博物館ニューストップページ博物館ニュース022(1996年3月20日発行)力ラスアゲハの性モザイク個体(022号館蔵品紹介)

力ラスアゲハの性モザイク個体【所蔵作品紹介】

動物担当(昆虫) 大原賢二

これは力ラスアゲハのオスメス標本です!

力ラスアゲハのオスメス標本

オスメス標本?写真をよく見ていただくと、左右の後麹(後ろバネ)の色と模様が違うことに気がつかれるでしょう。この個体はほとんどオスなのですが、右の後ろバネだけはメスの特徴がそのまま現れています。

この標本は、鴨島養護学校の横内靖彦さんが育てた中の1匹で、一緒にこの蝶を育ててくれた大塚義樹先生を通じて、当博物館に寄贈されたものです。1995年5月に、大塚先生が美馬郡一宇村のつづろ堂で採集したメスに卵を産ませ、それを横内さんが一生懸命に育てたところ、7月7日にこの蝶が親になりました。この蝶が、オスとメスが混ざって現れた個体であると気がつき、これは貴重なものだからと、博物館ヘ寄贈して下さいました。

昆虫にはこの標本のように、1つの個体にオスの部分とメスの部分が混ざって現れることがあります。極端な場合は、オスとメスが右と左に半分ずつ現れる場合があります(ニュース6号に左右での雌雄型(しゆうがた)を紹介してあリます)。

ふつう、卵が受精(じゅせい)した時には、性染色体によってオスかメスのどちらか一方の性に決まって発生していくのですが、その一部が何らかの異常で、決まっていたものとは逆の性になってしまい、そのまま発生を続けていったためこのような現象が生じたと考えられています。しかし、このような例はきわめて少なく、その仕組みもまだはっきりとは解明されていません。

この標本では、右後ろバネがメスであると書きましたが、正確にはそのように単純ではなく、そのほかの部分にも少しずつですが、オスの形質の中にメスの形質が混じり込んでいます。まさに性モザイク個体なのです。左右の前バネには、オスにしかない性標とよばれるビロード状の毛を持ち、左の後ろバネの外側に近い部分には、青緑色の細い帯状の紋を持つので、オスと考えられます。しかし、右の後ろバネの紋は赤色の半月状で、これはメスにしか見られない斑紋(はんもん)です。また、前バネの中央部付近から先端部にかけて、あちこちに黄色みの強い鱗粉が細い帯状に入っていますが、これはメスに表れる特徴で、オスではほとんどが青緑色の鱗粉(りんぶん)ですので、前バネにもあちこちメスの形質が混じり込んでいることがわかります。

このような標本はなかなかお目にかかることができない貴重なものです。

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