カズハゴンドウ【館蔵品紹介】

動物担当 佐藤陽一

クジラ類を大きく分けると、ヒゲクジラの仲間とハクジラの仲間とがいますが、ここで紹介する力ズハゴンドウは、マッコウクジラやバンドウイル力などと同じハクジラの仲間です。

図1 カズハゴンドウのレプリカ

図1 カズハゴンドウのレプリカ

 

写真の個体(図1~3)は、1993年9月6日に徳島県の小松島港内に死んで漂っていた体長1.8メートルのもので、体の表面に傷もほとんどなく、とても新鮮な状態でした。発見される4、5日前からこの付近をイル力が泳いでいるのを地元の漁師さんが目撃していたとのことですが、たぶん同一個体なのでしょう。死体が発見されるすこし前に台風が通過していることから、嵐の中で迷って港内に入り込んたあと、力尽きて死んでしまったのかもしれません。

図2 カズハゴンドウの骨格標本

図2 カズハゴンドウの骨格標本


さて、日本周辺には「ゴンドウクジラ」と名のつくクジラが5種います。コビレゴンドウ、オキゴンドウ、ユメゴンドウ、力ズハゴンドウ、そしてハナゴンドウがそれで、いずれもマイルカ科に含まれます。しかし、これらの5種がマイル力科の中でゴンドウクジラ類というまとまったグループを作っているかというとそうではなく、実はすべて別々のグループに含まれます。動物分類の最小単位は種(または亜種)ですが、類縁の近い種をまとめて属というグループを作ります。先のゴンドウクジラはみな別々の属に所属しています。これは、魚で言えば、類縁がまったく違うのに◯◯ダイとか◯◯イワシと呼ぶ魚が多いのと同じで、たぶん頭の丸っこい、比較的小型のハクジラ類をゴンドウクジラと呼ぶことにしたのでしょう。


力ズハゴンドウは、ゴンドウクジラの中では小型で、体長2.8メートル、体重275キロほどになります。コビレゴンドウとオキゴンドウが、体長5メートル、体重2トンを越えるのに対し、他の種は力ズハゴンドつくらいの大きさにしかなりません。


力ズハゴンドウは「数歯…」というように、アゴにたくさんの歯をもつのが特徴で、上アゴ・下アゴとも左右にそれぞれ20本以上の歯があります。写真の個体では、高さ10ミリ(歯根部を除く)ほどの円すい形の鋭い歯が、上アゴに22~23本、下アゴlこ22本ありました(図3)。他のゴンドウクジラはこれより歯の数は少なく、もっとも少ないハナゴンドウでは上アゴには歯はなく、下アゴに2~7本の歯があるたけです。

図3 カズハゴンドウの歯


力ズハゴンドウは、全世界の熱帯~亜熱帯域の外洋に分布する種で、日本周辺ではおもに九州より南に生息しています。徳島県沿岸での記録は、今回が初めてですが、しかし、もっと北の茨城県の海岸に数十頭が打上がった記録もあります。


写真は、実物から型どりして作つた全身のレプリ力(図1)と、骨格標本(図2~3)です。材料が新鮮だったのに、なぜ剥製でなくレプリカなのかと疑問に思う方もいるかもしれませんが、クジラの仲間は皮膚に脂が多すぎて剥製にはできないのです。そのため、実物から型取りして樹脂で体を作り、表面に色を塗り、生きていたときの状態を再現しています。骨格は実物を取り出して組み立てたものです。

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