏(北九州市立自然史・歴史博物館)と筆者が、共同でこれらのアンモナイトの分類について再検討を行いました。その結果、香川県東かがわ市黒川(くろかわ)周辺で産出するノストセラス科アンモナイトは、新種であることが分かり、2021年に日本古生物学会の学術誌に論文が掲載されました。新種の名前は、ディディモセラス・モロズミイ(Didymoceras morozumii)とし、これまで和泉層群産アンモナイトの研究に尽力されてきた両角氏に因(ちな)んで、命名されました(図2)。阿讃山地東部や鳴門(なると)と淡路島(あわじしま)南西部においても、ディディモセラス・モロズミイと殻装飾(からしょうしょく)や殻の巻きが似ているディディモセラス・アワジエンゼやプラビトセラス・シグモイダーレといったノストセラス科アンモナイトが産出します。これらは、ディディモセラス・モロズミイを先祖種(せんぞしゅ)とし、その後、これらの種に進化していったと考えられます(図3)。

図2:ディディモセラス・モロズミイ(Didymoceras morozumii)のホロタイプ標本(徳島県立博物館蔵) スケール:1㎝

図2:ディディモセラス・モロズミイ(Didymoceras morozumii)のホロタイプ標本(徳島県立博物館蔵) スケール:1㎝

 

図3:阿讃山地や鳴門、淡路島南西部産のノストセラス科アンモナイトの進化

図3:阿讃山地や鳴門、淡路島南西部産のノストセラス科アンモナイトの進化

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