博物館ニューストップページ博物館ニュース135(2024年6月15日発行)徳島県勝浦町の恐竜化石(135号CultureClub)

徳島県勝浦町の恐竜化石【CultureClub】

地学担当 小布施彰太

はじめに

当館を中心とする研究チームは、2018年から現在まで継続して勝浦町で恐竜化石の発掘調査 を 行 っ て い ま す。 そ の 発 見 史 や 新 着 情 報 については、これまでも本誌で紹介してきました(No.129,132など)。ところで、勝浦町の恐竜化石の歴史は、1994年に発見されたイグアノドン類の歯は化石(図1左)に始まり、今年はそれから30周年という節目の年にあたります。この機会に、これまで勝浦町で発見された恐竜化石を振り返ってみたいと思います。

恐竜化石が産出する物部川層群立川層(ものべがわそうぐんたつかわそう)は約1億3000万年前(白亜紀(白亜紀)前期)の地層で、日本の主要な恐竜化石の産地の中では、時代的に古いという特徴があります。2023年の調査では新たに3点が発見され、勝浦町産の恐竜化石は総計で27点となりました。発見されている恐竜の種類としては、鳥脚類(ちょうきゃくるい)、竜脚類(りゅうきゃくるい)、そして獣脚類(じゅうきゃくるい)の3つのグループに分けられます。

鳥脚類の化石

1994年に発見されたイグアノドン類の歯化石はこのグループのものです。勝浦町で地質調査を行っていた学生が発見したこの化石は、歯冠(しかん)の先端部分が欠けていますが、イグアノドン類の歯に見られるダイヤモンド型をしています(図1左)。その他の細かい特徴から、上あごの歯であると考えられています。鳥脚類の化石は発掘調査が始まった2018年以降、発見が相次いでいます。2022年には、発掘現場の岩石を使った化石発掘体験の行事において、参加者の板野町在住の親子が鳥脚類の歯化石を発見しました(図1右)。この歯は、歯冠の先端部分が残されており、縁(ふち)の弱いギザギザや筋状(すじじょう)の突起などが見られます。

歯以外にも、2021年の調査においてイグアノドン類の尾椎(びつい・尻尾(しっぽ)の骨)が発見されています(図2)。尻尾の真ん中よりやや後ろあたりに位置する骨で、その大きさから全長6mを超える個体であったと考えられています。その他に、勝浦町からは骨質化(こつしつか)した腱(けん)の化石も複数点、発見されています。腱の骨質化は鳥脚類や角竜類(つのりゅうるい)などの一部の恐竜において知られていますが、勝浦町からはまだ角竜類の化石は発見されていないため、現時点では勝浦町の腱化石は鳥脚類のものである可能性が高いと思われます。

図1 左:イグアノドン類の歯化石(1994年発見)右:鳥脚類の歯化石(2022年発見)

図2 イグアノドン類の尾椎化石(2021年発見)

 

竜脚類の化石

勝浦町からは、竜脚類の中でも特にティタノサウルス形類(けいるい)というグループの化石が発見されています。2016年に阿南市在住の化石愛好家親子が発見したティタノサウルス形類の歯化石は、徳島県で2例目の恐竜化石でした(図3)。発見された歯化石は、先端がヘラ状になっており、あごの上下の歯が擦(す)りあう部分には摩耗(まもう)した痕(あと)が見られます。その特徴から、上あごの左側か、下あごの右側に生えていた歯とわかります。発掘調査が始まってからもティタノサウルス形類の歯化石は発見され続けており、寄贈されたものを含めると全部で11点になります。発見点数は多いですが、歯以外の骨などの化石はまだ発見されていません。

図3ティタノサウルス刑類の歯化石

獣脚類の化石

図4 左上:獣脚類の歯化石(2019年発見)左下:獣脚類の歯化石(2023年発見)右:獣脚類の脛骨化石(2018年発見)

肉食恐竜である獣脚類の化石は、発掘調査が始まったことで初めて発見されました。2019年の調査で発見された歯の化石は、保存状態がとても良く、歯全体の形が残されています(図4左上)。歯は先端が鋭く尖
とがり、縁には肉を切り裂(さ)くための刻(きざ)み(鋸歯(ぎょし))を持っています。2023年の調査で発見された歯化石には、2019年に発見されたものと異なる特徴が見られます(図4左下)。歯冠部は全体的に細長く、強く湾曲(わんきょく)し、鋸歯の形状も異なるものとなっています。これらの特徴の異なる2タイプの歯化石は、複数種の獣脚類の存在を示している可能性があり、今後詳しく調べていく予定です。
歯以外の化石も発見されています。その1つが脛骨(けいこつ)(すねの骨)の化石です(図4右)。骨の内部は空洞になっていますが、これは獣脚類によくみられる特徴で、中空(ちゅうくう)の骨で骨格を構成することで、体の軽量化がなされていました。骨の長さは20cm弱で、一般的なプロポーションの獣脚類にあてはめると全長2m前後になりますが、小型の獣脚類であったのか、中型~大型獣脚類の子どもであったのかはわかっていません。

おわりに

中四国地方では最大規模の恐竜化石の産地となった勝浦町ですが、調査を続けることでさらなる化石の発見が期待できます。また、発掘調査では恐竜化石以外にも、ワニやカメ、魚などの様々な化石が発見されており、当時の勝浦町の多様な生物相(せいぶつそう)が明らかになってきています。当館は勝浦町の発掘調査によって、地質時代の徳島を探究し、日本の古生物学にも貢献していきたいと思います。

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